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戦乙女セーラ  作者: 城弾
33/49

EPISODE33「傲慢」

スペシャルサンクス


アマッドネス原案・東方不在さん

 セーラ。ブレイザ。ジャンスのチームワークを強化する目的の合宿はカメレオンアマッドネスの乱入で失敗。

 冷却期間を置くことにした。

 しかしどうしても自分ひとりのバックアップも現状では限界がある。

 そう思った薫子はセーラを福真署の特捜班にだけでも紹介して協力を取り付けたかった。

 だがいきなり清良を連れて行き紹介しても上手く行きそうにない。

 そこで先に一人紹介して味方になってもらおうと考えた。


 清良はそれで呼ばれていた。

 夏休みの後半。残り日数もないところで呼ばれて不機嫌であった。

 しかも場所は福真署の応接室。

 応接室といっても一階のフロントの一部を間仕切りしただけでテーブルとソファがあるだけだ。

「いくら不良でもオレは要らないぜ」

 応接のテーブルの上のガラスの灰皿を軽口混じりに避ける清良。

 降りかかる火の粉を払うケンカしていないつもりだが、やはり不良のレッテルをはられている身としては警察署内は落ち着かなかった。


「お待たせしました。一条薫子巡査長」

 ややかすれた印象ある声がした。

 もともとの性質というより怒鳴りまくったあげくに喉を潰したかのような声だ。

 穏やかでありつつ威圧的な口調がその思いを強める。

 制服姿の女性。場所のこともあり女性警察官と見るのが自然だろう。

 髪の毛を全て後ろへと流して「オールバック」にしている。

 顔立ち自体もきつい印象の女性だ。

 よく言えば切れ長の目。悪く言うと鋭く射抜くような視線。女性には余りありがたい形容ではない。

 鼻もやたらに高く「威圧的」。鷲鼻というより動物の角のようだ。

(なんとなくだが…嫌いなタイプだな)

 直感。それ以外の理由は清良にはなかった。

 顔ではなく波長が合わないという奴だ。











EPISODE33「傲慢」











「堅苦しい挨拶はやめましょ。ノリ」

 もともとフランクな口調の薫子だが年下である清良に対するものよりはるかに砕けている。

 見た目で判断した限り同世代と思われる同性ならではか。

「今は職務中です。けじめをつけるべきでしょう」

 固い印象は崩れない。

「しょうがないわね」

 苦笑する薫子。進行するため彼女が紹介をすることにした。

「ノリ。こちらは高岩清良くん。セー…高岩君。こちらは渡来のり子警部補」

 紹介が済んでここで握手でも交わせば潤滑に進むものだが、互いに手を出そうとしない。

「ちょっとノリ。ここは年上のお姉さんらしいところを見せるところでしょ?」

「汚い男の手なんて手袋越しでも触りたくないわ」

 これにカチンとこないはずがない。

「オレだって警察と仲良くする気はねぇよ」

「あたしも警察官なのよ?」

 薫子が突っ込む。

「例外って奴だよ。それにむしろいいように利用されている気がするぜ」

「冷たいなぁ。セーラちゃんのときは『お姉さま』と可愛く慕ってくれるのに。私も妹みたいにに思っているのになぁ」

 芝居半分。残りは本気で嘆いてみせる。

 清良にはそのときの記憶がある。それだけに顔から火が出る思いだ。

「……やめてくれ。いっつも後で死ぬほど恥ずかしいんだしよ」

 本気で赤くなっている。

「二人だけで何を話しているのよ。恋人同士の語らいなら何処か他所でやってくれる?」

 からかうというより馬鹿にしたような言い草。さらに続ける。

「これだから男って。しょせん下半身でしか女を愛せないのよ」

「……あんた、ずいぶんと男に偏見あるんだな」

「偏見じゃなくて事実よ。警察官なんてしていると人の嫌なところがたくさん見えてくるわ。特に男のバカさ加減は反吐が出るわ」

 こんなことを聞いているとこの女性警察官がしている化粧も、身だしなみや異性を魅了するというより「武装」に思えてきた清良。赤い口紅も「威圧的」に見える。

「それで。一城さん。この男が何の相談? 暴走族か暴力団を抜けたいの?」

 ジョークではなく本気でそう思っているらしい渡来。

「もうちょっとお互いのことを知った方がよさそうね」

 なにしろ協力者に引き込もうというのである。


(大丈夫かな。セーラ様。警察なんかで。揉め事を起こさなきゃいいけど)

 キャロルが福真署を見上げて心配していた。

 黒猫の姿ゆえ街中にいても誰も気にしなかった。

 それでもよく見ると猫なのに誰かを案じるように見えて不思議な図でもある。


 多数の異形を葬った地に出来た街の一つ。福真市。

 墓場を抜け出てきた邪悪なる魂がさまよっていた。

 導かれるように福真署のほうへと進路を取る。


 清良が知った薫子とのり子の関係。

 アマッドネス対策班で警視庁からやってきた薫子は、ここで同期であるのり子の存在を知る。

 エリート同士ではあるが性格は正反対。それが磁石のSとNのようにひきつけあったのか意気投合した。

 プライベートで食事や買い物にでることもあった。

 仕事を忘れた付き合いのときは薫子が「カオル」でのり子が「ノリ」と呼ばれていた。

 それだけ仲がよくなったこともあり、最初に味方に引き入れようとしたのである。


 のり子の方もまずは戦乙女の存在を知らされた。

 これは噂で知っていた。都市伝説というものと片付けていたが、状況証拠から察するにその方が辻褄が合う。

 しかしそれと薫子が通じているとは夢にも思わなかった。

 そもそも戦乙女の存在自体を半信半疑なのだ。


「そこまではわかったわ。それで。彼は何なの? 戦乙女の関係者?」

「えーとね…ちょっといいにくいんだけど」

 珍しく言いよどむ薫子。上目遣いになっている。

 清良の方はあんまり人にばらしたくない思いはある。

 なにしろセーラー服。女子体操着。レオタード。スクール水着などに姿を変えて戦っているなんて。

 もっとも清良も力比べとしてのけんかはともかく一方的な暴力を好む存在ではない。

 例え男の姿でも守るための闘いでも誇る気にはなれなかった。


(見つけた。ヨリシロ)

 邪悪なる魂はオールバックの女性警官の真上に留まり機会を待つ。


「へ、変身するですって? その男が?」

 知らされて驚愕する。清良の方は赤くなっている。

「まぁ信じられないのは無理もないけど、高岩君があたしに協力して戦ってくれているのは本当よ」

「そんなバカな!? 男なんて無能でバカでそのくせプライドだけ高くて、頭の中は女を押し倒すことしかないような連中よ」

(偏見もここまで来るとある意味すごいぜ)

 本気で感心していた清良である。その「余裕」がさらにのり子をエキサイトさせる。

「私は認めないわ。少なくともこんな不良にそんなことできるもんですか」

 ヒステリックな声が響き、事務処理をしていた警官たちが目を向けてしまう。

 怒りよりかえって醒めてしまう清良。

「はぁ。薫子さん。オレ帰るわ。この調子じゃまだ伊藤の方がマシなくらいだ」

 本気で立ち上がり立ち去りかける清良。それに鋭い制止が掛かる。

「逃げるの!?」

 既に荒々しい感情で冷静な判断が出来なくなっている。破綻しているがお構い無しだ。

「へいへい。バカで無能な男は有能なエリート様にはかなわないので逃げるとしますよ」

 相手にしてられないという思いが言わせた皮肉。それがとどめだった。

「ふざけ……ぐあっ」

 突然白目を剥いて止まる。そしてがっくりと頭を下げる。

 興奮しすぎてプッツンしてしまったかと二人とも思ったが少し足りない。

 そう。男を見下す思いがアマッドネスの基本思想にあり、そこでシンクロして取り付かれた。


「ノリ?」

 心配して覗き込む薫子。だがのり子は俯いたままだった。

「う? この感触は?」

 いつもの感触が「目の前」から。

(まさか!?)

 そのまさかだった。

 のり子の鼻がツノに変化する。顔も仮面のように。

 まるで甲冑を着たかのように姿が変わる。それはまるでサイを人間のようにしたかに見えた。

「そうだ。男なんてくだらない存在は、全て女に作り変える。それがこのイノのなすべきこと」

 完全にアマッドネスへと変貌した。その姿を見せた途端にパニックに陥る福真署。

 そしてこの場には警察官だけでなく被害届けや反則金を納めに来た一般人もいる。

 銃を抜くことは出来ない。


「死ね」

 サイの意匠のライノセラスアマッドネスは目の前の男……清良に向かって突進する。

 だがさすがに戦いなれている清良。簡単にかわす。

 まだ復活したばかりで制御しきれないライノセラスはそのまま壁に突っ込んでめり込む。

 それを一般人の避難に当たっていない警察官が取り押さえに掛かる。

「警察の中からアマッドネスかよ?」

「信じられない。ノリがアマッドネスになるなんて!?」

 愕然とする薫子。かつて友紀と戦った清良としては痛いほどよくわかる感情。だから話しを替えに掛かった。

「なるほどね。何も極端に負の感情がなくてもシンクロさえすれば取り付けるのか。そんなことよりあいつをどうするか?」

 仮にも薫子の親友と思しき人物。それを倒すのは…

 自分もファルコンアマッドネスと化した友紀に手を出せなかった。薫子の心情は理解できる。


 逡巡しているとライノセラスがその剛力で男子警察官を吹っ飛ばした。

「無駄だぁーっ。貴様ら無能な男がいくら束になっても私に勝てないのだ」

 いうなりそのツノで眼前の男子警察官の腹を貫こうとしていた。

 とっさに転がっていたガラスの灰皿をライノセラス目掛けて投げつけた。

 それが顔面に命中して気をひいて男子警察官の脱出を成功させた。

 それには大して気を向けずサイの化物はくぐもった声で言う。

「きさま…逃げるんじゃなかったのか?」

「へっ。こういう展開なら専門なんでな。無能じゃないところを見せてやるぜ」

 清良は右手を天に、左手を地に向けた。それをゆっくりと水平に運び、脇にひきつけて思い切り前方に突き出して交錯させる。


「変身!」


 眩い光が発生し、それが収まるとセーラー服姿の少女戦士が。

「戦乙女ぇっ。セーラッ!」

 名乗りをあげる。

「キサマがセーラだったのか?」

「だからそういってただろ」

 セーラが突撃したのと薫子が建物の中に引っ込んだのは同時だった。


(やはりショックだったか。ああいいぜ。見ないでいてくれ。その間に倒すから)

 心中は痛いほど理解できていた。ましてや相手は怪人になったばかりで馴染みきってない。

 だから短期決戦を挑む。

 突っ込んだセーラはいきなりスライディングを見舞った。

 何も相手のパワー勝負に付き合う必要はない。

 ましてや見るからに装甲が厚い。生半可な打撃では無理と判断してだ。

 ところが足を掬うつもりがびくともしない。

「なにぃ!?」

「ふん。やはり男は無能だな」

 そのまま踏みつける。

「今は女だっつーの」

 精一杯の憎まれ口だ。本当は体がバラバラになりそうだった。

「ミンチにしてやる」

 僅かに足を浮かせてそのままセーラを蹴り飛ばす。

 地面に寝転がってのが浮き上がる強烈な蹴り。

 壁に叩きつけられる。エンジェルフォームの防御力だから耐えられた。

(まずい。結構やっちまったかも)

 鉄壁の防御力を誇るはずのエンジェルフォームで受けたダメージに驚愕していた。

(セーラ様。アマッドネスと戦っている最中ですか?)

 従者が異変を感じて念を送ってきた。

(キャロル。そうだ。すぐにきてちょうだい)

 ちょうど切り替わるあたりだったか口調が男のものから女のものへと。

(判りました。ここは一度体勢を立て直しましょう)

 合流地点を定めた。


「くたばれ」

 壁のセーラに向かって突進するライノセラス。それにタイミングを合わせてキャストオフ。

 爆ぜたセーラ服に怯む隙に超変身。フェアリーフォームに。

 そして挑発すべくライノセラスの頭上をひらひらと飛ぶ。

 さらには二本の伸縮警棒を変化させた二本のクラブで頭を叩く。これで完全に頭にきた。

 まんまと乗せられたアマッドネス。相当頭に血が上っている。

 駐車場へとおびき出された。


 セーラを追ってきたライノセラスが見たのはヴァルキリアフォームで待ち構えるセーラであった。

「キャロル。ぶっつけ本番だけどいける?」

 足元の従者に問いかける。

「そちらは問題ありません。しかしセーラ様のお心が」

「それこそぶっつけ本番よ」

 だいぶ時間が経ち精神が女性よりにシフトしている。

 それが言葉遣いに現れているがキャロルは何かを気にしている。

「何を企んでいるか知らないが、ぶち破ってくれるわ」

 とてもベースが女とは思えない荒々しい戦いぶりである。

 あくまでも突進あるのみ。小細工すらまとめて打ち砕くというものだ。

 セーラは動かない。そして「キャロル。今よ」と叫ぶ。

 キャロルが四つのパーツに変化。プールサイドで友紀が着けた鎧の姿だ。

 そしてそれを本来の装着者であるセーラがまとう。


「やった。言うなれば鎧をまとって生まれたきた女神のそれ。名づけてアテナフォーム」


 高揚するキャロル。戦意もシンクロしている。だが寸前で鎧が外れる。

 咄嗟に後方に飛んだがツノをまともに食らったセーラは叩きつけられる。

(くっ。まだこれじゃキャロルとのシンクロが足りなかったのね)

 もともとかつてのセーラが用いていた「ヨロイ」だが、そのときはセーラは完全に女性。

 女性同士ならではのシンクロだった。

 現代のセーラは基本が少年のため、それが邪魔をしてこのフォームになれない。

 キャロルも友紀の協力を得てなんとかその形態を維持する訓練をしていたが、まだセーラの中の女心が足りなかったらしい。

「ぐふふふっ。もう何も出来まい」

 勝ち誇るライノセラス。絶望するセーラ。キャロルは意識を失っている。

「まとめてあの世に送ってやる」

「させないわ。ノリ」

 静かに声がしたと思ったら爆音。そして背中に衝撃を感じたライノセラス。

「キ…サ…マ『カオル』」

 のり子の意識が僅かに勝る。それが信じられないという表情をさせている。

 薫子は逃げたのではない。ショットガンをとりに行ったのだ。

 躊躇いなく「親友」を撃った。

「お前、たいした奴だな。親友に銃口を向けるとは」

「やれるわ。例え殺すことになっても、ノリの魂をこれ以上闇に落としたくない」

 このまま止めないでいたら凶行を繰り返し、やがてのり子の魂は心から魔物になってしまうだろう。

 それを止める友情であった。

 そしてそれはセーラ…清良には出来ないことであった。

(そうよ…倒れてなんていられない。この手をいくら汚しても誰かを守れるのならそれでいいじゃない)

 事ここに至って覚悟が決まった。

「セーラ様?」

 ふらつきながらキャロルがよってくる。

「キャロル。そのアテナフォームはまだ無理みたい。だから別の手で行くわよ」


 にらみ合いを続ける薫子とライノセラス。背後で動くセーラが気になって仕方ない。

「待たせたわね」

 セーラはマーメイドフォームでキャロル・バイクモードにまたがっていた。

 その手にはマーメイドランスが。

「ふん。馬鹿め。力比べで私に勝てると思うか」

「やって見なくちゃ判らないわ」

 両者同時に突進する。寸前で横にそれてライノセラスの胴を凪ぐ。カウンター気味になったため裂けた。もちろんセーラのパワーもある。さらにキャロルのスピードが加わる。

「効かぬわ」

 こちらも半ば意地で踏ん張る。

「一本ならね」

 その傷が再生する前にもう一本を変化させたランスを今度は深々と刺す。

「ぐわあああっ」

 これはさすがにたまらない。動きが止まる。

 それをリフトアップする人魚姫。猛烈な回転をして空中にライノセラスを放り出す。


「トルネイドボンバー」


 散々に回転させられて三半規管が狂ったライノセラスはまともに地面にきりもみ状態で激突する。

 それでも持ち前のタフさで立ち上がるがそこまでであった。

 駐車場で爆裂して果てた。


 解放されたのり子は即座に警察病院へと搬送された。

 セーラは変身を解かなかった。既に福真署の人間に一部始終を見られていたので今更だった。

 後にこの件がきっかけで協力体制が整うことになる。


「それにしても油断してました。お姉様」

 すっかり少女の人格になったため、いつもどおり可愛い妹分となったセーラ。

「友紀の例があるのに女だからアマッドネスにならないと思い込んでいました」

「それは私もよ。警官がなるとは思ってなかったわ」

 薫子は三田村や軽部の正体を知らない。

「でも取り付くのにも色々パターンがあるんですね」

 キャロルも普通の猫の振りはやめて会話に加わる。これまたばれていたからだ。

「そうね。でももし、正義のために私の体を使いたいアマッドネスがいるなら貸してあげてもいいなと思うな」

「本気ですか?」と尋ねかけてセーラはやめた。

 薫子の瞳は強く輝き、本気であることを示していた。

次回予告


(殺気? しかしアマッドネスのそれとは少し違う)


「だが死に方がよくない。俺は綺麗なベッドでご臨終より、最後の一瞬まで戦い抜いて結果として切り捨てられてどぶの中に沈む方がいい」


「ならば応じましょう。貴女との果し合いに」


EPISODE34「剣客」

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