第19話 作戦
十年前の「オウルス・クロウ」と警備の態勢を比べれば分かるが、彼らはまだ完全ではない。組織そのものが回復していないのだ。
(だから、「オウルス・クロウ」の背後にあるスビリウスは、自分たちの組織力でオブシディアンの残党を探したくともできないでいる。そこから推察するに、彼らは「オウルス・クロウ」の参加者、それもリブームで上位に食い込むであろう者にお金を握らせ、ある程度動きをコントロールしていると考えたほうがいい)
どのようにしてフェルナンデスの背後にいる者と、スビリウスの人間がやり取りをしたのかまでは分からないが、十中八九その取引があっただろうとソフィアは読んでいる。
オブシディアンの生き残りなら、ジェレミア伯爵の子どもたちがゲームの景品になれば食いつくだろうと思ったのだろう。
もちろん、少年を愛でたいという変態が参加することも想定しているだろうが、そういう者たちがユーインたちを手にしたときは、お金か別の少年と取り換えるということをするはずである。
汚いが、それが「オウルス・クロウ」という闇取引の場所なのだ。
「……嫌な話ですね」
ユーインが苦々しい顔で呟いた。
「そうだね。それから、『オウルス・クロウ』のルールでは、『客が手に入れた景品や商品を横取りする場合は、開催日の次の夜明けまで』と説明したね。だがそれは、客同士の間の取り決めであって、主催者と客……いや、主催者が敵と見なしている者との間では成立していないかもしれないんだ」
「敵……?」
「そう。つまり、私たちはあなたたちのお父上の仲間だと思われている」
その瞬間、ユーインがはっとして申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「……ですが、侯爵さまもソフィアさんも、父とは関係ないはずです。どうしてそう判断されたのでしょうか?」
「まあ、危険なものはさっさと摘んでおこうって、そういう話だということだろう」
スビリウスの連中なら、この好機を活かすために、ソフィアたちの行き先を追い続けるはずである。そうすることで、「巣」を見つけようとしているのだ。
ソフィアにはオブシディアンたちの現状が分からないが、仮に生き残っているのだとすれば、指揮を失っているとはいえ、その中でも小さなまとまりを作っているはずである。
単独で行動するよりも、一緒にいたほうが安心するという心理が働くからだ。
一方でスビリウスにとっては好都合である。それは散り散りになったのを一つひとつ潰していくよりも、集合しているものを叩いたほうが速いからだ。
ただし、現在彼らの手先と思われる者たちが追っているのは、オブシディアンとは関係のないお人好しな侯爵と、戦いに優れたリョダリの長という変わった組み合わせのペアであるが。
「それなら、僕たちはずっと逃げ続けないといけないのでしょうか?」
ユーインが至極真面目に聞くので、ソフィアはちょっと笑った。
「まさか。それは暇な奴らだけがすることさ。あっちだって無限にそこにかける時間があるわけではないはずだよ」
「そうだとしても、相手が諦めるまで逃げ続けるってことですよね? そこまで逃げ切れるんでしょうか……」
不安そうに口にしたユーインに、ソフィアはふっと笑う。
「何もしなければね。でも、私は待っているは性に合わない。打開するために、奴らを迎え撃とうと思う」
「え……?」
小首を傾げたユーインに、ソフィアは開けっ放しだった引き出しから三本の金属の棒を取り出した。一つが五十センチほどある。
彼女はそのうちの二本の先端と先端を合わせると、くるくると回し始める。すると、バラバラだったものが一本になった。
「もう一本は馬車を下りてから付けてくれよ」
脇からアレクシスが言ったので、ソフィアは「分かってるよ」と答えた後に引き出しを閉め、ユーインとアルフィを交互に見てにっと笑った。
「さあ、二人もアレクシスが用意してくれた服に着替えな。ドレスじゃ動きづらいし、馬に乗ることもできないからね」
ユーインはアルフィのほうを見ると、二人できょとんとする。
劇場を出てから、初めて見せた恐怖や不安以外の表情だった。




