表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇夜の護衛  作者: 彩霞
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/85

第30話 北西

「警官と救急看護はどうでしたか?」


 エレインが尋ねると、イグマンはぽりぽりと頭をいた。


「すでに借馬屋の主人が連絡を入れたらしい」


「え? 意外ですね」


 馬を借りていった男女のうち、女がここで暴れていったことを考えると、警官を呼んだらあっちが追われることも考えられる。

 そのため、相手は借馬屋しゃくばやの主人と結託けったくして、連絡するのを遅らせていると思っていたのだ。


「そうだな。お陰で警官たちが来るのも予想より早いはずだ。銃声で気づいた市民もいるだろうが、警官たちが集まれば野次馬が集まって来る。——だから動きにくくなる前に、さっさとここを出るぞ」


「連中は?」


「すでに北西に向けて出発したらしい。借馬屋の主人がそう言っていた」


 借馬屋の主人は、自分の馬を回収しに行くため、どこの駅まで使うかを客に聞く。主人がそのことを話したと言うことは、イグマンがいくらか心付けを渡したに違いない。


「北西? てっきり西にあるリグロウ街道を使って隣町のソルドーへ行くと思っていました」


「馬車でならそうだったのかもしれない。だが、街道では何が起こるか分からないから、馬に乗り換えたのだろうな」


 エレインは小首を傾げた。


「だからと言って、馬で通るのが安全とも思えませんが。それに北西でしょう? あちらは森ですよ。逃げ切る前に、土地で身を滅ぼすかもしれません」


 月明かりすらない闇の森を行くのは、いつも通っている者たちでさえ避けるのに、彼らは子ども連れだ。普通なら、危険すぎて断念する道である。


「そうかもしれない。だが、逆に追うほうの俺たちも苦労することになる」


「確かに、明かりのない中の森は厳しそうですね……。そう考えますと、そもそも北西へ向かったというのは、本当なのでしょうか? 私たちを巻くためでは?」


「さあ、どうだろうな。ただ、奴らがオブシディアンの残党なら借馬屋の主人に嘘をつかせることはしないだろう。関係ない連中を巻き込みたくない精神が働いていると考える」


 彼らはスビリウスやその関係者に対しては鋭き刃を突きつけてきたが、犠牲者や被害者はもちろん、自分たちに味方するものには徹底的に盾になっていた。


「それはあるかもしれませんね。普通、オウルス・クロウに出入りする者たちなら、金を積んででも自分の有利に働くようにして、関わった連中のことがどうなろうと気にしないでしょうから」


「そういうことだ。とにかくここで話をしていても仕方ない。あっちは子ども連れだし、今から追えば間に合うだろう。ここで馬を貸してもらえることになったから、準備が出来次第行くぞ」


「馬は……」


「二頭調達した」


「いくら出したんです?」


 部下の問いに、イグマンはぱっと三本指を立てる。エレインは緑色の目を見開いた。


「まさか通常料金の三倍?」


「そのまさかだ。それくらい出さなければ、準備が出来ていない馬を出してはくれないからな」


「そうですけど……」


 ただでさえ経費が実費だというのに、これでは報酬を多く貰っても意味がない。厳しい仕事のとき、いつも身を切るのは自分たちのような末端の人間である。

 エレインは太ももの横で、ぎゅっと拳を握る。


(俺たちはいい。それよりもイグマンさまだ。いつだって経費は自分のふところから出してしまうから、ほとんど残らない……。もう少しお金を手元に残す方法はないのだろうか)


「エレイン?」


 名前を呼ばれ、エレインははっとする。


「あ、はい。すみません。ちょっと考えごとをしていました」


「何か気づいたことでも?」


 尋ねられ、お金のことは置いておき、先ほど聞いた話を上司にした。


馭者ぎょしゃとあそこで伸びていた男たちの一人から、話を聞くことができました」


 一通りのことを説明すると、イグマンはあごに手を当ててうなる。


「射撃の腕が、よっぽどいいようだな」


「そのようです」


「それと男たちは全員無事だったのだろう? どこを怪我していたか見たか?」


 エレインは「はい」とうなずく。


「暗がりで全て確認できたわけではありませんが、馭者以外の四人は気絶させられおり、特に多かった怪我が腕でした」


「ということは、銃を使えないように最初から腕を封じたんだな。その襲った奴とやらは、随分と戦い慣れしているとみた」


「しかも女らしいですよ。私は見間違ったんじゃないかと思うんですけどね」


 エレインの何気ない発言に、イグマンは眉を寄せる。


「女?」


「ええ。私が介抱してやった男の一人が、そう言ってました」


「……そうか」


 何か考えながら静かに呟く上司に、エレインは首を傾げた。


「心当たりでもあるんですか?」


「……いや」


 そのとき、受付所の扉が開き「案内するぞ」という声が聞こえた。馬の準備が出来たということだろう。

 イグマンは主人に礼を言ったあと、すぐにエレインに指示をした。


「よし、エレイン。馬車から必要な荷物を持ってきてくれ。中にいる二人には今の状況を手短に話をすること。そして、二人は一旦劇場に戻って馬を用意してもらえるように相談しろと言っておいてくれ。ここで四頭を用意するのは難しいからな」


「分かりました」


 エレインはうなずくとすぐに行動に移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ