EPISODE43「正体」
アマッドネスがミュスアシを侵攻する直前のスズの謀反。
クイーン守護の任に就いていた六武衆はまず得意の空中で油断した所を「高速飛行はいいが小回りが利かない」と言う弱点を突かれファルコンが羽根を斬られてたたき落とされた。
そのまま高空からスズはスピンしながらのキック。
後にホーネットスティンガーと名づけたそれを見舞いまずはルコを潰した。
「飛将」を失ったことで頭上を完全に押さえられた後の五人。
ならば飛ぶ前にと「剛将」サザが高速回転で突っ込んでくる。
それを最小限の動きでかわすスズ。
自爆はしなかったものの高速回転の影響でスズを見失ったサザは位置を確認すべく顔を出した。
そこにスズが得物である細い剣を投げ喉を貫く。
「ぐあっ」
文字通り「喉笛」となり空気が抜ける音がして呼吸困難に陥る。
アマッドネスの再生能力でも酸素が脳に行かなくなれば致命傷だ。
だが休む間もなくサザへの攻撃の虚を突きその背後から「邪将」スストが斧を振り上げて迫る。
スズはかわすべく前方に倒れこみ、そのまま足の裏を叩きつけるトラースキックをスストの腹部に見舞う。
くの字に折れ曲がる蠍の異形。斧の重みもある。
そしてその重みを利用してスズは振り下ろされた斧をそのままスストに突き刺した。
「おのれ」
あっという間に三人を倒された。直接戦闘に長けていない「狂将」ギルが逡巡している間にスズはリモートコントロールでサザの喉に刺さる細い剣・ニードルをて元に呼び戻す。
ギルの武器である魔笛も相手が同じアマッドネスでは逆効果。スズにかなわずなす術もなく倒された。
背後から毒胞子を飛ばしてきた「麗将」ライ。だが暗殺のエキスパートである彼女の手口はお見通し。
飛び上がり華麗に空中で舞うとそのまま脳天に蹴りを見舞い動きを止める。そこを降下しながら叩き斬り絶命させる。
とうとう最後のひとりになったジャッカルアマッドネス。「死将」アヌ。
ここに来てもクイーンの守護かガラ将軍は参戦しない。
直前にスズと切り結んだ疲労は取れた。逆にスズは六武衆との戦いで疲弊してきた。
(これが狙いか…)
悟ったスズは大声で叫ぶ。
「アヌ! お前はガラに利用されているぞ」
無駄を承知で叫んでいたが帰ってきた反応は予想とも違っていた。
「だからどうした。私はあのお方のためなら死んでもいい。とことん使われて捨てられてもあの方の愛さえ感じられるなら」
厄介だった。使命感でも義務感でもなく「愛するゆえ」の行動。
スズにとって自らが訴えた「愛」が障壁となる皮肉。
アヌとの戦いはその戦闘能力もありスズを大いに消耗させた。
ぐらついたところに勝利を確信したアヌの攻撃。だがその刹那に生じた隙をつき腹部に深々と致命の一撃をくわえる。
アヌは口から血を吐いた。内臓に重度の損傷があったことを意味する。地面に倒れふす。
まるでそれが合図であったかのようにガラが戦いに入った。
(ああ。ガラ様。我々がスズを疲れさせたのを受け休ませずに戦ってくれたのですね)
ガラが自分の犠牲を受け取ってくれたと感涙したアヌ。
共に戦うべくなんとか傷を回復させようとして執念を燃やす。
だがガラはスズと刺し違えた。その死をまざまざと見せ付けられ絶望したアヌは今度は悔し涙を流す。
(ガラ様。ガラ様。愛しいお方…スズめ。許さん。許さんぞ)
そしてアヌは将軍の後を追うように命の火を消した。
警視庁。三田村の部屋。
三田村の前にいる軽部は無表情。いや。かすかに頬を染めている。
「お前も夢に見るのか?」
三田村の問いに軽部は首を振る。
「あなたがいる以上は意味のない過去です。こうして再びおそばにいられるのですから」
三田村は無表情だ。困惑しているようにも、何かを言うに言えない様にも見える。
「まさか同じような境遇のヨリシロがいたとは。これもまた定めでしょうか」
「そうか…」
三田村。そしてその身に宿るガラも苦虫を噛み潰した表情になる。
だが意を決して言葉を出す。
「だがすまない……もう一度、私のために死んでくれるか?」
「そのお言葉。待ちわびておりました」
軽部。そして同化したアヌは本心からそういった。
EPISODE43「正体」
秋から冬へ。11月も半ばを過ぎて清良。礼。順の三人は百紀高校の一室に集まっていた。
「冷えるな。さすがに」
素手をこすり合わせて清良が凍えた様子を見せる。
「鍛錬が足りないのだ。貴様は」
まぜっかえす礼だがきちんと手袋をしていた状態だ。それを脱ぎながらでは説得力も弱い。
「えー、でも寒いものは寒いですよ。特に僕は太もものあたりはむき出しだから」
「「だったらスカートやめてズボンを穿け!」」
犬猿の仲の清良と礼がシンクロツッコミを見せたのはこの寒いのにかかわらず順がわざわざスカート姿だから。
変身してはいない。女装だ。百紀高校の制服姿なのでスカート丈はやや短い。
「まったく。男なんだからスカートは制服じゃないだろう。この寒いのにわざわざ脚をむき出しにするなんて」
「同感だな」
礼の言葉に清良。そして順が目を見張る。
「どうした?」
「いや。お前がオレの言葉に賛成するとは思わなくてよ」
「ちょっと驚いちゃいました」
「こ、これはあくまで一般論だ」
虚勢をはるがどこか照れ。そして本人も自分に対して驚いている。
それをにこやかに微笑んで見ていた順が穏やかな声で言葉をつむぐ。
「僕もお二人と同じなんですよ」
「なにがだよ」「主語を省くな」
またつながった。そっぽを向く二人。
「二人とも最初の頃に比べて険悪な雰囲気がなくなりましたよね」
指摘されて向き合う二人。言われて見ると前ほどひどい関係でもない。
「アマッドネスと手を組むくらいだ。一応は味方だしな」
もちろんここで礼の言う「アマッドネス」はスズのことである。
「それもそうですけど僕たちの中にあるものが少しずつ削られているんじゃないかと思うんですよ」
順の言葉にはっとなる二人。
「クイーンの…」「かけらって奴か」
アマッドネスたちの力の源であり、戦乙女たちを女としての転生をさせない…言い換えれば清良や礼。順を男としている存在。
事実それを吸い取られた清良は一時的だが心身ともに少女と化した。
元々男性性の希薄な順は「削られた」影響でますます女性服を望むようにも。
「戦いを続けて経験をつんだのもあるが」
「オレたちが強くなって行ったのは少しずつそのかけらがなくなり」
「本来の戦乙女としての力を取り戻しつつあると言うことなんだと思います」
それは今の自分が過去の存在にとって代わられて消滅することを意味している。
「最近は女になってもいいんじゃなくて『なりたい』…表現としては『戻りたい』なんです」
重い雰囲気が支配する。
自分たちの存在の消滅が現実味を帯びてきたことと、最後の戦いも近いと言う点で。
「それはさておきよ」
その雰囲気を変えようと強引な話題転換を図る清良。
「今日はどうしてここなんだ?」
生徒を巻き添えにする危険性を減らす目的と、共同戦線をはる警察に対する情報提供もありここしばらくは薫子のいる福真署が会議室になっていた。
「話題が話題なんで」
警察の人間…ズバリ薫子には聞かれたくないからだった。
同時刻。とある喫茶店で一条薫子と渡会のり子は話をしていた。
こちらに至っては職場から離れた形だ。
両者ともに私服姿。一見するとただの女友達。
「珍しいわね。ノリが勤務時間にこんなところに」
「ちょっと(警察署の)中では出来ない話なのよ」
「どういうこと?」
訪ねられるが視線を横にするのり子。彼女には珍しい態度だ。
しかし意を決して話を切り出す。
「妙な噂を聞いたのよ」
「噂?」
確かに内部調査をしていた。噂と言うのは重要な情報源だ。
「カオルの元の同僚に軽部って人がいたっけ?」
「軽部さん? ええ。いるわ。え? 何かあるの」
驚いている薫子。ますます言いにくそうなのり子だが進まないので切り出した。
「いい。あくまで噂よ。実は彼、ホモなんじゃないかって」
「ええええーっっっ」
斜め上どころではない話の展開。思わず声を上げる。
「カオル。静かにして」
「ご、ごめん。でもびっくりしたわ」
「実は結構前から疑惑はあったらしいのよ。まぁ別に性癖は個人の自由だけど…でも、あまり理解されないわよね」
「そうか!?」
アマッドネスは必ずしも邪心で結びつくわけではないのはこののり子が生き証人。
そしてアマッドネスが女だけの集団と言うのはセーラたちから聞いている。
男女の違いはあれ同性愛と言う理解されにくい恋心を抱くものがいないとも思えない。そこでベクトルが一致すれば…
「後は車にしない?」
完全密室での対談を希望した。のり子もそのほうが楽に感じて同意した。
百紀高校。三人は本来の目的である話し合いをしていた。
「やっぱオレは薫子さんがスズだと思うんだよ」
議題はスズの正体。だから最近使っていた警察署が「会議室」ではないのだ。
「確かに消去法でいけばな」
礼としては清良に賛成するのが癪でも同意せざるを得ない。
「番長と森本君はスズさんと一緒に出てきたから除外。野川さんは一度憑かれているからこれまた除外。そうなると他にいないよね」
無論あの時他に居合わせた人物がいるのかも知れない。
それと一心同体になった可能性もゼロではない。
しかしあれだけセーラのために熱くなって戦ったり、事情に色々詳しいところも考えると薫子がスズの正体と考えるほうがしっくりくる。
「俺がかつて戦ったふくろうのアマッドネスは剣士として死ぬことに執着して、同様の剣士と融合した。だから必ずしも邪心がつなぎとは限らない」
スズはアマッドネスを見限っていた。そして正義のために働く薫子とシンクロしても不思議はない。
扉が叩かれる。少女の声で「失礼します」と断りが。
「はーい。開いてますよぉ」
在校生である順がその女性性そのままに優しげな口調で声で入室を許可する。
扉が開かれジャンパースカート姿の長い髪の少女が現れた。
「どうしたの。佐藤さん?」
「押川君。警察の人が」
同級生が警察官の訪問を受ければ案内役の少女がおびえるのも無理はない。。
だが不安に反して順は笑顔になる。
「女の人?」
薫子をイメージしている。
「残念だが一城さんはこられない。だが君達を呼んでほしいと頼まれてね」
現れたのは猟犬を思わせる鋭い視線を持つ男だった。彼は身分を明かす。
「薫子さんの同僚か」
ほっと笑顔になる清良。無表情の礼。
「それじゃ」
順が言うと三人は立ち上がり軽部に同行した。
百紀高校正門を出て車に乗り込む寸前だ。校門の脇。外壁の前に止めてある車の前。
その前で清良が切り出す。
「ところで…どうしてオレたちがここにいることがわかったのかな?」
今度は彼に笑顔はない。車は密室。閉じ込められたら不利。うかつには乗り込まない。
「ふ。警察の調査力を持ってすればたやすいですよ」
軽部は動じず冷静に言う。
「ふーん。そうかい。なるほどなぁ」
口調と裏腹に笑顔はない清良。
「それじゃあもう一つ。どうして一人なんだ?」
警察は基本的に単独行動はしない。それが一人で現れた時点で疑われていた。
(しまった)
目的が暗殺だ。事情を知らない警官を連れてくるのは面倒だったこともあり単独できたがそれがまずかった。
思案して視線をそらしている軽部。
冷静さを欠いていたのは三田村直々の指示だったからだ。
何しろ彼は三田村に対して秘めた思いがある。それが冷静さをなくさせた。
(くそっ。考えがまとまらんっ)
「悪いけどオレ。基本的に警察は嫌いなんでな。何せ不良だから」
女の声が響く。驚いた軽部が見ると既に三人は戦乙女になっていた。
既に緊急事態と認識していたため心が高まり「スイッチ」であるポーズも無しに変身できた。
「ばかなっ!? 『儀式』も無しに変身だと?」
「へぇー。ただのおまわりさんが『儀式』と表現するんだぁ」
ジャンスの言葉に失態を重ねたことを悟った。
「観念しておとなしく話をしてもらおうか」
変身直後で未だ男の精神のブレイザがそのお嬢さま風の声で言うと違和感があるがそれを気にしている局面でもない。
「くくくく。さすがだな。108の魔星を退けたと言うのは伊達じゃないな」
もはや隠すつもりも無い。
「だが貴様らも一つ失念しているぞ」
ここで軽部は正体であるジャッカルアマッドネスへと変貌する。
乳房こそあるもののエジプト神話の冥界の神・アヌビスに似た姿だ。
「私が一人で現れたのは貴様らをまとめて葬れる自身があるからと言うことをだ」
言うなりアヌはその場から消えた。
(むっ。この気配は……アヌ!)
同じ都内だがそれほどは近くない位置でそれを察知した。
「でたの? それなら代わるわ」
ヨリシロが申し出る。
(頼む)
肉体の主導権がヨリシロからスズへと移る。顔もスズのそれになる。
スズは左腕を甲を下にして腋にひきつけ、その手首に右の手首を重ねそのまま右へと移動する。
そこから中央へと運び前方へと突き出す。
上を向いていた右手の甲が下に。左手の甲が上を向いた時にスズはスズメバチの異形のような姿へと転じた。
そして呼び寄せられていた愛機・ダークブレイカーにニードルと言う銘のレイピアを挿し込みハンドルとすると稲妻のように走り出した。
とっさにジャンスが弓を上に向けた。頭上を取られた可能性を考えた。
セーラとブレイザが背中合わせになり互いの死角をカバーする。
この間にも使い魔たちの召還は忘れていない。
トンッ。いきなり壁にアヌが現れた。壁面に跳びそこで反射する。
いわゆる三角蹴りだ。得物のないセーラが狙われた。
エンジェルフォームはむき出しの部分もカバーしているがそれでも反射的に顔や喉をガード。
まるで死神の鎌のように薙いだアヌの手はブロックされた。
しかし動じることはなくすぐに姿を消した。
戦いの経験を重ねてきた三人にはこれが瞬間的な加速と見当がついた。
あまりに速いため動体視力が追いつかない。
なぶり殺しかと思ったが使い魔たちが間に合った。
駆け寄りながらビークルモードへと。
三人の戦乙女は地元であるジャンスの先導で戦いの場を変える。
警察無線が百紀市の河川敷での騒動を告げる。
そしてちらほらと犬のような姿の化物の目撃情報が。
覆面パトカーは百紀市へと向かい加速する。
河川敷に誘い込んだのは巻き添えを避けての物と、足場の悪さで敵の超加速を封じる意図だった。
前者はともかく後者はまるで見当違い。まったく衰える様子がない。
それでも壁などがなく立体的な戦闘をさせないだけでも意味はあった。
そして戦ううちにわかったことがある。
この超加速は瞬間的にトップスピードになるため目が追いつかない。
だがそれはそんなに長い時間は持たない。どうしても止まることになる。そしてその距離もおよそ10メートル。
ごく短距離だがその加速で脅威になっていた。
またこの能力はその性質ゆえ直線に限られる。曲がる時は見えるスピードになるため姿を現す。
そこをジャンスが撃ち牽制している。
セーラは俊敏性に長けたフェアリーフォームになっていた。
動きそのもののスピードには追いつけるが視認した時には別の所に移っておりいたちごっこ。
ブレイザにはアルテミスフォーム。ジャンスにはアリスフォームと言う鋭敏な感覚の形態があるがどちらも30秒しか維持出来ない。
ジャンス・アリスフォームなら遠距離を狙い撃てるが動きが鈍くそちらで追いつけない。
打つ手無しであった。
ウォーレンが頭上。キャロルとドーベルがそれぞれの主のそばについている。
焦れる戦乙女たち。
だがアヌは勝負を急がない。
なぶっている? そうではなく何かを待っている。
そしてその「待ち人」が来た。
まるでパトカーのサイレンのように轟音が存在感を示し、漆黒のボディに黄金の稲妻が走る鉄の馬にまたがりスズメバチの異形がはせ参じた。
瞬間的に「切れる」アヌ。
「スズゥゥゥゥゥゥゥッ!」
それまでは比較的クールに振舞っていたジャッカルアマッドネスが憎悪を隠そうともしない。
呼吸を整える目的もあってか対峙する。
戦乙女サイドからしたら絶好の反撃チャンスだったが、こちらも強いられた緊張から解かれてそれどころではなかった。
「アヌ……」
仮面のような顔で読み取れないはずの表情がどこか哀れむような感じに見えるスズ。
「討たせてもらうぞ。私と…愛するガラ様の仇を」
アヌはスズに向かって突撃して行く。また姿が消えた。しかし瞬時にスズの眼前で見えた。
攻撃態勢に入ったため足が止まったのだ。
大きく振り上げた手を一気に振り下ろす。
そのスピードが生み出す真空。それがまさに「カマイタチ」を発生させていた。
あらかじめ知っていたスズはそれをかわしていた。
むしろ初見である戦乙女たちに手の内をばらした形だがそんなことはお構いなし。
ひたすらにたぎる憎悪をスズにぶつけていた。
(今なら)
ジャンスがアリスフォームへと転じる。
スズを味方と認識した今は巻き込むわけには行かない。
だから正確にアヌだけを狙い討つ。
そしてセーラとブレイザもそろりと移動を始める。
今ならアヌの足が止まっている。
だがそれは一台の車によって阻まれた。
「セーラちゃん」
車から出てきたのは一条薫子。手にはショットガンを持っている。
これに衝撃を受けたのが戦乙女たち。
なにしろスズの正体は薫子と推測していたのだ。ところが当の本人がこう言う形で否定した。
(え? それじゃスズは一体誰なの?)
戦闘中と言うのを忘れるほど混乱して立ち止まるセーラ。
ここで逆にクールになったアヌ。
まずは戦乙女の一人をしとめるとばかりに超加速でセーラに迫る。
「危ない」
スズの金切り声で自分に脅威が迫っていると察知したセーラ・フェアリーはとっさに空に逃げた。
そしてそのままスズの元に。
「どういうことなの? あなたお姉様じゃなかったの!?」
「今はそんなことを…危ないッ!」
セーラを抱き締めるスズ。その背中にアヌの体当たり。
カマイタチだと姿を視認される。だから超加速そのものを攻撃に応用した。
吹っ飛ばされたスズとセーラは運悪く女の急所とも言うべき胸から落下した。
その「女にしかわからない痛み」で一瞬だが気を失ったのか清良の姿に戻る。
「この」
ジャンスが援護で弾丸をばら撒く。そのおかげで清良たちは無事だ。
だがその清良は愕然としていた。
これだけ長い時間を変身していたにもかかわらず男の精神状態に戻っていた。
「そ…そんなバカな? どうしてお前が…スズの正体だと言うのか?」
スズが吹き飛ばされた場所にはスズメバチの異形の姿も二十台の女性の姿も無い。
福真高校女子制服のセーラー服。リボンでくくられたポニーテール。
新体操で鍛えられ均整の取れたプロポーション。それでいてしなやかさを感じさせる。
顔は見えなくとも幼いころからの付き合いで後ろ姿だけでも誰だかわかる。
清良の絶叫がこだまする。
「お前がスズなのか? 答えてくれ。友紀ーっっっっ!」
次回予告
(ススト…ルコ…サザ…ギル…ライ…みんな死んだ。もう生き返れない)
「これからここに相手を迎え入れるのよ。逃がせる人は逃がさないと」
「私と同じだったのは『罪の意識』だ」
「やめろ。お前まで闘う必要はない」
EPISODE44「純愛」