表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇夜の護衛  作者: 彩霞
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/85

第16話 貴族と民族

「何だと……?」


 ユーインは仮面越しにギッとソフィアをにらみつけた。「自分の言っていることが正しくないなどあり得ない」と言いたげな顔である。

 ソフィアは鋭い視線を見つめ返しながら、問い返した。


「乗り込んだとして、助け出すべき人を人質に取られたらどうするんだ。今回、ゲームでは人間のやり取りはあなたたちだけだったが、競売にもいたらどうする?」


「競売のやり取りでもいたかもしれないってことか? じゃあ、その人たちを捨てたというのか……?」


 ユーインはすぐにアレクシスのほうを見た。


「それは……」


 口ごもるアレクシスに対し、ユーインはカッとなって彼の胸倉をつかんだ。


「てめぇ……!」


 そのとき、か細い声で「お兄ちゃん……!」と呼ぶ声が聞こえた。

 だが小さかったせいか、車輪のユーインには聞こえていないようだった。


「非道な大人だ! どうして見捨てるんだ!」


「それは、違っ……!」


「どうして助けてくれないんだよ!」


「うっ……!」


 アレクシスが苦しそうな声を出したときである。ソフィアがさっと手を伸ばし、アレクシスの服を掴んでいたユーインの手をあっという間に払うと、そのままほほを軽くはたいた。


「何だよ!」


 仮面越しだが、怒りでソフィアを睨みつけているのが分かる。

 しかしソフィアはまるで動じなかった。


「少し落ち着きな。アルフィが驚いているだろう」


 指摘されてユーインは、はっとする。

 そろそろと振り向くと、小さくなって震えている弟が目に入った。


「ご……、ごめん……」


 ユーインの気はまだ高ぶっているようだったが、アレクシスに掴みかかったときほどではない。ソフィアは彼が席に座ったのを見て、話しを戻した。


「言い分は分かるけどね、お金を支払ったら、オウルス・クロウの運営側にお金がいくことになるんだよ。つまり、私たちが裏の組織が大きくなるのを助長することになるんだ」 


「だけど、あんたたちが買わなければ誰かが買うんだろ。それなら、その人を見捨てたことに変わりないじゃないか!」


 ユーインが吐き捨てるように言った。


「そうかもしれない。だが、計画も立てずに乗り込んで怪我をして、動けなくなったらそれこそ次の開催のときに助けられるものを助けられないで終わってしまう。『オウルス・クロウ』に乗り込んで盗品や連れ出された人を助けるのは、そう簡単なことじゃないんだ」


「ふざけるな……! 捕まったほうは必死なんだぞ! それを分かっているのか⁉」


「分かっているさ。……それに大きな問題もある。』オウルス・クロウ』には、国を支えている多くの貴族と商人が出入りしている。もし彼らが全て捕まったら国の動きはどうなる? 国を弱らせることになれば、隣国に隙を作ることになるんだよ。攻められて迎え撃つのはいい。だが、勝っても負けても、私たちは何かを失うんだ」


「……!」


 ユーインは唇を噛みしめて、我慢していた。

 賢い子だからこちらの言いたいことは分かってくれるだろう。


 だが、頭で分かることと感情が納得することは違う。

 きっと彼は、感情の部分で腹立たしさと戦っている。それは思っている以上に孤独で、苦しくて、辛いことだ。 


 その気持ちは、ソフィアにもよく分かっている。そして、アレクシスも、セルディア王国の王も知っているのだ。だから国が薄氷はくひょうを踏まなくていいように、細心の注意を払って動いている。


「国王はそれを分かっていて、慎重になって動いている。わざわざ私たちのようなこまを使うのも、国の全体を考えてのことだ」


 そのときである。ユーインの口元から、ふっと力みが消えた。


「駒? じゃあ、あんたたちは、父上がしていたようなことをしていたってこと……?」


 ユーインがようやく落ち着いたようである。ソフィアは「近いね」と言ってから、自分の立場について話した。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私の偽名はレイグスだけど、本名はソフィア・クロイエ。リョダリの族長だ。普段は『オウルス・クロウ』のところに出入りすることはないんだが、さっきも言ったようにアレクシスに頼まれて、仕方なく出てきたのさ」


「リョダリ……? そういう民族がいるのか?」


「まあね」


「聞いたことがない」


「民族や部族については、多く語られないからね。知らないのも当然だろう」


「どうしてだ?」


「そのほうがお互い楽だからさ」


「ふーん……」


 ユーインが曖昧あいまいに反応する。それに対し、珍しいなとソフィアは思った。


 セルディア王国に住む人たちのほとんどは、国に認められていない民族がいることを知らない。


 一方で、貴族は多少の民族教育を受ける。

 だが、それは他の民族を理解しようとするためではない。自分たちの選民思想を刷り込ませることで、結束を強めるために利用しているのだ。


 よって子どものときに自分たちの存在の価値を美化して語られた貴族たちは、セルディア王国の土地に住みながらも、別の文化を持っていたり、体型や言葉など少しでも違う部分を持っていたりする者たちを見下し、差別する。


 そのため、リョダリも見下される対象だ。


 王家派の貴族は契約のこともあり協力的だが、「貴族」と「それ以外」になるときは、平気でリョダリを排除する。


 これは代々植え付けられた思想によるものであり、彼らに全ての非があるわけではないのは分かっている。


 だが、生きている者が変わらなければ、変えられぬものでもある。

 歴史書に文字を書き足したところで、その時のことは変わらない。この先の未来を変えるならば、現在の貴族たちが態度を改めなければ無理なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ