第102話 足音
(さて。この二人をどうしようかね)
向けられた銃口は二つ。
セレレインの森のときのように相手が動揺しているときはそれを利用して丸め込めたが、今の彼らはこちらの動きを見極めようとしている。
(さすがにスビリウスが寄こした追手ということもあって、一度目の対峙よりも私の気配の耐性が付いているらしい。それともそう見せているだけなのか、どうなのか……。どちらにしても並大抵の者たちではないことは確かだね。まあ、気にしないで突っ込んできた者たちもいるが)
ソフィアは壁の傍で寝転がっているリルと、床で伸びているセラという若い男を視線だけで見やる。あれほど元気だった二人は、ぐったりして動きそうもない。ソフィアの気配を見誤った報いである。
だが、今向かい合っている者たちはもう少し手強い。ソフィアが強いことを分かっていて、無理に動かないようにしているのだ。
(棍で突くには少し遠いな。だが踏み込んだら間違いなく撃たれる)
イグマンともう一人の男が黙ってこちらに銃口を向けているのは、音を頼りに撃つつもりだからだろう。ソフィアが彼らの行動を封じようと動けば、必ず足音がする。そして銃の攻撃は、対象物が近くなればなるほど命中率も高くなることから、ソフィアが近づくほうが彼らにとっては有利なのだ。
(奪った銃で脅す……にしても、そもそも装弾数はいくつなんだろう? 自動式拳銃は大体十発は入っているから、仮に十発あったとして、昨日二発撃っているだろう? そしてさっき一発撃ったから残りが七発、か。できれば後で調べるときに弾も残しておきたいから、あんまり撃ちたくはないんだよなぁ……)
ソフィアがどうしようか悩んでいると、ふと、ベッドの陰に潜んでいる三人が無事かと確認するため、アレクシスがいるほうをちらりと見る。暗がりである上に目隠しとなっているベッドがあるため、こちらの様子はよく分からないはずである。
しかし、こんな状況でありながらアレクシスがつまらなそうに欠伸をしているのが見えた。昔からリョダリの地に出入りしているせいで、ある程度のことが起きても狼狽えない度胸がついてしまったらしい。
(貴族としては良いのか悪いのかよく分からないが、今の状況から考えるとまあいいんだろうな……)
一方、ユーインとアルフィはお互い手を握りしめて緊張しているようだった。
無理もないことである。本当ならすぐにでも穏やかな地に連れていってやりたいが、そう上手くいかないのがもどかしい。
(あと、もう少し……)
イグマンともう一人の男を何とかすれば、明日の日中は平和になるはず――と、ソフィアが再び男たちに向き合ったときだった。
不意に妙な気配が足元に広がってきたのである。
(これは昼間の……)
掴みどころのない、妙な気配をした人物のものだ。
(来るのか?)
ソフィアは棍を軽く握ると、気配が来るほうを探る。
するとそのときだった、廊下側からコツ、コツ、コツと落ち着き払った足音が聞こえてきた。足音が近づくにつれ、気配も大きくなっていく。足元に這いずって来るような、得体のしれない気配。それはいつ何時牙になって襲い掛かってくるのか分からないというような恐ろしさがある。そして近づいて来るにつれて、ソフィアは一つだと思っていた気配の中に二つあることに気づく。
(一つの気配じゃない。二つの気配が合わさっているんだ。ということは、二人いるってことか……)
ソフィアの額から脂汗が滲む。イグマンともう一人の男だけならばソフィアだけでもなんとかなるが、さすがにこのおかしな気配を放ってくる二人を相手することになると、ソフィアでも難しい。
(どうする? 今すぐ動いて、イグマンともう一人を倒すか? だが、今から来るのは間違いなくスビリウスの仲間だ……。仮に私が飛び出たとして、その間にこの気配の持ち主が現れたら相手が四人になる。さっきの単調な攻撃をしてくる二人ならまだしも、妙な気配を放つのが二人来ると厳しいな……)
ソフィアが開いた扉の先とイグマンたちを交互に見ていると、僅かだがイグマンの隣に立っている男が廊下を気にしてびくりと体を震わせた。
(仲間じゃないのか?)
それとも仲間であっても恐怖心を感じる相手なのか――。
(……隙をついてみるか)
ソフィアは体からふっと力を抜くと、ダッと床を蹴って一気に距離を縮める。
「こいつ!」
イグマンの隣に立っていた男が先にソフィアの動きに気づき、すぐさま引き金を引いて発砲してきた。それがソフィアの右肩を掠ったが、構わず走り、発砲した男の近くまで来ると、彼の左脇腹を棍で強打した。




