第29話 戦った相手
「大変だったな。……なあ、仲間は何人に襲われたんだ?」
相手の不安な気持ちに寄り添っていることを見せながら、さりげなく自分の聞きたい問いを含ませる。
すると馭者は、次のように答えた。
「暗くてよく見えなかったが、多分一人だ。そいつに五人がやられた」
「一人……?」
エレインは驚く。半分演技で、半分本音だった。
(誰かに雇われているわけだから、こいつらだってそれなりに強いはずだ。なのに、たった一人に全員がやられるなんて……。兄弟を連れて行った奴らは、よっぽど屈強な《《男》》を連れているということなのかもしれない……)
「俺は距離が離れていたんでよく分からなかったけどな。仲間ならちゃんと見ているかもしれないが……」
「あんたの仲間は?」
「……あっちで倒れていると思う」
馭者はそう言うと、視線を馬車の進行方向を示す。ちょうどイグマンが走って行った方向だ。
「そうか。だったら、そっちも見てきたほうがいいな」
エレインは、痛がる馭者の腕に「このままではいけないから」と言って適当に布を巻いてやると、馬車の先に倒れている彼の仲間の元へ駆け寄った。
気絶させられている者や怪我をして動けなくなっている者もいたが、確認する限り全員息がある。
エレインはその中で目を覚ました一人の傍に寄ると、声を掛けた。
「警官と救急看護を呼んでいる。もう少しの辛抱だ」
「……すみません。助かります」
こちらは馭者とは違い丁寧な態度の男である。身なりも一番よさそうだ。
想像ではあるが、彼が五人のまとめ役だったのかもしれない。
「気にするな。それとどういう奴にやられたんだ? 屈強な男か?」
エレインが尋ねると、男はくっと眉を寄せた。
「何故そのようなことを聞くのですか?」
ランプの光で揺れる男の顔には、「警官でもないのに」とエレインを怪しむ表情が滲んでいた。
闇取引と通じている警官であれば、自分たちが使えている主人を通して、ここで起きたことをなかったことにしてもらえる。そのため事情を話すこともあるが、市民には話す義理はないということなのだろう。
もしくは、闇取引の関係者だと思われているのかもしれない。
オウルス・クロウは、闇取引後も規則に違反しているかどうかの見張りをしている。規則のことは参加者もしくはその関係者なら知っていて当然だろうが、知らぬ間に規則に反したことをしているかもしれないとびくついている連中はよく見かける。
(怪しまれても仕方ないか)
エレインは嘆息する。確かに彼は闇取引の関係者だが、規則違反を見張るのは、仕事ではない。
そのため、しらばくれて市民を装った。
「この辺りに住んでいるから心配なだけさ。そいつらは逃げたんだろう? どういう奴が襲ったのか、知らなかったら気を付けることもできないじゃないか」
エレインが街の住民のように本当に困っているふうに答えると、男は「そうだな」と表情を和らげた。
「すみません……。気が立っていたせいで、変に勘ぐってしまいました」
「いいんだ。気持ちは分かる」
相手の心情を察して同情する。すると男が先ほどの質問に答えた。
「俺たちを襲ったのは、……女でした」
「まさか」
エレインは本気で驚いていた。
自分たちが追っているのは男女の組だったので、男のほうが護衛だと思っていた上、暗闇の中で女が男五人を相手に圧倒的に勝つことなどできると思えなかったからである。
(相当な射撃の腕前を持っているのか? しかし、ここに倒れている四人の男たちは、大して血を流していない。気絶していたということは、体術で《《のした》》ということになる。そんな強い女がいるなんて……信じられない……)
「それが普通の反応なのでしょうね。まあ、気を付けるに越したことはないと思いますが」
「そうだな……」
エレインは呟くと、借馬屋の受付所へ行き、布を借りたり水をもらったりして、簡単にではあるが男たちを介抱した。
一通りのことを済ませると、エレインは入り口から上司の名を呼んだ。
「イグマンさま」
受付所にいた立派な髭を蓄えた男と話していた上司は、エレインのほうを向くと「すみません、少し外で話してきます」と髭の男に断り、部下と共に一旦外へ出た。




