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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第二章

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第35話 アベルとヨハン

(銃だけじゃない。アレクシスは馬術や剣術はもちろん、武術も叩き込まれていたし、戦術の勉強もさせられていた)


 ソフィアは子どものころにアレクシスと一緒に過ごした時期があり、そのとき彼と共に色んなことを学ばされた。拳銃もその一つである。

 そのため、ソフィアは貴族というのは自分の身を守るために、相当な訓練を受けないといけないものだと思っていたのだ。


「『銃を持てば、銃を持つ相手を呼ぶ』を避けたかったのか……」


 ソフィアはそう呟いた。

「戦う武器があることで、戦いを引き寄せてしまうことがある」という意味のことわざである。銃の生産が盛んになったことで国の防衛力は上がったが、その分、市民も手に入れやすくなったことで、小さないざこざが大けがをするほどに事が大きくなりやすくなってしまった。


 そのためこの諺は、セルディア王国の状況を嘆いた言葉でもあり、問題となるものを手放せということを暗に示している。


 ジェレミア伯爵はもしかすると、息子たちに武器を持ってほしくなかったのかもしれない。


 しかし、人というのは一度強い道具を手にしたら簡単には手放せないものだ。


 相手がどう出るか分からないから、いつだって自分よりも相手に先に武器を手放させようとする。特に人々にとって悪にしかならないようなことを平気でする者たちは、最後まで武器を手放すことはないだろう。


 だからこそ彼らの手から武器を手放させるためには、誰かが介入して力尽くで奪い取るか、破壊するしかない。

 ジェレミア伯爵は破壊する側である。そして国のためを思っての行動だったのだろう。

 だがそのせいで、息子たちがとばっちりを食らってしまった。今の状況を見ると、皮肉としか言いようがない。


「……?」


 ユーインはソフィアの言っている意図が分からず、小首を傾げていた。ソフィアは手を無造作に振って、今の話をかき消すようなしぐさをする。


「いいんだ、気にしなくていい。それより、そろそろ出発しよう。次の目的地まで行けばもう少し落ち着ける」


 ソフィアがそう言うと、他の三人も立ち上がり間もなく出発するのだった。


     ☆


 ソフィアたちがセレレインの森を通っているころ、イグマンのもう二人の部下が馬車で劇場まで戻ってきていたところだった。


 どちらも目深にフード付きのマントを身に着けていたが、この状態で会場を出入りするのは不審に思われるので、それらを脱ぎ、さらに顔を全て覆う真っ白な仮面を身に着けてから馬車を下りる。


 二人のうち一人は背が高く、もう一人は彼よりも頭一つ小さい。


 彼らは黒いスイーヴィル(=スーツのこと)を身にまとって、背の低いほうが前を歩いて劇場の中へ入って行く。


 会場の近くの廊下を通ると、人々のざわめき声が聞こえてきた。二年ぶりということもあり盛り上がっているようだが、特に気にすることなく二人は奥の部屋まで向かった。


 人気のない薄暗い部屋の前まで来ると、背の低い青年が「三回、二回、三回」という変わった扉の叩き方をする。


 すると部屋の扉が開かれ、中にいる人物が「入れ」と言った。


「失礼いたします」


 青年二人が入ると、扉を開けてくれた屈強な男が代わりに外に出る。話をしている間に外の見張りをするためだ。


 部屋の中央では、ふっくらした体格の男が、ガラス細工でできた電気を使った照明器具で照らされた重厚な机の前で書類を見ていた。

 だが、二人が入ってきたことで顔を上げる。ひげをきれいに整え左右均一に伸ばし、肌も艶やかで、いかにも豊かな貴族らしい風体の男だ。


 彼の名は、ノーバート・オルディガ。爵位は伯爵位である。


 ノーバートはスビリウスの中で中間層に所属し、オウルス・クロウを直接運営する一員で、今回からイグマンを含めた「追跡班」のまとめ役を任されている。


 各々挨拶だけはしているので、ノーバートは顔と誰が上司で、誰が部下であることは把握している。


 しかし二人と彼が直接会話をするのはこれが初めてだった。


 ノーバートは二人に「仮面を取れ」と命令した。

 彼らはそれに従って仮面を取り、自分の所属と名を名乗る。


「イグマンの部下、アベル・セシリエでございます」


「同じく、ヨハン・クオールズでございます」


 背の低いアベルが先に挨拶をすると、それに続けて背の高いほうのヨハンが答える。


「で、こんな忙しいときに、何の用だ?」


 ノーバートが低い声で面倒くさそうに尋ねると、アベルは青い瞳で彼を見返し、イグマンに言われていた用件を口にした。


「現在追跡中の兄弟の件に関しまして、馬が必要になりましたので手配していただきたくまいりました」

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