第9話 出迎えた女
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ソフィアたちが劇場の裏のほうへ向かうと、扉の先に一人の女が妖艶な笑みを浮かべ二人を待っていた。
彼女は、目元だけ隠したシンプルな白い仮面をつけ、豊満な胸を強調した黒いドレスを着ている。その上、胸を支えるように腕を組んでいた。
「レイグスさま。先ほどのゲーム、お見事でございました」
ルベウス(=赤い色の宝石のこと)色の唇が、蠱惑的な笑みを作った。ただでさえ花の香りの香水がきついというのに、彼女が笑うとその匂いが強まる感じがする。
ソフィアは不快な感情を表に出さずに、短く返事をした。
「恐れ入ります」
「お強いのですね」
「運が良かっただけでございます。失礼ですが、景品はどちらに?」
女の言葉を切るように問うと、ため息をつかれる。
「そんなに急かさなくても、なくなったりしませんよ」
いやにゆったりとした口調で言うと、彼女は自分の体を少しだけ避け、後ろのほうを指さした。
「あれですわ」
彼女が指さしたところには、舞台の上にあったときのように檻の中に子どもたちがいた。この場所が恐ろしいのだろう。二人は舞台の上にいたときと同じように、檻の隅で抱き合っていた。
「勝ったのは、レイグスさまですわ。お好きにどうぞ」
女はふふふっと笑ってソフィアに檻の鍵を渡すと、踵を返して舞台袖のほうへ行ってしまう。
舞台裏にいるということは、オウルス・クロウ側の関係者だろう。取引まだやっているので、それを見に戻ったのだと思われた。
彼女はここに来る人物が、取引の相手であることを確認するための役目を担っているのだろう。参加者は皆、仮面を付け、細部は違うにしてもほとんど似たような色の服を身に着けている。よく見ていなければ、見間違えてしまいそうだ。
取引する相手を間違え、品物を渡すべき者に渡さなければ、オウルス・クロウの信用問題にも繋がる。
競売に関しては、参会者に対し最初から番号札を渡されるようになっているが、ゲームはそれはない。また番号札があったとしても、この暗闇の中で誰かになりすます可能性もないとはいえないため、必ず確認する人間がいるのだ。
(十年前も同じように、取引する相手を確認する者がいたが、人数は一人ではなく、二人はいた。一人よりは二人のほうが、確実にチェックできるからだろうな。でも、今回はそうしていない。人員が割けないのか? もしかするとオウルス・クロウは、まだ完全復活していないのかもしれない……)
ソフィアは周囲の警戒をしつつ、渡された鍵をアレクシスに差し出した。
「え?」
戸惑う彼に、ソフィアはいつも通りの調子で説明した。
「私が開けるより、君が開けたほうがいいんじゃないかと思って」
するとアレクシスはソフィアの傍に寄り、声を抑えていった。
「レイグス、話し方は? 警戒しなくていいのか?」
「大丈夫だ。この辺りには人はいない」
ソフィアが言うと、彼はほうっと息をはいた。
「そうか、よかった」
「それよりも鍵だ。顔見知りなんだろ? 布で隠しててやるから仮面をとって、それで鍵を開ければ――」
するとアレクシスは、ソフィアが言い終わる前に首を横に振った。
「そうだけど……暫く会ってないから分からないと思う」
ソフィアは、面倒そうにため息をついた。
「使えない奴」
「悪かったなっ」
アレクシスが頬を膨らませてプイっとそっぽを向いている間に、彼女はしゃがんで牢の施錠を外す。そして奥にいる二人が驚かぬようにゆっくりと扉を開け声を掛けた。




