第39話 気になっていること
「一組の男女が持って行きました」
ノーバートが、フロイドの質問に答える。すると、彼は『……そう』と呟いたあと、さらに質問を重ねた。
『ゲームに参加したのはどっち?』
「女です。まあ、それなりに操作はあったようですが……」
最後に女と戦った者が、彼女が勝つようにリブームの展開を操作したという報告を受けている。ゲームの進行を監視していた者たちが、傍で見ていてオブシディアンの残党である可能性があると判断したからだろう。
『そうか。他に分かったことはあるかな?』
「他に、ですか?」
ノーバートは顎に手を当てて考える。
『些細なことでもいいんだ。分かっていることがあれば教えてほしい。こちらの判断材料にしたいからね』
フロイドに言われ、ノーバートは「そういえば」と先程部屋に来たアベルの話をした。
「追跡班の中で、兄弟が馬車を下りたので、馬を貸してほしいと言いに来た者たちがいましたよ」
『馬車を下りた……?』
フロイドが驚いた声で聞き返した。
「ええ」
『なるほど……』
するとそう言ったきり彼は口を閉ざしてしまう。
ノーバートはそれに合わせて暫く黙っていたが、電話にしては長かったため、通話が繋がっていることを確認する上で自分から沈黙を破った。
「あの……もしもし、フロイドさま? どうかなさいましたか?」
『ああ、すまない。……なあ、ノーバート』
「はい」
『馬を借りに来た者たちがどこへ向かうか確認したか?』
「え? あ、いいえ……、申し訳ございません。その辺りのことは追跡する者に任せているので、聞いておりませんでした」
『そうか……』
フロイドが落胆したふうに言う。
ノーバートは何かいい方法がないかとぐるぐると考える。ここでいい案があれば、自分の出世が有利になるかもしれないし、優遇処置にもいい影響を与えてくれると思ったからだ。
そしてあることを彼は思い付く。
「フロイドさま、私は聞いておりませんが、もしかすると馬丁なら知っているかもしれません」
『馬丁?』
「スビリウスの馬を貸せと言って来たので、そこで行き先を聞くかと」
フロイドが嬉しそうな声で返答をした。
『そうか。それなら聞いてもらっていいだろうか?』
「分かりました。確認してまいります。では、後ほど折り返し致しますので、一度切りますね」
『ああ、待っているよ』
☆
そのころ、できるだけ速足で馬を走らせていたイグマンとエレインは、セレレインの森へ足を踏み入れていた。
「蹄の跡があります。真新しいです」
馬を下り、地面をランプを翳したエレインの報告に、イグマンはうなずく。
「間違いなく彼らのものだろうな。しかし、これほどはっきりと残しておくとは……。抜けているのか、それともこちらを試しているのか……」
「どういうことです?」
小首を傾げ上司を振り返る。すると、イグマンは顎を撫でながらうーんと唸った。
「いや、男五人を一人で戦闘不能にしているやつが、こういうことを怠るかと思ってな」
「足跡を消すことですか? ですが、この暗がりでそれをやるのも大変かと思いますが……」
エレインに指摘され、イグマンは間を置いてうなずいた。
「……それも一理ある」
それに対し、エレインはきゅっと眉を寄せる。いつものイグマンであれば、はっきりと判断するのに、何故か今日は慎重かつ消極的だ。
「さっきから思っているんですけど」
エレインはイグマンをじっと見つめる。
「うん?」
「なんだか、イグマンさまらしくないと思うんですよ」
「どこが?」
何を言われるのだろうと構えたイグマンだったが、「普通はこんなに慎重にならないでしょう」というエレインの言葉にふっと笑う。
「なんだそんなことか」
「そんなこととはなんですか。一応、心配しているんですよ!」
しかし、エレインの心配はイグマンの「しっ」という「静かにしろ」という合図で台無しになる。
「また子ども扱いですか」
「そうじゃなくて、声が大きい。それに俺は、普段からこれくらい慎重だ」
「そうですか? でも、判断の早さがいつもよりも遅いというか、何というか……」
「失礼な奴だ」
イグマンはため息まじりに呟く。
「上司思いの部下と言ってください」
小さく胸をそらして言う部下を見て、イグマンは軽く彼の頭をはたいた。
「痛っ」
「まあ、確かにいつもよりは追跡に気は使っている」
「何故です?」
「借馬屋にいた五人全員が、女と戦って負けたというのが気になっているんだ」




