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戦乙女セーラ  作者: 城弾
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EPISODE41「強襲」

 繁華街。昼ならともかく夜には学生には向かない場所。

 そこに不似合いないるだけで補導の対象となる女子中学生二人。

 一人はお下げ髪。もう一人はショートカットにカチューシャ。

 両者ともに垢抜けない感じと言うか子供っぽかった。

 それが恐怖にうち震えていた。理由は明白。

 多数の不良学生に囲まれていたからだ。

 体だけ大きくなった男たちだ。

「な。いいだろ。俺たちが気持ちいいこと教えてやるからさ」

 金ではなく体目当てだった。

 好奇心から繁華街に来た二人。お下げ髪が久慈蘭子。ショートカットが赤土竜子。

 親の言いつけを無視した事を激しく後悔していた。

(ど、どうしよう)

(困っているだね)

 竜子の脳裏に声が響く。

「誰?」

 蘭子の声ではない女の物。一方その蘭子も

(困っているなら助けてあげる。その代わりあなたたちの体を貸して)

「なんでもいいから助けて」

 思わず叫ぶ。

「何だぁ?」「恐怖でいかれたか?」

 だが二人の女子が異形に転じたことで彼らが恐怖した。

「うわぁぁあっ。ばけものだぁぁっ」

 おびえて反対方向に逃げる不良たちの前に立ちはだかる一人の男。

 夜と言うのにサングラス。皮ジャンパーにズボンと言う姿だった。タバコを燻らす姿が妙に様になる。

「お前らバカだな。こっちにはもっとこわーい『化物』がいるのによ」

 彼。中屋敷純郎はタイガーアマッドネスへと変化した。

「わああああっ!? こっちにもかっ?」

 三体の「化物」に囲まれた不良たちは硬直し、そこをやすやすとタイガーアマッドネスのツメにやられて奴隷女へとなる羽目に。

「よし。そいつらをつれてこい」

 なぜかこちらも恐怖でこわばっていた二体のアマッドネス。

 女子中学生姿へ戻るように命ぜられて無抵抗で連行される。

(コイツはいい。スズに対して丁度いい手駒だぜ)

 中屋敷は新しいタバコに火をつけ、そしてにやりと笑った。








EPISODE41「強襲」











 福真署。そのアマッドネス特捜班にあてがわれた部屋で恒例の情報交換をしている清良。礼。順。

「最近はこちらもあまり出てこないですね」

「同じだ。もう数え切れないので残り何体かは知らないが」

 それも無理はない。それだけの戦いをこなしてきたのだ。

「単純に考えてオレのあたりが一番残っているはずなんだが最近は動きがねぇな」

「そういえばあのキノコのアマッドネスはどうした?」

 礼の悪意か。それともたまたまか清良のトラウマを刺激する羽目に。

「……見つけたら死ぬほど殴ってやる」

 どすの利いた低い声で猛獣がうなるようにつぶやく。本気で撲殺しそうだ。

 もっともその手を汚すまでもなく既にトードスツールアマッドネスは「処刑」されていた。

「ねぇ。高岩さん。男の人とのキスってどんなでした?」

 こちらは明らかに興味津々と言う感じの順。

 メガネの奥の目の輝きは女子のようだ。

 対する清良はやや曇った瞳でうんざりした表情。

「忘れさせろっ。そうでなくても学校でもうんざりしているのによ」

 完全に女性化した時にわざわざ登校して「可愛い女の子」として振舞ったのが未だに生徒たちが覚えている。

 全員殴り倒して記憶消去をしたいくらいだった。

 むしろ逃げ出したいが逃げるというのが癪に障るのは「清良」の部分。セーラの生真面目さも作用してそれは実行に移さないでいた。

「ふん。油断しているからあんな不覚を取る」

「誰があんなのを想像できるよ」

 その言い分はもっともだ。本来は男の清良にしたら「満員電車で痴漢の濡れ衣を着せられる」なら警戒しても「男に唇を奪われる」など考えもしない。

 いくらあの時点では心身ともに女子だったと言えどだ。

「確かに予想外だったよねぇ。伊藤さんだって心構えが出来てない事態に直面したらわかりませんよ」

「押川は高岩の味方か?」

 ちょっときつい表情になる礼。

「いいえ。どっちでもないですよ。ただそう言うことは誰にでもありえると」

「それにしても薫子さんおせえな」

 うんざりしてきたので強引に話題を変えに掛かる清良。

 この日は薫子を交えての情報交換会の予定だった。ちなみに渡会のり子は別件で出払っていた。

「じゃ今のうちに」

 清良はトイレに行くべく立ち上がった。


 用をたして戻る途中で薫子の後ろ姿を見つけた。

「遅い」と文句を言おうと思ったが薫子の向こうに懐かしいセーラー服姿があったのでそちらに気が向いた。二人いる。

「あっ。高岩くん。ごめんね。ちょっと待っててくれる?」

 気配に気がついて薫子が顔だけ向けて謝る。

「いや。そりゃいいけどよ。こいつら福真二中の生徒?」

「知っているの?」

「俺や友紀もいた学校」

 女子中学生の一人が「友紀」の言葉に反応する。

「友紀って…もしかして野川先輩のことですか?」

「なんだ? 知ってんのか?」

「はい。バスケ部の先輩でした」

 ショートカットの女子が言う。

「ああ。あいつ新体操部に入りたかったけど中学になかったんで仕方なく誘いのあったバスケ部に入ったとか言ってたな」

 懐かしむように言う。

「で、こいつらが何したの?」

「したって程じゃないわ。夜の繁華街をうろついていたのよ。ただそこでアマッドネス見たと言うから話を聞いていたの」

 むろん街中でならアマッドネスなどと口走れない。

 その際の隠語もある。しかしこの場は情報を得る相手だ。出しても問題がないので名前を出した。

「なんだと? どんな奴だ?」

 思わず険しい表情。強い口調になる清良。おびえる女子中学生。

「高岩君」

 軽くたしなめる薫子。自分の非を認める清良。

「すまねぇ。な。教えてくれ。どんなやつだ。きのこみたいな奴か?」

 やはり忘れられるはずはない。

 だが目撃者の少女は首を横に振る。

「いえ。虎の化物でした。テレビに出てくる怪人みたいな」

「ホントにテレビの撮影とかじゃなくて?」

「撮影とかの見間違いとか言うおびえ方じゃないわ。それで先にまず私が聞いていたのよ」

「なるほどな」

 つじつまが合うなら自分たちにも同じことを話させるつもりだろうと清良は解釈した。


 警察病院。

 人払いをした状態の広瀬葉子の個人病室。

 ベッドの上で半身をおこした葉子。だがあどけない幼女ではなくまるで女王のような威厳をかもし出していた。

「イグレが?」

「はっ。戦乙女とスズの首をとると」

 傅いているのは警視庁の幹部である三田村。ただし姿こそそうだがここではガラ将軍として来ている。

「ふん。使えるのなら取り立ててやってもよい。よし。お前ら。手伝ってやれ」

 可愛らしい声でそばにいる女性看護士二人に命ずる。

 この二人も既にアマッドネスに取り付かれている。

「あ…あの。わたしは…」

 病室に恐ろしく不似合いな存在…メイドが気の弱そうな声で訪ねる。

「ひかりか。お前になど何も期待しとらん」

「は、はい」

 このメイド。秋野ひかりはかつてのトードスツールアマッドネス。

 しかし反旗を翻したため融合していたライは「喰われ」、残された人間の方もとばっちりで女性化。

 現在はただの人間の女である。そしてクイーンアマッドネス。ロゼのおもちゃにもなっていた。

 元々が「女王」で自分勝手に振舞っていた。

 だが動けない身ゆえにこうして憂さ晴らしがいるのである。


 同じころ。警察にいる礼と順。清良のいないうちに話を始めていた。

「高岩はあのスズとか言うアマッドネスに助けられたらしいな」

「そうみたい。正確にはキノコ相手にセーラさんスズさんで戦ったと言う感じみたい」

「あのバカのことだ。一度助けられたら簡単に信用しそうだな」

「……そうかもね」

 含みのある順のいい方。これでなかなか狡猾なのである。それを熟知している礼は思ったままに言う。

「貴様もあの女を信用してないな?」

「敵の敵は味方とはいえないもんね。敵同士でやりあってんならともかく、こちらに近づいてきた相手を簡単にはね」

 女の子のような顔をしているが順はそこまで甘くはない。

「あっ。でも番長の可能性もあるんだよね。それなら信じるけど」

 男姿のはずなのに「乙女」に見えた。

「俺もあれが森本の可能性を考えている」

 逆に言うならそのどちらでもなければまるで信用できないと言うことであった。


 薫子と証明されない限りは。


 その薫子が目撃者二人をつれて礼と順の所に来た。

 実際の現場に案内することになった。

 そこは三人の戦乙女の活動エリア外。だから誰も感知出来なかった。

 同時に福真所の所轄からも外れている。パトカーで乗り込むのもやりにくい。

「俺たちだけで行くか?」

「でもそれは危険よ。覆面車で行けば向こうの所轄を刺激しないと思う…」

 言い終わる前に内線電話が鳴る。これは薫子が取らないといけない。

「はい。一城です。ノリ? え。中屋敷さんが呼んでいる?」

 通話を終えた薫子は困り顔。

「どうしよう」

 方やアマッドネスかもしれない男との面会チャンス。

 方や待ちにひそむ悪魔についての情報。

「薫子さん。やっぱ俺たちでいくよ」

「仕方ないわね。でも」

「ああ。この二人は手前で下ろすよ」

 薫子が目撃者の安全を考慮したのを察して清良は言う。


 目的地の近くで二人の目撃者を下ろし、同時にそこから徒歩で「敵地」にはいる三人。

「気をつけろ。罠の可能性も強い」

「伊藤。お前あんなガキまで疑うのか?」

「当人たちに悪意はなくとも罠に組み込まれている可能性はある」

 それを言われると黙るしかない清良。

「変身しときます?」

「…それが無難かな」

 物陰で三人は戦乙女へと転じた。


 エンジェルフォームの三人。武器はしまい、セーラのガントレットもブレスレットに変えてある。

 傍目には学校の違う女子高生三人組だ。

「ウォーレン。場合によっては番長に来てもらうかも知れないから迎えにいってくれる?」

「いきなりだな。ついでに要や友紀もつれてくるか?」

「森本君はともかく友紀さんは危ないからやめましょ」

 これは実は確認である。

 もしあの女戦士・スズが現れた時ウォーレンが二人の姿を見ていればどちらがスズでないかわかる。

 もちろん両者ともに違うとも。


 夕方なので繁華街をうろつくのはまだ何とかなる。

 補導員でも現れると面倒ではあるが。

 繁華街を外れガード下に移動した時だ。


「ギ…」


 現れたのは前夜イグレによって意志と「男」を奪われた奴隷女たち。

「やっぱり来たな」

「こいつらは前座」

「幹部が近くにいるはずです」

 セーラはガントレットを戻し、ブレイザは小太刀を取る。

「ちょっと時間稼いでください。あたしがさぐりますから」

 ジャンスはまずヴァルキリアフォームに。そしてアリスフォームの超越感覚で敵を探すつもりだ。

 しかしそれは必要なく、そして出来なかった。

 恐ろしく速い黄色い影がジャンスを襲う。

「きゃあっ」

 防御力に長けたエンジェルフォームなので事なきをえたが続いて別の物が襲い掛かる。

「プールの時と同じ手?」

「いいえ。あの時は分断でしたけど今度は集中攻撃ですわ」

 ならばとジャンスを守るべくセーラとブレイザは移動した。

 そして攻撃をさばいた上に一撃を与えた。

 二体のアマッドネスはひるんで同じ場所に動く。

「誰が戻れと言ったよ」

 そこには皮ジャンの男がいた。そしてなんと異形を素手で殴る。

 殴られた異形…チーターアマッドネスは人の姿に戻る。

「え? 看護婦さん?」

 そう。ナース服に身を包んだそれであった。コスプレではない。本職だ。

 通常はクイーンである葉子の身の回りを世話している。

「もう一人いるぜ」

 中屋敷の指示でライオンアマッドネスは人としての姿に戻る。

「と言うことは貴方も普通の殿方ではありませんわね」

 ブレイザ本人が答えはわかりきっていると苦笑する質問であった。

「ご名答」

 同時に三体が変身する。

 奴隷女たちが近寄ろうともしない。中屋敷…タイガーアマッドネスを心から恐れているのだ。

「これはまた…可愛いネコさんたちだこと」

 挑発目的のブレイザ。

「ライオン。虎。チーター。略してラトラー……」

 ジャンスが言い終える前に三体が襲ってきた。ただしジャンスではない。

「今度はあたし!?」


 遠くの町でアマッドネス出現を感知した者がいる。

(むっ? 現れたか。よし。交代してくれ)

(わかったわ)

 物影にいくと瞬時に大賢者・スズの姿に。

 ライダースーツ姿になると片ハンドルの愛車。ダークブレイカーを召還する。

 それに飛び乗るとタイガーアマッドネスの気配を頼りに戦場へと向かう。


 標的がセーラに変わった。一番弱いとみなしたのではなく、他の二人が必殺技のためのフォームチェンジなのに対して彼女はバトルフィールド自体を選ばない。

 空から頭上を取られるのを嫌ってらしい。

「この!」

 縦横無尽の攻撃に翻弄される。

 ブレイザもジャンスも奴隷女に邪魔されて助けに行けない。だがここで救援がきた。

 ウォーレン・バイクモードにまたがった岡元と森本だ。そのまま突っ込み敵の陣形を崩す。

 さんざんかき回してから戦乙女たちの盾になるように停車する。ウォーレンはカラスの姿に戻る。

「待たせたな。ジャンス」

「番長」

 嬉しそうに声を上げるジャンス。にこやかに応じるが岡元は敵に向き直る。

「ここからは俺のターンだ。断罪の番長イックパワー」

「…………」

 決め台詞が時を止めた……

「わけのわからんことを」

 ライオンアマッドネスが再び強襲敢行。だが

「はぁっ」

 上からスズが飛び降りてきた。そのままライオンアマッドネスに蹴りを見舞う。

(スズ!? 森本と)

(番長がいるのに現れた。と言うことは)

 そう。この二人は違う。


 疑惑を察しているのかいないのか考えている場面ではない。戦闘中だ。敵に集中する。

「げほっ」

 背中からとはいえど不意打ちで一撃食らえば動きも止まる。そこを縦と横の十文字斬。

「セーラ!」

「わかってますよーだ」

 一体減って隙ができた。俊敏性に長けたフェアリーフォームで包囲網を抜けた。

 そのまま高度をとり空中で一回転。脳天にかかとを落とす。


「ライトニングハンマー」


「ぐおおおっ」

 ライオンアマッドネスは断末魔をあげて爆発した。

「があああっ」

 フォーメーションも忘れ新たな脅威。スズに襲い掛かるチーターアマッドネスだがこれまた一太刀で斬られる。

(弱い。弱すぎる!?)

 獰猛な生物の能力を取り込んでいると思われたが典型的な見掛け倒したった。

「くっ。スズ。お前を…」

「殺す」とでも言いたかったのか。それはジャンスが放った銃弾の嵐にかき消された。

 そしてそれはスズに向けても放たれていた。

 スズは飛び上がって難を逃れたがチーターアマッドネスは蜂の巣だ。爆裂する。

「ジャンス。何を考えてんのよ」

「考えていること? その人があたしたちの味方とは思えないと言うことですよ。セーラさん」

「なんですって?」

 人あたりのよさで失念していたがジャンスは手段を選ばない。

「そう。岡元でも森本でもないならどこの誰かはわかりませんわ。そんな相手と共闘なんて無理と言うもの」

 いつの間にかヴァルキリアフォームになっていたブレイザが抜き身で迫る。

「薫子お姉さまの可能性もあるのよ」

「だとしても平気ですわ。普通の人間ならわたくしたちの攻撃は無害」

 大上段に振り上げた刀を振り下ろす。

 それを交差させたクラブで受け止めるセーラ。

「邪魔をする気?」

「あんたこそ正気?」

 一時の険悪な関係に戻りつつある。

「ひゃははははっ。コイツはいいや。仲間割れか。おい」

 馬鹿笑いのタイガーアマッドネスは新たな「兵隊」を呼び寄せた。

「あ、あなたたち?」

 スズが狼狽した声をあげる。

 案内を果たしかえったはずの目撃者の少女。久慈蘭子と赤土竜子がタイガーアマッドネスの左右に。

 そしてそれぞれホエールアマッドネスとモールアマッドネスに転じた。

 クジラの異形は背中から粘着液を噴出。モグラの化けものはその豪腕で地面をえぐり土くれを見舞う。

 攻撃が戦乙女たちに迫る。

次回予告


「ナガス。アズ。お前たちどうして?」


「さて。スズさん。お話を聞かせていただけます?」

 

「あんたたち。スズの弟子なんでしょう!? 師匠を見殺しにするの?」


「哀れだな。スズ。弟子に裏切られて地獄に逆戻りとは」


EPISODE42「逆襲」

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