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戦乙女セーラ  作者: 城弾
44/49

EPISODE44「純愛」

「何ぃっ!?」

 スズの「正体」に動揺を与えられたのは戦乙女サイドだけではない。

 闘っていたアヌも驚いた。

 本来ならば殺してしまう相手。素性などどうでもよい。

 だがさすがにそれが同胞であるルコが憑いていた相手となるとそうも行かない。

(バカな!? あの娘はルコが憑いてそして元に戻ったはずだ。今はまだ我々が取り付ける状態ではないはず)

 その逡巡がまずかった。腹部に焼け付くような痛みを感じて我に帰る。

 とっさにその場を離れてから確認するとジャンス・ロリータフォームが銃弾をばら撒いていた。

 その「流れ弾」が腹を掠めたのだ。

(くそっ。一時撤退だ)

 負傷して戦乙女「四人」を相手にするほど回りが見えなくなってない。その場から消えた。

「惜しい。脚だったら止めて倒せたのに」

 悔しがるジャンスだが変身解除したセーラとスズを援護するために乱射していたのが相手を退けて幸運なのは理解している。

 ジャンスはガトリングの前後を分離させてピンクのオートマチックと黒いリボルバーへと戻す。

 同時に彼女自身もメイド服姿のヴァルキリアフォームへ。そして制服姿のエンジェルフォームへと。

 ブレイザも同様に防御形態に。そして清良たちの元に駆け寄る。

 そこでは気絶した友紀を抱きかかえ呼びかける清良が。

「友紀。おい。しっかりしろ。友紀」

「とにかくこの場を離れましょう。ドーベル」

 ブレイザは使い魔を呼び寄せる。それと同じくして女性警察官二人が駆け寄ってくる。

「どこか安全な場所に野川さんを」

「ノリ。手をかして。友紀ちゃんを運ぶわよ」

「わかった」

 覆面車の後部座席に友紀を運び込みそのまま清良とキャロルも同乗する。

 走り出す車を守るようにドーベル・サイドカーモードとウォーレン・バイクモードも走り出す。








EPISODE44「純愛」









 アヌは人目を避けて移動していた。

 脇腹の傷が痛みさすがに視認出来ないほどのスピードでは走れない。

 河川敷だったこともあり放置されている草むらもある。

 そこに倒れこみ呼吸を整える。少しずつではあるが驚異的なスピードで傷が消えて行く。

(物理的な攻撃でできた傷など一呼吸する前に治るがさすがに戦乙女の「呪い」がかかるとそうもいかんな)

 人間サイドでは「聖なる魔力」になる戦乙女の力も、敵対するアマッドネスにしたら呪いだった。

 傷が消えたら人目につく獣人の姿から軽部司郎の顔に戻る。まだ倒れたままだ。

 「彼」はスーツの内側にある携帯電話を取り出し三田村の携帯電話の番号を出す。

 通話ボタンを押しかけて迷う。

(声が聞きたい。あの人の声が…だがこんな報告をしたら失望されるかもしれない)

 そもそも声を聞きたいと言う時点で自分の「弱気」を認めたようなものだ。

 電話を持ったままその手を胸の上に置く。

(ススト…ルコ…サザ…ギル…ライ…みんな死んだ。もう生き返れない)

 倒れた同胞を思い仰向けのまま空を見る。目にしみるほど青い空であった。

(食われなかったら…あの空の向こう側にでも行っていたのだろうか)

 魂と通じ合えることから「死将」呼ばれるアヌにもわからない。

(私もいずれ死ぬ。一度死んだ身だ。それは怖くない。だがガラ様のおそばにいられなくなるのは死ぬより怖い)

 「彼」と「彼女」は乙女のように頬を染めた。

(ああ。ガラ様。警部。私の望みはたった一つ。あなたと結ばれることなのにどうしてそんなことがこんなに難しい。無敵のアマッドネスがたかが愛一つにこんなに苦しむなど)

 祝福されない愛と言うのは理解していた。アマッドネスとしては身分の違い。軽部司郎としては『同性愛』に対する世間の風あたり。

(この秘めた思いが伝えられないというのならば、やはり私にはあのお方の盾であり矛である生き方しかない)

 軽部はやっと身をおこした。

(ならば矛として戦乙女を討ち果たす。それが私のなすべきことだ)

 そして立ち上がり、ゆっくりとだが歩み始める。


 走る車の中で友紀は目を覚ました。

「気がついたか」

「きよし…」

 ぼんやりと彼女は清良の顔を見上げる。優しく微笑んでとても喧嘩無頼とは思えない。

「え? あたし…」

 アングルから自分が清良に抱きかかえられていたことを察する。

「きゃあっ」

 瞬間的に恥じらいが生じて悲鳴を上げさせ、そして頬を染めさせる。

「なんだよ。お前が気絶しているから落ちないように抱えてただけだろうが」

 怒鳴る清良も頬が赤い。恥ずかしさをごまかしていたのは明白だ。

 さんざん女性化してからやってしまった乙女の言動を男に戻ってから死ぬほど恥ずかしい思いをしてきた清良だが、これはまた別の恥ずかしさだった。

 それを理解した友紀は感謝の言葉を告げる。

「ご、ごめん。ありがとね」

「お、おう」

 まだ二人は赤い。

「うふふふふ。二人とも初々しくて可愛いわぁ」

「薫子さんも変なこと言うんじゃねーよ!」

 いっそ女の姿だったらよかったかもしれないとまで清良は思う。女同士ならこんな気恥ずかしさはない。

「カオル。あんまりからかわないの」

 運転席ののり子がたしなめる。少女のように舌をぺろっと出す仕草の薫子。

 おかげで戦いの際の混乱はリセットされた。

「友紀ちゃん。大丈夫?」

 今度は案じて尋ねる。

「はい。平気です」

「どうする? 警察病院に行くつもりだけど」

「それには及ばない」

 口調が変わった。それどころか顔も変わった。

「お前…スズ?」

 前にあったスズの人間としての姿に変貌していた。

 これには女性警官二人も驚いた。何しろ初めて見る。

「どういうことだ? どうして一度アマッドネスに憑かれた友紀にお前が憑ける?」

「私のヨリシロが友紀と知れば君が必要以上にかばうと判断して黙っていたが、こうして知られた以上はすべてを話したい。出来れば誰にも迷惑の掛からないところで」

「そうね。あのアマッドネスはあなたを狙っていた……と言うか恨みがあったみたいだし。病院じゃ患者に被害が及びかねないわ」

「署はどう? なにしろ警官だらけよ」

 この一言で会談場所が福真署で常時使っている場所になった。

「ではお二方には私から」

 キャロルがドーベルとウォーレンに伝えそこから二人の戦乙女にも伝わった。

 一同は福真署へ。そしてその際に一つの手が。


 警察無線を自分の乗る覆面車で傍受した軽部。それは薫子達が福真署へ向かうというもの。

 瞬時に罠と察した。自分は既に軽部司郎と言う「警察官」の姿を見せてしまった。

 この無線がおびき寄せのための物としか思えない。しかし

(上等だ。私の任務は戦乙女どもの抹殺。向こうから場所を指定と言うなら警官隊の待つ中に乗り込んでやろうじゃないか)

 異常な決意をした。死に急ぎ始めていた。


 情報交換などに使う一室。向かい合わせになったソファ。

 片方はジャンスとブレイザがスズをはさんでいる形。

 向かいには清良。薫子。のり子は戻るなり警官隊を指揮して再び外に出た。

 それどころか人がすごい勢いで出て行く。

「ラッシュアワーだな」

「これからここに相手を迎え入れるのよ。逃がせる人は逃がさないと」

「戦場になるのはわかったからその物騒なものどこか目に付かないところにしまっといてくれよ」

 空いた席にはショットガンと散弾銃がある。

 理由を聞いたら空を行くアマッドネス対策でおいてあるのだそうだ。

「それにしてもまさか軽部さんがアマッドネスだったとは」

 いきさつを車中で聞かされた薫子は動揺を隠せない。

 それでも「そうかもしれない」と言う思いで探していたくらいだから幾分は軽い。

「あれだけアマッドネスが派手にやっているのになんか警察が後手後手だと思っていたが内部に幹部がいたんじゃ無理もないな」

「およしなさい。セーラさん。失礼ですわよ」

 すでに変身後が長く女性のほうが基準となっているブレイザとジャンスは変身を解除していない。

 エンジェルフォームの女子制服姿だ。

「それで本題。どうしてスズさんが友紀さんと?」

 ジャンスが促す。今は女性用スーツ姿に扮したスズが一同を見渡す。

 そして六武衆やガラとさし違えたことを伝えた。


 そのころ、警察の広報車が走り回っていた。

 工事現場から不発弾が見つかり緊急の処理を行うための避難勧告だ。

 いうまでもなくこれは方便。

 一般人に被害が及ばぬように避難させる。


 会談場所。スズが静かに話を進めて行く。

「だいたいはわかった。一つだけ疑問だ。どうして友紀と融合できる?」

 当初は邪心と評したネガティブな心情でシンクロすると取り付かれると思っていた。

 だからアマッドネスから解放されると男性の場合は女性化と言う代償はあるが心の重荷はすべて吹き飛ぶ。

 ゆえに二度と取り付かれないと思い込んでいた。

 少なくともここまで二度アマッドネスになったケースはない。

「これはこの時代に魂だけで蘇ってから初めての現象なので推測だが…結びつくのに必要なのが君たちの言う『邪心』とは限らないということだ」

「そう言えば…」

 ブレイザは激しく切り結んだオウルアマッドネス・コノハを思い出した。

 あれは単に強い相手と闘いたい。それだけだった。

 邪心と言うより純粋な願い。

 清良もパピヨンアマッドネスを思い出していた。

 こちらも「女の子になりたい」と言う思いがロウテとのつなぎになった。

「じゃあ友紀の場合は?」

「私と同じだったのは『罪の意識』だ」

 推測ではなく言い切った。そしてそれで充分だった。

 スズはかつてはアマッドネス。その無法の行いで幾人物人の命や財を奪い取った集団の一員だった。

 命を直接奪ったのは六武衆を倒した時が初めて。それでもそれまで止めていなかったのだ。間接的に略奪などに加担なしたと言える。

 友紀は取り付かれていたとは言えど清良を殺しかけている。

 共に強い悔恨があり、贖罪を求めている。

 それが二人を結びつけた。


 覆面車で流しつつ街を見渡すが人が誰もいなくて軽部は驚愕した。

 人がいないのは理解できる。迎撃前提だ。巻き添えを嫌うなら当然。

 しかしいるはずの警官隊までいない。これでは奴隷女として「戦闘員」を増殖することも出来ない。

(くそっ。やられた。どうせ拳銃も通用しない。やつらも避難対象と言うことか。すると)

 待ち構えているのは戦乙女とスズだけ。望むところだった。

(ならば奴らの度肝を抜いてくれる)

 軽部はジャッカルアマッドネスに変身すると両方のドアを吹き飛ばした。

 そして入り口に福真署の入り口に向かって加速した。


 実は警官隊は潜んで配置されていた。

 その指揮は渡会のり子。サポートとして使い魔たちが協力していた。

 相手は人外。人の力だけでは太刀打ちできないゆえだ。

 もちろんアヌ・軽部が向かうのを知らせる目的もある。

 しかしそんな使い魔たちもさすがにこれはどきもを抜かれた。

(セ、セーラ様。危ないです)

 あわててキャロルが思念を送る。


「だからお願い」

 不意にスズが友紀の姿に戻る。彼女が直接伝えたい言葉。

「私も闘わせて。キヨシ」

「ダメだ。危ない」

 清良としては当然の反応だ。

「私だけじゃない。スズさんが協力してくれる。私たちは罪を償いたいの」

「何度も言っているだろう。あれはお前の……なんだよキャロル。うるせーな。危ない? なに」

 「何がだよ?」と言いかけた所に激しい音が。

 驚いて全員がそちらを向くと段差すら物とも乗せず車が突っ込んできていた。

 事故にしては正確すぎる。アヌが先制すべく乗り込んだのは想像に難くない。

(むちゃくちゃしやがる。自爆覚悟かよ?)

 清良は恐ろしさを感じた。こうまでして自分たちに殺意を向けるとは。


「キャストオフ」


 ブレイザとジャンスがヴァルキリアフォームに。そして立て続けに超変身。ブレイザ・アルテミスフォームで動きを察知。

 そしてジャンスがそこを撃つというコンビネーションだ。

「まだ中ですわ」

「了解」

 ロリータフォームで運転席めがけて乱射。薫子もショットガンを撃つ。しかしそれは既にアヌの頭にある。

 あらかじめ確保していた出口から飛び出す。そして壁をめがけて飛ぶ。

(またあの反射攻撃?)

 壁から自分の方へ向かう直線をイメージして軌道を読む。そこを斬るつもりだった。

 しかしとんだのは反対側の壁。そこをさらに蹴る。

 超感覚ゆえ追えたが身体能力はアヌの方が勝っていた。

 かろうじて向き直ったもののブレイザは一撃を食らう。


「くそっ。オレも」

 清良は変身しようと立ち上がる。

 その隣で友紀が。

「やめろ。お前まで闘う必要はない」

「でもこのままじゃみんなやられる」

 脅し文句ではない。とにかくあのスピードが厄介だった。最強の防御であり攻撃だった。

「…………ッ!」

 友紀を巻き込みたくはないがこのままではじわじわと殺される。

 この時点でジャンスロリータフォームは魔力を使い果たして強制的にエンジェルフォームへと戻っている。ブレイザも負傷している。強制的にエンジェルフォームに戻っているがアルテミスで魔力を消費したため闘えない。劣勢だ。

 ただし何発かはアヌを掠めていた。そしてこの運動量。さすがに止めざるを得ない。

 姿を現すがジャンスもブレイザも攻撃出来る状態ではない。薫子のショットガンを物ともせずゆっくりと迫りくる。

 清良はここでやっと踏ん切りがついた。

「仕方ねぇ。お前は俺が絶対に守る……いや」

 友紀。そしてスズの気持ちを考えて言いなおす。

「一緒に闘ってくれ。友紀」

「わかったわ。清良」

 笑顔でうなずく友紀。


 学制服姿の清良は右手を天に。左手を地に向けガントレットを出現させる。

 セーラー服の友紀は左手の甲を下に向けてわきにひきつける。その手首に右手の手首を合わせる。

 清良の腕が水平になった。

 友紀の腕が右へ移動してから中央に。

 清良の腕がひきつけられた。

 友紀の手が前方へと伸びる。共に叫ぶ。


「「変身」」


 清良の手が前方へと突き出され交差。まばゆい光に包まれる。

 友紀の手が上下反転すると瞬間的にスズの人間体に。そしてメタモルフォーゼが始まる。

 セーラー服の戦乙女とスズメバチの異形がそこに現れた。

「拳の戦乙女。セーラぁッ」

「我が名はスズ。アマッドネスを滅ぼすもの」

 かつてとはだいぶ姿が変わっているがそれでもスズをイメージさせる姿。

「スズゥゥゥゥゥゥッ」

 瞬間的に沸点に達するアヌ。

 これまでは監督する立場で影から冷静に見てきていたが実戦に出た事。

 そして自分とガラの仇であるスズを見たらどうにも血が滾り抑えきれない。

 セーラには目もくれずスズに向かって突進する。まずは動きを止めるべく体当たりを敢行。

 しかしそれはセーラ・エンジェルフォームがその鉄壁の防御力でガードした。

 スズに向かっているのがわかっているのだ。軌道を読むのは難しいことではない。

「邪魔をするなぁっ」

 腕を振り下ろす。セーラがガードするのも頭にある。ガードした瞬間の隙を突く。だが

「キャストオフ」

 攻撃は最大の防御。ヴァルキリアフォームに転じるべく布のヨロイをふっ飛ばした「爆風」でアヌをふっとばす。

 間髪おかずにセーラとスズが攻撃すべく駆け寄る。

 セーラの拳。スズの剣が当たらぬまでもアヌを防戦一方にさせていた。

(くっ。とりあえず間合いを取る)

 まずは後方の壁に飛ぶ。そこまでは読まれるだろうが反射してしまえばこちらの物。

 セーラがフェアリーフォームになるとしてもチェンジに若干の時間が掛かる。問題ないと思っていた。

 だから思った通りに壁へとバックジャンプする。まるでそれを待っていたかのように薫子の散弾銃が火をふいた。

「ぐおっ」

 不意を突かれた形で意外にダメージを受け反射し損ね落下する。

 後方と読みきれたのは半分は壁との距離。後方が一番近い。それに後方なら二人の攻撃をさけながら出来るが左右だとどちらかの攻撃を真正面から食らう。

 後は半分は見当つけてのばくち。それに勝った。運も味方してきた。

「もらいっ」

 動きさえ止まればジャンスの物。まだ回復しないがエンジェルフォームの矢を放ち腹部に突き刺さらせる。

 一番大きな的を狙ったのであり「逸れて」胸に当たればなおラッキーと言う考えであった。

 それでも魔力のある矢で受けたダメージは動きを止めるには充分だ。

「だぁぁぁぁっ」

 これまた再度の超変身で傷をリセットしたブレイザ・ヴァルキリアフォームが斬りかかる。

 アヌはとっさにかわしたものの脚に深手を負う。最大の武器であり防具である俊足に重大なダメージを受けた。

 無様にひざまずく。まるでスズに土下座をする形だ。

「終わりだな。アヌ。友の元に逝くがよい」

「逝けだと? 私はただガラ様のお役に立ちたかっただけだ。それだけがあのお方へ私の愛を示す手段だ。誰かを愛する事が罪だと言うのか? ならばお前は罪を説いていたことになるな」

 挑発ではない。それは半狂乱が証明していた。

「だがそれで他の者を踏みにじる事など許されない。もう逝け。いずれ私も行く。待っていてくれ」

 スズは哀しそうにつぶやいて歩み寄る。まだアヌの傷は癒えていない。逃げられない。

「許せよ」

 懺悔の言葉と共に細い剣で心臓を一刺し。いくらアマッドネスでも急所には違いない。

「とどめは頼む」

 最後をセーラに託した。セーラは無言でうなずき歩み寄る。

 天井の低い室内ゆえキックの高度が取れない。となると技は決まってくる。

「ごめん」

 奇しくもこちらも詫びの言葉を発して左手のチョップ。これで動きが止まる。

 そして即座に炎のアッパーカット。クロスファイアーだ。

「あ…ああ…ガラ様。ガラ様。ガラ様ぁーっ」

 最後の最後まで愛しい存在の名を呼んで強敵。アヌは散った。


 警視庁。とある一室。

 タバコを燻らしていた三田村の脳裏に嫌な電気が走る。

(アヌ…逝ったか)

 その表情は抜け落ち、何の感情も見出せなかった。


死将・アヌ 散華 六武衆全滅


 いつものように全裸の女性が気絶している。軽部司郎だった女だ。

 一応はもう女だ。裸体を晒しておけないので薫子がとりあえず宿直室から持ってきた毛布をかぶせる。

 そこで気がついて無線を手にする。

「ノリ。終わったわ。警戒態勢は解除よ」

「逃げて………いぶ」

 薫子は硬直した。あれだけ固執していたガラ将軍。その人間の姿の名前をうわごとで口にしかけている。


 一方で戦闘の終了した戦乙女たちはさすがにほっとしている。

「どうしてあの時お二人は謝ったんですの?」

「一応はかつての同胞だったからな。というより」

「かわいそうだったから…だろ。友紀」

 不思議なことにセーラは未だ男性精神のままだ。

「うん」

 仮面の異形から一瞬だけスズの顔になり、そして友紀の姿に戻る。

「あの人、間違っちゃったんだよね。もちろん人殺しは許されないけど大きな所では好きになった人に愛されたくてあんな風になっちゃったんだよね」

「そっか。歪んでいるけど『純愛』だったのかな」

 元から女性的なジャンスはどこか遠い目でそうつぶやく。

「そしてセーラさん…と言うより高岩くんと野川さんも純愛かしら」

 一応は友紀の前と言うこともあり呼び捨ては控えたブレイザ。

「な、何でだよっ!?」

「お気づきになりませんの? あなた男の心のままですわよ」

 にんまりと言う感じで笑う。まるっきリ女。それも恋の話が大好きな女子高生そのもの。

「なるほど。友紀さんを思う心が男の心に戻すのね。素敵」

 こちらもだった。元が元だけによりひどいトリップをしている。

「ちょ…お前らなぁ」

 いじり倒されかけてきたがそれを打ち破る緊迫した声。

 薫子のそれだ。電話をしている。


「こちら一城。緊急手配を願います。警視庁の三田村健治警部の身柄を確保してください。アマッドネスの大幹部の危険性があります。繰り返します。三田村警部はアマッドネスの危険性があります」」

次回予告


「なってないな。鍛えなおしてやる。わが配下となれ」

 

「だったらなおさら離れられるか。友紀も、そしてお前もオレが守る」


「カオル。やはり連絡が取れないわ」

 

「スズはこないのか? それならば引きずり出すまでだ」


EPISODE45「将軍」

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