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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第二章

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第34話 油断と拳銃

 馬の世話が終わると、ソフィアはアレクシスたちがいる木の元へ行く。

 持っていた鉄のこんわきはさみ、水を飲んだり、ジヨル(=デーツのような食感と味がするもの)や、ツリック(=カシューナッツのような食感と味のナッツ類)を頬張ほおばった。

 

「レイグス、後ろはどうなっていると思う?」


 追手のことを言っているのだろう。ソフィアは口に入れていたジヨルを飲み込むと、「付いてきているはずだよ」と答えた。


「『はず』ってことは、距離が遠いのか?」


「私が感じられるところにはいない」


 ソフィアがそう言うと、アレクシスはほっとした表情を浮かべる。


「そうか」


「私たちが馬に乗り換えるなんて考えていなかっただろうから、調達に多少時間はかかっているのだと思う。でも、じきに追いつくだろう。借馬屋の主人にも、特に時間稼ぎを頼んでいないんだろう?」


「主人は申し出てくれたけどね。でも、巻き込んでしまってはいけないから」


 ソフィアはふっと笑って「君らしいね」と言って、言葉を続けた。


「私たちを追ってくる者たちがどれくらいいるのか分からない。だが、馬の調達で失った時間も、こっちが常歩なみあしで進んでいる限り詰めてくるだろうから、下手をすれば森の分かれ道の辺りで追いつかれるよ」


 アレクシスがきゅっと眉を寄せる。


「こんなに暗いのに、速足はやあし駈足かけあしで走れるものなのか? 相手がこの森の道を分かっているなら分からないでもないが……、いや、分かっていても難しいんじゃないか?」


 馬の歩き方は常歩、速足、駈足とあり、常歩より速足が速く、速足よりも駈足が速い。

 アレクシスが言うように、馬は夜目がきくとはいえ月もない夜に速度を出して走るのはさすがに厳しい。ソフィアたちもその難しさを感じているが、それは相手も同じであると彼は言いたいのだろう。


「無論、簡単なことじゃない」


「だったら――」


 言いかけたアレクシスの言葉に被せるように、ソフィアは自分の考えを説明する。


「こっちは追われているほうなんだ。相手を甘く見ないほうがいい。君は『あっちだって私たちのことを知らないじゃないか』と言うかもしれないが、少なくともユーインとアルフィがいることは知っている」


 要するに、足手まといがいるということは分かっている。


「そこをねらってくるということか……。だが逆に言えば、あっちは油断しているということにならないか?」


 言葉の裏に潜ませた意味に気づいたアレクシスがさらに質問する。

 確かに、弱いところを最初から狙おうとしているようでは、油断しているともいえるかもしれない。

 だが、それとこれとは話は別である。


「油断しているなら油断させておけばいい」


「じゃあ、仮に追いつかれたときはどう対処するつもりだ? あっちは拳銃を持っているだろう? 後ろから撃たれたらどうする……あ、そうだ! 借馬屋でも銃声が聞こえたが、まさか相手の拳銃を奪ったんじゃないだろうな」


 人聞きの悪いことを言うなと思いながら、ソフィアは「借りたんだ」とぶっきら棒に答える。


「同じようなものだろう」


「使ったが元の場所に戻して来たから、借りただけだ」


 ソフィアは至って真面目に答えていると、二人の会話にユーインが不思議そうに尋ねた。


「どうして置いてきたんですか?」


 借馬屋で、ソフィアが拳銃を持っていない話を聞いていたからだろう。貰ったほうがいいと思ったのかもしれない。


「持ってきても仕方がないのさ。弾を使い切ったときに詰め替えるものを持っていないしね」


 すると彼はアレクシスのほうをちらとだけ見る。


「ジェームスさんは、詰める弾を持っているのでは?」


 ユーインは、「アレクシスは拳銃を持っているため、当然弾も用意してあるはず」と考えたのだろう。しかし、弾があるだけでは不十分だ。


「いい予想だが、拳銃の種類によって使える弾が違うから、使えるものがなければ持っていても意味がないのさ」


 ユーインはそのことを知らなかったようで、目を丸くした。


「そうなんですね」


「射撃の訓練は受けたことは?」


 ソフィアがふと尋ねると、ユーインは首を横に振った。


「ありません」


「剣術は?」


「ちょっとだけはありますけど、そんなに練習はしたことはないです」


「……そうか」


 ソフィアは少し意外に思った。

 同じ貴族だが、アレクシスはユーインくらいのころから拳銃の構造を学ばされていたので、どこの家もそうなのだと思い込んでいたからである。

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