第15話 賢い子
「だったら、その取引には警官も関係しているってことか? 町の秩序を守る警官も仲間だって言うのか!」
ユーインは太ももの上に載せた拳を、ぎゅっと握った。
警官は、市や街の秩序を守り、市民の保護、犯罪の捜査などを行う行政機関である。
ソフィアから見れば、彼らは白か黒か分からないときもままあるが、子どもや何も知らない市民から見れば間違いなく正義の味方なのだ。その警官が、オウルス・クロウの肩を持っていると知れば、驚き、そして落胆するのは想像に難くない。
「正確には仲間ではない。……お金を握らされて、いいように使われているんだ」
ソフィアは真実を言った。
だが、ユーインにそれは通じない。
「人を守るための警官が聞いてあきれる……!」
「子どもから見れば、そうなるな」
ユーインの怒りに対し、ソフィアは静かに言った。
警官たちは、時に命の危機にさらされるような、危ない仕事に従事しなくてはならない。
しかし、治安の悪いところほど給与は安い。それは市や町に彼らに支払う金がないということ。言い換えれば、税収が少ないのである。
一方で、治安のよいところは安定した税収があるため、給与がいい。そして安全な街では、危険な事件は起こりにくい。
このことを警官たちはみんな知っている。そのため、治安の悪いところで働く警官たちは、不公平だと思っているのだ。
――何故、自分たちは安月給で、危険な仕事に身を投じなければならないのだろう?
そう思った警官たちの多くは、目の前にちらつくお金に手を出してしまう。
元々正義感を持って警官になったとしても、天秤にかけられている自分の命と給与が割に合わなければ、ぶら下がっているものを手に取る者がいるのも仕方のないことなのだ。
「大人から見たら違うって言うのか!」
ユーインがソフィアに言い返す。ソフィアは黒い瞳を細めてユーインを見た。
(きれいなところだけを見て育ってきたのかな)
世の中にある悪は、常に完全な悪とは限らない。
生きるために必死な者は盗みを行うし、医者に見せたくてもお金が無い者は、お金を得るために不正を働くこともある。
ソフィアの部族リョダリも、生きていくために商人の護衛を長いことをしてきた。時には相手を殺すことになっても、そうしなければ自分たちの住む場所も、生きるために必要なものも手に入れることはできなかったのだ。
偶然にも貴族の中でもめ事が起こったので、リョダリという部族を知ってもらえるようになり、その力が必要だと言われたから重宝されるようになったが、情勢が違っていたらリョダリは裁きにかけられる存在だったかもしれない。
ソフィアはそのことを幼いころから身に沁みて分かっているので、静かで凛とした声でユーインに言った。
「君は知らないかもしれないけれど、世の中、そうすんなりとは物事は進まないし、悪を排除することもできないんだよ」
だが、彼の苛立ちは収まらない。
「どうして! 騒ぎになれば大事になるなら、今すぐに通報して劇場に乗り込んだらいい! そしたらあの場所は今夜でなくなる!」
ユーインの言っていることは一理ある。
だが、仮に実行したところで、何の成果は得られないことをソフィアは知っていた。
「あんたは賢いね。でも、何も見えてないよ」




