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闇夜の護衛  作者: 彩霞
第六章 

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第100話 二度目の戦い

 ソフィアがその音に反応して振り向くと、床にはこぶしほどの石が転がっているのが見えた。窓が割れたせいで外から風が入り、厚手のカーテンが小さく揺れる。


(鍵を開ける気だな)


 下からい上がってくるのか、それとも隣の部屋の窓伝いにくるのか。さすがにソフィアの「目」には透視能力はないので、カーテンの向こう側がどうなっているのかは分からない。


(どう来るか)


 ソフィアがほんの一瞬のうちにそれらのことを考えていると、上の階からどたどた激しい足音が聞こえた。先ほどまで静かであったことを考えると不自然ではある。


(上から来るのかもしれないな。……とにかく、先に扉の向こうを片付けよう)


 どんな方法にせよ、窓から入って来るには数十秒かかるはずである。

 そのかんに扉の外で待機している者たちを片付けることに決めたソフィアは、扉が開くと同時にさっと身をかがめ、一番手前にいた男の鳩尾みぞおちに鋭く、だがぎりぎりのところで引いて拳を打ち込んだ。中年太りをした柔らかい腹である。


「ぐあっ!」


 男は身構えていなかったこともあり、腹に食らった一発だけでそのままソフィア側に倒れてくる。

 着ている服がこの店の制服であるところを見ると宿屋の受付のようだ。


(すまない……)


 申し訳ない気持ちがソフィアの中にちらと浮かんだが、起きていると戦いの邪魔になるので、事が終わるまで気絶していてもらうしかない。


(まぁ、手加減はしたから内臓は大丈夫だろう。肉もあるし)


 ソフィアは倒れてきた男をけると、彼のすぐに後ろに控えていた若い男の鳩尾に向かってこんを突き出す。


 だが男はそれを見事に避ける。そして持っていた銃口をソフィアに向けてきた。

 お陰で昼間に気配を放ってきた一人が判明する。


(この男……日中に気配を飛ばしてきたほうだな)


 彼女は素早く中年太りの男を掴んで盾にすると、一緒に扉の右側のほうへける。


卑怯ひきょうだな。人間を盾にするなんて」


 銃口を向けた男が、一歩、二歩と部屋に入ってきて悪態あくたいをつく。

 しかしソフィアはそんなことに構っている暇などない。気絶した男を壁にもたれさせると、床をり、低い姿勢のまま若い男の腹に向かって左から右に向かって振るった。


 ガンッと金属系のものに当たった音がしたあと、若い男が舌打ちするのが聞こえる。咄嗟とっさに拳銃を前に出して棍を受けたのだろう。


 だがソフィアの攻撃はそれだけでは終わらない。

 構わず力業ちからわざで押しやると、ちょうど男の後ろでランプを持っていたもう一人の壮年そうねんの男に当たり、二人同時に廊下の壁のほうへと吹っ飛んで行った。ついでにランプも壊れたようで、先ほどまでほんのり明るかった周囲が一瞬にして暗くなる。


 ソフィアは自分の有利な状況になったので低い姿勢から、力の抜けた直立になり、廊下の壁の下で座り込んでいる彼らを見下ろす。


「……痛ててて。はー、危なかった」


「危なかったじゃない……。痛いんだが……」


 若い男は後ろにいた男のお陰で軽傷で済んだようだが、後ろにいたほうは頭を壁にぶつけたようで後頭部を両手で押さえ痛みにもだえていた。


 しかし若い男は悪気なく「すみません。お陰で助かりました」と軽い口調で謝る。


 頭を押さえた男は小さくため息をついているようだが、怒ってはいないらしい。見た限り壮年の男のほうが上司のように思えるのだが、会話に敬意がこもっていない。


 闇取引をしているくらいなので、スビリウスは上下関係が厳しそうだと思っていたが違うのだろうか。ソフィアが不思議そうに見ていると、あることに気が付いた。


(あれは……)


 壮年の男のほうは、夜明け前に対峙したときにソフィアと話をした相手である。


 こちらもふくよかな体をしているが、先ほど腹に一発食らわせた男とは違う。まとう雰囲気から、ソフィアたちに対する冷たい敵対心を感じられる。


 ただ、どこかこの戦いに乗り気ではなく、仲間を守ろうとするような優しさが混じっているという変わった気配を持つ男だ。


 こちらをだまそうとしているのか、それとも本気なのか。

 どちらなのかは分からないが、ソフィアは警戒してすっと目を細める。


(こいつらも一緒に来たのか。昼間は別行動を取っていたのか……? 理由は分からないが、ここで合流したってことかな)


「イグマンさま!」


 すると廊下から誰かの名を呼びながら別の男がやって来る。ソフィアから見て右から来たということは、上の階からのようだ。


(やはり上の部屋で準備をしていたんだな)


 頭を打った男に駆け寄り心配そうに顔をのぞいている。


(そういえば、今来た男も対峙した四人組の中にいたな)


 ソフィアは彼にも見覚えがあった。奪った拳銃で、二回目に放った弾で耳たぶの下をかすった男である。


(あの男「イグマン」という名前なのか……)


 ソフィアが壮年の男の名前を記憶している間に、吹っ飛ばされた若い男が起き上がり銃口をソフィアのほうに向ける。彼女は引き金が引かれる前に開いていた扉を足でって閉めると、扉の外で発砲音が三回聞こえ、扉に三発着弾した音が鈍く聞こえた。


(次はこっちだ)


 ソフィアは扉が閉じている間に、急いでベッドの向かい側の壁際にあるテーブルの下に寄り、綿袋からあのとき奪った拳銃を手に取る。そして窓際まで走ると、ベッドがないほうのカーテンを一気に開け放った。

 するとそこには、上の階から縄をつるして部屋に入ろうとしている別の若い男の姿があった。

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