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戦乙女セーラ  作者: 城弾
34/49

EPISODE34「剣客」

 夏休みも終盤の王真市。

 そのとある私立高校に王真高校は乗り込んで剣道の試合を行っていた。

 名目上は剣道部員でもある伊藤礼は同行。

 五人の代表が先鋒。次峰。中堅。副将。大将という順で戦う点取り形式で試合を行っていた。


 試合は惨敗である。先鋒から副将まで全員が一本取られて負けていた。

 ホームグラウンドでもあるだけに湧き上がる試合会場。

 だが大将である礼の試合で沈黙が訪れる。

 礼は開始早々に敵の大将の胴を薙いで勝利した。僅か三秒。

 ホームグラウンドだけに知っていた。その大将がどれほどの実力者か。

 それを秒殺。瞬殺と言い換えてもいい。

 まさに赤子の手をひねるように葬った実力に言葉が出ない。

 どちらが勝利した陣営かわからなくなった。


(ふぅ)

 勝利した礼も憮然としている。チームそのものは敗北だ。

 そして試合そのものにも何の気概を抱かなかった。

 どこから襲ってくるかわからない化け物相手に戦っているのだ。

 道場での試合がぬるく感じるのを傲慢と呼ぶのは酷であろう。


(!?)

 まさにその『化物』の感覚を察知した。正確に言おう。それの発する強烈な殺気を察知した。

 悟られないように無表情のまま礼はそれとなく周辺を見渡す。


 相手はすぐに見つかった。大胆にもギャラリーの中に紛れ込んでいた。勝手に入り込んでいたのは想像に難くない。

 人の姿をしていてもわかる。殺気を隠そうともしていない。少なくともまともな人物ではない。










EPISODE34「剣客」











 その男はひどく痩せていた。

 頬はこけ、顔色も優れない。

 だが眼光だけは射抜くがごとく鋭さだ。

(殺気? しかしアマッドネスのそれとは少し違う)

 礼も険しい表情を隠そうとしない。

「男」が『こっちにこい』といわんばかしの態度で顎をしゃくる。

「伊藤さん?」

 剣道部副部長が怪訝な表情をして礼に呼びかける。それで我に帰る。

「すぐに戻る。先に行ってて欲しい」

 清良に対するのとはまるで違う友好的な態度で言うと礼は「男」の元へと急いだ。


「よくきたな」

 何処かのんびりとした口調で「男」は言う。

 対戦相手の高校の裏手にある林。そこに駆けつけた礼は睨みつけるだけだ。

「用件はなんだ? もっともアマッドネスの用件など一つしかないがな」

 敵意を叩きつけながらも礼は辺りを探る。

(ドーベル。敵は何人だ?)

 頭の中で黒犬の姿の従者に問いかける。

(ブレイザ様。それが感知できなくて)

 珍しく戸惑うような口調で帰ってきた。

「伏勢ならいないよ。ま、信じるかどうかは勝手だが」

 思考を見透かされたようでカチンときた。礼は若干トゲのある口調で再度尋ねる。

「もう一度聞く。用件はなんだ?」

 今度は本気でわからない。

「果し合いさ」

 「男」は短く言う。これ以上なくわかりやすい用件で、そして胡散臭く感じ取れた。

 素が表情に出ていたらしい。「男」が苦笑する。

「どうしても気になるようだな。それならお前が場所を選べ。言っておくが逃げたら無差別に殺す」

 「男」は異形へと転じる。

 セーラと戦ったファルコン。自身が戦ったイーグルとは違うフォルムの猛禽類のアマッドネス。

「フクロウは夜目が利くが、昼間に何も見えないわけじゃないぞ」

 言うなり高く舞い上がる。

「ブレイザさま」

 入れ替わるようにドーベルが到着した。礼はドーベルには目をくれず携帯電話を取り出す。

 そして王真高校剣道部に同行している森本に電話して所用で離れると連絡した。

「彼は連れて行かないのですか?」

「果し合いなら一対一だ。お前も手を出すな」

 あくまで決闘場所まで運ぶ目的で呼んだ。


 その決闘場所は広大な空き地だった。

 ビルを取り壊したものの次に建てるはずのビルのオーナーが破産。頓挫したまま保留されている。

 管理地だけに周辺は工事用の幕で覆われている。人目につかない。それでいて遮蔽物がない。

「人が来ないように見ていろ」

「はっ」

 使い魔に命じ隙間から中に入る礼。そして遅れて高空からオウルアマッドネスが降りてきた。

 人の姿に戻ると上着の背中から木刀を取り出す。左手に持つ姿は帯刀する侍のようだ。

「なるほど。いい場所だ。ここなら邪魔ははいらんだろう。お前にして見れば俺が人質を取ったりする心配もない」

 言うなり彼は手にしていた木刀の柄に手をかける。

 礼も剣道の試合だけに持ってきていた竹刀。それと一緒に入れていた木刀を抜く。

「我が名は伊福部士郎。剣に生き、剣に死す男にして女」

 果し合いの儀礼として名乗りをあげる。抜き討ちの体制だ。

「我が名は伊藤礼。または剣の戦乙女。ブレイザ」

 木刀を中段に構える。

「いざ」「参る」

 宣言とと同時に両者共に間合いを詰める。剣の届く範囲で礼が突いて出た。

 それを上に払いのける士郎。

 しかしそれは計算のうち。上に払いのけられた勢いで上段に構えそのまま振り下ろす。

 士郎も振り上げた後で隙を作るようなことはない。振り下ろされる木刀をかちあげた自分の木刀で受けとめる。否。受け流す。まともには受け止めず滑らせる。

 そのまま体勢を崩される礼。今度は士郎が上から振り下ろす。

 しかし礼はそのまま下に体勢を崩すと足で士郎の足を払いにかかる。

「おっと」

 倒されぬように後方に飛びのく士郎。

 礼の方もそれが有効な攻撃になるとは思ってない。

 互いに間を取り直し体勢を立て直す。

「さすがだな。実戦の剣技。道場剣法ではないな」

 「剣道の試合」なら「ルール違反」だがこれは「実戦」だ。

 極端な話し飛び道具を相手にすることも頭にいれる必要がある。

「御託はいい。時間がないのだろう」

「ほう。見抜いたか」

「ああ。剣は言葉以上に多くを語る」

 このやり取りで感じていた。

「あんた、長くはないな?」

 顔色を見ただけでわかるというもの。いわゆる死相が出ていた。

「さすがに幾人ものアマッドネスをあの世に送り返しただけのことはあるな」

 生と死の境目を見た。だからこそ死の近いものがなんとなくだがわかる。

 剣を交えれば一層はっきりとする。そういうことであった。

「癌さ。もうあちこちに転移していてじきに体も動かなくなる」

 だからやけくそでアマッドネスの誘いに乗ったのか。礼はそう思った。

「死ぬのはいい。人はいずれ死ぬ。遅いか早いか。それだけだ」

 まるで他人事のように淡々と語る士郎。

「だが死に方がよくない。俺は綺麗なベッドでご臨終より、最後の一瞬まで戦い抜いて結果として切り捨てられてどぶの中に沈む方がいい」

「……」

 覚悟をして戦っているつもりの礼であったがそれでもここまでの思考には至らない。

 迫力に飲まれたといってもいい。

「そんな時に俺……あたしは出会ったのさ」

 不意に異形の姿へと転じる。木刀も異形に相応しい剣へと変化する。

「くっ」

 礼には珍しく「慌てて」しまう。

「まだ話の途中だ。だが気になるならお前も変身していいぞ」

 礼は木刀を捨てると右手を肩の高さで真っ直ぐ前に突き出した。左手はへその位置。

 光の渦が出現して小太刀が飛び出してくる。

 左手に持った小太刀を腰の位置に。同時に右手を柄にかける。あとは抜刀するだけだが動きが止まる。

「早く変身したらどうだ。不意打ちなんてしないよ」

「……何が狙いだ?」

 闘いに身をおく彼にしてみれば当然の考え。そして相手がこの問いに答えるはずがないのもわかっていた。

 それでいてたまらず尋ねてしまった。それほどこの「アマッドネス」の行動はわかりにくかった。

「あたしはね、ミュスアシを襲撃する前に将軍に斬られたのさ」

「将軍? 斬られた?」

 仲間割れは理解できる。それより気になった単語が出てきた。将軍?

「ああ。ガラ将軍。アマッドネスのナンバー2.その下に六武衆という飼い犬たちがいる」

「六武衆の上にまだ幹部が」

 驚いたというよりうんざりしたという方が近い。

「あたしの望みは強いやつとの戦い。合戦じゃなくて果し合いがしたかった。だからミュスアシで名に聞こえし剣士。ブレイザとの果し合いを申しいれようとしたら『不意打ちにならないから』と止められたあげく斬られた」

 恐らくその『ガラ将軍』としては情報漏えいを嫌ったのだろう。礼はそう思った。

「無念だったね。戦う前に死ぬなんて。この士郎も同じさ。だからあたしたちは一つになった」

「貴様らアマッドネスは人間の邪心を繋ぎにして融合するんじゃなかったのか?」

 少なくとも今まではそうだった。そして大半はろくでもない奴らだった。

「邪心。そうだな。他の奴らを見てりゃそう思うか。ただ似ていた。それだけだ。だからもしあのスズなら清らかな存在をよりしろにするだろうな」

「スズ?」

 将軍の次はなんだ?

「大賢者スズ。将軍と対等の地位の存在。そして変わり者さ。戦争の虚しさを訴え続けていたんだから。それはあたしらを否定することなのにな」

 ここでフクロウの異形は懐かしむように空を見る。

「どうせ味方に斬られるならスズと戦いたかった。あの人は美しい戦い方をする。あたしも美しくなれたかも」

 ここで真正面を見る。

「さあ。早く変身しな。あたしの望みはブレイザ。あんたとの戦い。ぎりぎりのところまで命を燃やし尽くしたい」

 しかしあろうことか礼は迷いを感じていた。

 目の前の相手は邪悪というより純粋な存在。ただ強い相手だけを求めていた。

「踏ん切りがつかないなら……こうだっ」

 突然オウルアマッドネスは高く舞い上がった。

 けし掛けていた相手が逃亡のはずはない。攻撃だ。となると予想される攻撃がある。

「変身っ」

 ここでやっと刀を抜いた。礼はブレザー姿の美少女へと変身した。

 それと同時に見えない高さから雨あられと羽根の手裏剣がブレイザ目掛けて飛んできた。

「やはりこれか!」

 セーラのように飛べず。ジャンスのように撃てないブレイザの苦手とする高所からの攻撃。

 だが伊達に合宿で特訓までしていない。

「はっ」

 小ぶりな小太刀ゆえに素早くふるえる。長距離ゆえ大多数は狙いがそれる。その身に迫ったものだけ叩き落せば済んだ。

「やるな。それじゃこの距離ではどうだ」

 いつのまに十メートルくらいの高さにオウルアマッドネスがいた。

 我が身を晒すリスクと引き換えに命中精度は高まる。

「くっ」

 苦手なタイプに思わず顔をしかめるブレイザ。

 それには構わずオウルアマッドネスは手裏剣を投げつける。

 今度はさすがに避けるのが精一杯。それでも反撃の糸口を探る。

(投げた瞬間は無防備。そこに一撃を加えれば。だがどうやって)

「逃げるだけか? 噂に聞こえた剣士も空からの攻撃は手も足もでぬか」

 嘲笑にかっとなりかける。だが

(攻撃? そうか。手段はありますわね)

 思考の途中で精神の女性化が完成した。それと同時に精神と肉体のシンクロも完成。

 故か反撃の糸口を見つけ出せた。

 孤高なる少女剣士は天を見上げ凛とした声で言う。

「あざ笑うならもう一度放ちなさい」

「ほう。どうやら完全に女剣士になったようだな。そして策があるか。ならば勝負」

 宙に舞いながらオウルアマッドネスは言う。そして強く羽ばたいた。

 同時に羽根手裏剣が放たれる。

「はっ」

 ブレイザはそれを鞘で打ち返した。野球で例えるならピッチャー返し。

 投げ終わった直後で守備体制に移る刹那の隙。それを狙う。まさにそれだ。

 羽根手裏剣が真っ直ぐ飛んでくることを考えても追い風はない。

 ブレイザから見ての向かい風による防御はないと判断した。

 そしてその予測どおりオウルアマッドネスの胸目掛けて羽根手裏剣が飛んでいく。

「ぐっ」

 不意を衝かれ防御が間に合わずまともに食らうオウルアマッドネス。墜落する。

 ブレイザは慎重に事を運ぶ。闇雲に近寄らない。

 むしろ立ち上がるのを待っていたようにも見えた。

「や、やるな。あれだけの羽根と風を掻い潜る一点をめがけ打ち返すとは。ふふふっ。これで弱点が消えたというわけだ」

 自分が傷を負ったというのに満足そうに笑うオウルアマッドネス。

 よろよろと立ち上がる。傷や落下のダメージだけではないようだ。素体とした士郎の肉体が持たないのであろう。

 アマッドネスに浸かれた人間は体そのものを作り変えられるが、それでもダメなほど病魔は蝕んでいるようだ。

「あ、貴女はやはりわたくしを高みへと導いていたというのですのね」

 うすうすそれを感じ取っていた。だから攻撃を仕掛けなかった。

「気にするな…あたしの望みは強い相手との戦い。それだけだ…いや。死に場所を求めているともいえるな」

 純粋な希望。ブレイザはそれを感じ取った。そして何より武人として共鳴した。

「あなたを倒せば少なくとも人間の方は助けることが出来ますね」

 アマッドネスに取り付かれたものは戦乙女の聖なる魔力で倒されると一度爆散して切り離される。

 取り付かれていた人間の方は再生されるもののその際は必ず女性になる。

 だが病魔も一気に霧散するのが期待できる。

「ならば応じましょう。貴女との果し合いに」

「おお」

 羽毛に覆われた顔が喜びに満ちたのが感じ取れた。


 両者はおよそ5メートルほどの距離を置いていた。

 ブレイザが静かに「キャストオフ」と言うとブレザーの学生服が散り、和服の少女剣士へと変貌した。

 防御は手薄になったが攻撃力は段違いに向上したブレイザ・ヴァルキリアフォームだ。

「仕切り直しですわね。でしたら再び儀礼に従いましょう」

 その細く高い声で涼やかに彼女は言う。

「我が名はブレイザ。剣の戦乙女」

 オウルアマッドネスは感じ入っていた。まさに長年の望みがかなおうとしている。

 そして儀礼に従うことに異存はなかった。

「我が名はコノハ。アマッドネスの剣士」

 それが異形の剣士の本名だった。

「いざ」「尋常に」「勝負」

 二人は真正面から激突した。


 まるで逢瀬だった。長年待ち続けた相手という点では同じか。

 それほど激しく熱い一撃を繰り出し続けるコノハ。

 さすがのブレイザも防戦一方である。だが攻撃から攻撃へうつるほんの一瞬の隙を突き反撃に出た。

 文字通り突きを見舞い守りに転じさせる。同時にブレイザも攻勢に転ずる。

 いつもの計算された攻撃ではなく心のままに剣を振るっていた。


 二人の間に敵対感情も憎悪もなかった。正確に言おう。あまりに熱い風によって吹き飛ばされた。

 ただひたすらに無心に剣を振るっていた。


 気力と体力の続く限り打ち合う。将棋の言葉で言う千日手になりかけていた。

 それを嫌ったコノハは僅かな隙に間合いを取り、飛翔しつつの斬撃を試みる。

「超変身」

 ブレイザは超越感覚の形態。アルテミスフォームへと転じる。

 巫女はその卓越した五感でフクロウの異形の攻撃を読み取る。

 そしてすれ違いざまに刀を抜いて切りつける。居合い斬りだ。

 だがコノハは居合いの一撃を剣で受け止めていた。アルテミスサーベルが食い止められる。

(最初からこれが狙い?)

 居合いは瞬時に抜刀して斬撃。そして納刀。これでこそ生きる。

 だがはじかれたことで納刀が遅れた。攻撃が死んだ。多大な隙ができる。

「もらったぁっ」

 背後に着地するなり大きな的…胴を狙い切りつけるコノハ。

「超変身」

 再び姿を変えた。今度は力の戦士。着流し姿のガイアフォームだ。

 剣も巨大な斬馬刀。ガイアブレードへと変化。その厚く拵えた刀が盾となりコノハの一撃を受けとめる。

 そしてそのまま剣をへし折った。

「なにぃ?」

 剣を失い動揺した。その隙を見逃すブレイザではない。

 瞬時にヴァルキリアフォームに戻り攻撃を繰り出す。


『剣 撃 乱 舞』(スラッシュダンス)


 一瞬のうちに袈裟斬り。横なぎ。切り上げ。唐竹割。とどめに胸に深く突き刺す。

 文字通りの必殺技であった。

 あっと言う間に血まみれになるオウルアマッドネス。だがその表情は悦楽に打ち震えていた。

「ふ…ふふふ…長年待った甲斐があった…これほどとは…なんと贅沢な。もう思い残すことはない」

「…コノハ…」

 女性的な憐れみの表情が戦闘中というのに出てしまうブレイザ。

「気にするな…闘いの結果だ…それに望んでいたことだしな…」

 口から血を吐く。

「これでも倒すつもりでやってたんだがな……剣に死を求めたあたしと、生を求めたお前の違いか…」

 血を吐いた。もう助からないだろう。死に行く勇者にブレイザは礼を尽くす。

「コノハ…私は貴女の名前を忘れません。激しく切り結んだ貴女のことを」

 本音だった。コノハはにこりと笑う。子供のような笑みだ。

「ありがとう……」

 それだけ言うと灰となって崩れ落ちた。既に爆発するほどのエネルギーもなくなっていたのだ。

 残されたのはブレイザと伊福部士郎だった女性。

(これで病魔は消えたはず。しかし剣を失ったこの人はどうやって生きていくのだろう……)

 それ以上は考えられなかった。彼女自身も疲れ果て気を失った。

















 後日談。木枯らしの季節。礼はとあるビルの前で一人の女性と遭遇した。

 一瞬では誰だか思い出せなかった礼だが、その女性の方が驚いた表情をしていた。

 ワンピース姿。化粧がややヘタ。しかしふっくらと女性的な顔立ちが魅力あるものと感じさせていた。

 そのせいでこの女性がかつての伊福部士郎と認識できなかった。だが面影はある。それでやっとわかった。

 彼女は照れて赤くなる。その左手薬指には光るものが。

「このは。用事は済んだよ」

 別の男性が彼女。「伊福部このは」に呼びかけた。その左手にも指輪。

(あのアマッドネスの名を新しい名にしたのか)

 それは僅かな間の同胞への敬意と感じ取れた。


 まぶしいほどの笑顔を「このは」は顔に浮かばせると「行きましょう」と腕を絡める。

 そして去り際に礼に向かって会釈をする。

 立ち尽くす礼だが口元に笑みが。

(そうか…女としての幸せを手にしたということか。それでいい。男として…剣士としてはもう充分に戦ったのだから)

 彼もまた満足そうにその場を立ち去った。

次回予告


(何で休みの学校で俺が女にしたやつらばっかり会うんだよ?)

 

「今は女の子だもん。そしてあたしたちを女にしてくれたのは高岩君だし。そりゃ意識もするわよ。初めての人を」


「うん。女の子のにおいじゃなかった。それにスタイルも女の子らしくなくて…」


「オンナの肉体がそんなにえらいわけ?」

 

EPISODE35「華麗」

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