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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第二章

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第23話 選択

 ソフィアの問いに、ユーインはお腹の前でぎゅっと手を握りしめると、自分の考えを口にした。


「どうして、僕が選ぶんでしょうか。その、状況を考えたらソ……じゃなくて、レイグスさんが、僕に『こうしなさい』と言ったほうがいいのではないかなと思うんですけど、違いますか……?」


「違わないよ」


 ソフィアはあっさりと答える。彼の言う通り、ソフィアが決めてしまったほうがいい。


 しかし、ユーインがソフィアと一緒に乗馬できるかどうかは、彼にしか分からない。


 一緒に馬に乗るならば後ろからの攻撃を考えて、ソフィアの前にユーインが座ることになる。そうすると、ユーインは後ろにいるソフィアの動きを見ることができない。


(劇場の中で、ユーインがアレクシスを拒絶したのは、後ろからマントを掛けようとしたからだ。馬車の中ではアレクシスの胸倉を掴んでいたけれど、あれは怒っていたことと相手が目の前にいたからだ。「目の前にいれば、相手の行動を監視できる」という心理がユーインの中で働いているのだろう。ユーインはきっと、捕まっている間に後ろから突然何かされることが多かったために、体がそう反応するようになっているんだ。つまり、ユーインは「後ろから」というのと「男性の行為」を怖がっている。これが二つそろった場合に拒絶するのならまだいいけれど、「後ろから」という行為単独で反応してしまうのなら、私と一緒に乗ったときに突然暴れ出さないとも限らない……)


 そのため、彼女は「ユーインに選ばせる」ことにしたのである。

 しかし、ユーインにソフィアが考えていることは知られてはならない。それすらも知られていると思われたら、きっとユーインはソフィアのことを拒絶してしまうだろう。


「じゃあ、どうして……?」


 問いかけたユーインに対し、彼女は慎重に、しかしそれを悟られないように答えた。


「押し付けるよりも、選んでもらったほうがいいと思ったんだよ。今は、捕まっているときよりも幾分いくぶんいいかもしれないけど、それでも追手から逃れるまでは、我慢してもらわなくちゃいけないことがまだまだ沢山ある。野宿をしなくちゃいけなくなるかもしれないし、食べ物だってこれまで食べたことのないようなものとを口にしなくちゃいけないかもしれない。頼りたくなくても頼らなくちゃいけないとか、一人でいたくてもいられない、とかね」


 するとユーインがはっとした表情を浮かべる。


 アレクシスが持っているランプだけでは、彼やアルフィはぼんやりとしか見えないだろうが、ソフィアの「目」にはユーインの表情の変化がはっきりと見えた。

 そして彼女は一言付け加える。


「だから選択できるときは、選んでもらおうと思っただけさ」


「ですが、仮に僕が一人で馬を乗ることになったら、レイグスさんたちが困りませんか?」


 ユーインの問いに、ソフィアは肩をすくめた。


「まあ、多少はね。でも、今回はそういうのも覚悟の上だよ。さ、ユーイン。どうする?」


 問いかけられ、ユーインは二度ほど口を開き閉じる動作をした後に、こんなことを言った。


「あの……、レイグスさんの手を握ってみてもいいですか?」


「私の手? ああ、いいよ。素手すでのほうがいい?」


「どちらでも構いませんが、そうしていただけるのならお願いします」


 ソフィアは付けていた革の手袋を外すと、ユーインに手を差し出す。

 彼はごくりと唾を飲みこみ、覚悟を決めるとそっと彼女の手を握った。


(ユーインの手は荒れているな……。これは乾燥のせいかもしれないな。あと、肉刺まめが潰れて固くなった痕もある。もしかすると、伯爵の家にいたときに剣の稽古けいこでも付けてもらっていたのかな)


 ユーインの手が柔らかいものだと思っていたので、ソフィアは意外に思った。

 貴族が剣術をたしなむことは分かっているが、必要なときは護衛を雇うので、そこまで熱心にならなくてもいいはずである。


 もしかすると、ジェレミア伯爵が将来のことを考えて、ユーインやアルフィに色んなことを教えていたのかもしれない。 


「どうだ?」


 ソフィアが問いかけると、ユーインは顔をうつむけていた。

 どうしたのだろうと思っていると、右腕で自分の目の辺りを乱暴にこすったのち、ぱっと顔を上げる。


「レイグスさんと、一緒に乗ります」


(……泣いていたのか)


 ソフィアの手を握ってどんなことを思ったのかは分からない。

 しかし、何かがこみ上げてきたのだろう。


(そしてこの子は、それを飲み込んだんだな)


 我慢させないようにと思っても、結局別のところで苦しませてしまっている。


(難しいな……)


 ソフィアはそう思いながら、ユーインに尋ねた。


「いいのか?」


「はい」


 こくりと強くうなずく。ソフィアを見上げる瞳は涙ににじんでいたが、覚悟を決めたような光を秘めていた。


「よし。じゃあ、それで行こう」


「決まりだな」


 傍で聞いていたアレクシスがにっと笑ったが、ソフィアにはもう一つやらなければならないことがあった。


「ああ。だが、その前に片付けなくちゃいけないものがある」


 ソフィアはユーインの手を離すと、再び手袋をはめ、受付所まで通ってきた道のほうに体ごと向けた。


「来たのか?」


 アレクシスが緊張した声で尋ねる。ソフィアはうなずくと、素早く指示を出した。


「ジェームスは馬の準備を。二人は馬の邪魔にならないように、合図するまでここでしゃがんで大人しくしているんだよ」


「え?」


 アルフィは状況が読めず、ソフィアとアレクシスの声が聞こえるたびに、首をしきりに動かす。それを隣で感じていたユーインが代わりに尋ねた。


「あの、どうかしたんですか?」


 その問いに、ソフィアが短く答える。


「うん。追手が来た」

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