表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇夜の護衛  作者: 彩霞
第六章 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/149

第105話 交渉

「知らないね」


 スビリウスが「シンファ」のことを調べている理由は分からない。

 バルトルの弟がシンファに復讐ふくしゅうしたくて来たというのは本当だろうが、無精ひげの男の目的は違うだろう。護衛の一人の復讐心のためにスビリウスが動くとは思えない。むしろ、アドルという男が『シンファ』に復讐心を利用されたと考えたほうが妥当だ。


「知らない? そんなことはないと思うんだけどな。エレナのことを忘れるなんて、意外と冷たい人なんだね」


 ソフィアの短い答えに、無精ぶしょうひげの男が感情を逆なでるような言い方をする。これに反応しては相手の思うつぼだ。


「初めて会ったわりに、まるで私のことを知っているふうな素振りじゃないか」


「もちろん。『シンファ』について調べていたから、詳しくもなるよ」


「だから私はシンファではない」


 呆れたように答えると、男は明かりのない部屋にいるソフィアをじっと見据えると感情のらない声で短く尋ねた。


「本当にそうかな?」


 男の放つ気配が研ぎ澄まされ、部屋の緊張感が一段と増す。

 時折流れて来るちりっとした痛みのような男の気配は、何を言っても中々ソフィアが尻尾しっぽを出さないため、苛立いらだっているのかもしれない。どちらにせよ、気配をここまで操ることができるのは並大抵のことではないことだ。


 ソフィアはいつ飛び出し来る攻撃にも対応できるように、右手の中にあるこんを軽く握る。


「まあ、どちらにせよ、俺たちの仕事はあんたが手に入れた景品を返してもらうことだ。すぐに手渡してくれるなら、俺たちはそのまま引き下がるよ。どう?」


 無精ひげの男が、交渉を持ち出してきた。

 ソフィアが「シンファである」と言わないため、それを理由に戦いはできないと思ったのだろう。よって、別の方法に出たようである。


「景品として手に入れたのに返せとは、ずいぶん虫のいい話だ。そんな話に乗るわけがないだろう」


「代わりのものを用意している。それと交換でいかがだろうか?」


「代わりのものとは?」


「同じようにきれいな顔をした少年二人だよ。どう?」


 男の誘いに、ソフィアは「悪いが断る」と即答する。


「何故?」


「それは私が決めることではないからね。あるじの意向なんだ。交換しない」


「では、あんたの主とやらと話をさせてもらおうじゃないか。ベッドの陰にでも隠れているんだろう?」


「聞いていなかったか? 交換しないのは主の意向だ」


「『交換しないのは主の意向』か……。まるでこの提案が最初からあると知っていたかのようだ」


「先におかしな行動をし始めたのはそちらだろう。『横取り』ができる時間からとうに過ぎているというのに、それが成り立つほうがおかしい。獲得した景品を次の日まで追っていいとは、規約に書いていなかったはずだ」


 そしてソフィアは床に転がっているイグマンを棍で示しながら尋ねた。


「この男にも昨日の早朝にも尋ねたが、闇取引オウルス・クロウはやり方を変えたのか?」


 ソフィアの質問に、男はすぐには答えなかった。

 部屋の中でソフィアの気配と無精ひげの男が放つ緊張感のある気配、そしてアドルの足元をいずってくるような気配がゆっくりと混ざっていき、重苦しい空気へと変わっていく。


 しばらくすると、宿屋の外から人々の話す声が聞こえていた。

 きっと騒ぎを聞きつけた人たちが警官に連絡したり、周囲の人たちに知らせたりしたのだろう。ここはジオグン街の警官たちとは違って、小さい町ではあるが地元民の結束が強く助け合いの精神もある。そのため、ジオグン街のように意図的に現場に来るのを遅らせるということはないだろうとソフィアは思っていた。


(あと、もう少し……)


 事情聴取されるのは面倒ではあるが、多勢に無勢。ソルドーの町の者たちが来てくれれば、彼らも一旦退(しりぞ)くであろうとソフィアは思った。

 しかし、その考えは甘かった。

 無精ひげを生やした男はソフィアの予想とは違う行動をしたのである。

 彼は着ていた上着のポケットから拳ぐらいの大きさの小瓶こびんを取り出すと、中身を床にまき散らしながらぽつりと答えた。


「その問いに答える義理はない」


 ソフィアは「何故——」と言った瞬間だった。無精ひげの男とアドルが一斉に彼女との距離を詰めてきたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ