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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第一章

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第11話 短剣

「君も。頼む」


 ソフィアはユーインのほうを向き、出来るだけ優しい声で言った。だが、彼はまだ納得していないようで、手を掴んでくれない。

 ユーインは顔をうつむかせ、絞り出すように言った。


「……あんたの言っていることは分からないでもない。だけど、あんたが俺たちに危害を加えないって、どうやって信じたらいいんだ? もしまた……あんなことをされるんなら、死んだほうがましだ……」


「……」


 ソフィアは悩んでいた。

 ユーインの言い分もよく分かるし、聞いてやらねばならないとも思っている。だが、今は時間がない。このままでは追手が十分に用意して襲ってきてしまう。


(仕方がないね)


 ソフィアは、さっと右手でベルトに付いたポケットをいじると、革の鞘に収まった小さな短剣を手に取って、その柄をユーインに向けて差し出した。


「そこまで言うなら、君にこれを渡しておく」


「……これは?」


 警戒しながら尋ねる彼に、ソフィアは淡々と答える。


「短剣だよ。もし、私たちが裏切るようなことをしたら、これで私をしなさい」


「ちょっ、レイグス……⁉」


 彼女の発言に驚いたのは、アレクシスだった。


 だが、今は少しでも早くここを脱出し、決勝のゲームで対戦した男の雇い主から逃れなければならない。ソフィアはアレクシスを視線だけで黙らせ、ユーインに押し付けるように短剣を渡す。


「丸腰よりもいいだろう」


「……短剣? でも、俺は子どもだから力もないし、そんなものを渡されたって、あんたを刺しても逃げ出せるか分からない……」


 ユーインはソフィアの行動に戸惑いながらも、反論した。この状況でも、どうやったら自分が不利にならないかよく考えているようだった。賢い子である。


 だが、ソフィアから逃げ出す程度のことであれば、短剣のほうが優位に働く。彼女はそれを真面目に説明した。


「問題はない。私と君との距離はいつも近いし、ついでに言うと刃には毒が塗ってあるからね」


「毒?」


 聞き返した彼に、ソフィアはうなずいた。


「そう。ただし、刃には触れただけで効果があるから、自分では触らないように気を付けること。それと、柄や革の鞘にはついていないから大丈夫だが、一度出したら、しまうときに気を付けなさい。少しでも皮膚に触れるところにつけば、手が火傷やけどしたようになるからね」


 この意味が分からない子ではないはずである。


 大人を信用できない気持ちも分かるが、ソフィアたちから逃げたいと思うのであれば、得物を持つ責任とその後の人生を自分で守り抜く覚悟でやれと言っているのだ。


「レイグス、それはさすがに――」


 こくではないか、とアレクシスは言おうとしたときである。ユーインがソフィアの手から短剣を取った。


「分かった。とりあえず、あんたたちに付いて行く。でも、妙なことをしたら、この短剣であんたを刺す」


 ソフィアは強きに見せている少年に対し、ふっと笑ってうなずいた。


「それでいい。話を聞いてくれてありがとう。それじゃあ、まずはここから出ようか」


 ソフィアに促され、ユーインとアルフィが自らの意思で檻から出る。アレクシスは上手くいって良かったと安堵しながら、持っていた黒いマントを取り出した。


「その恰好のままだと目立つから、これを羽織ってくれ」


 アレクシスは、ここから出るときのことを考えて、彼らにマントを用意していた。

 だがアルフィに羽織らせた後、ユーインにも同じように肩に掛けようとしたときだった。突然彼の体がびくりと震え、肩の近くにあったアレクシスの手を思い切り振り払ったのである。


「わっ」


 思わず漏れ出たアレクシスの声と、パチン! という音がその場に響く。

 ソフィアがユーインのほうを見ると、一瞬だけ戸惑った表情を見せたのち、強い口調で「さ、触るなっ!」と言った。


(何かが変だ)


 ソフィアはそう思った。

 どうもユーイン自身、己の反応に驚いているようだったからである。必死に取り作るように言う様子を見ると、自分の意思ではなかったのだろう。傍では、アルフィが驚いた顔でユーインを見ている。それが彼の様子がいつもと違うことを物語っていた。


 ソフィアはアルフィに「大丈夫だよ」と声を掛けると、驚いて動きを止めたアレクシスの手からマントを奪うと、ユーインの視線に合わせてかがんで謝った。


「嫌な思いをさせたね。すまない。悪いが自分で羽織ってくれるか?」


 そう言って、彼女はユーインにマントを差し出す。


「え?」


 仮面のせいでどんな表情をしているかは分からなかったが、声で、ソフィアの態度を不思議がっているのは感じられた。


「ほら」


「う、うん……」


 マントを羽織るように促すと、彼はソフィアの手に触れぬようにその端を掴むと、さっと羽織る。

 ソフィアは体を起こし、後ろに立っていたアレクシスを振り返った。


「行こうか、ジェームス」


「大丈夫か?」


 心配そうに尋ねたが、ソフィアはうなずいた。気になることはある。だが、今はここから出ることが先決だった。


「君は、前を歩いてくれ。私は後ろを付いて行く」


「分かった」


「行くって、どこにですか?」


 アルフィが尋ねたので、ソフィアは声量に配慮しつつ、ユーインにも聞こえるように「外に置いてある馬車だよ」と言った。

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