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戦乙女セーラ  作者: 城弾
31/49

EPISODE31「合宿」

 警視庁。その一室に薫子が現れた。

 ここは本来の彼女の職場。そして三田村警部のまとめる部署。

 その「上司」が既にアマッドネス。しかも大幹部とは薫子も考えていなかった。

 現に今も退院の報告に来ていたくらいである。

「家でゆっくりしていればよかったのに。また倒れたらどうしようもないぞ」

 薫子の身を案じているように聞こえるが、単に邪魔者を遠ざけたいだけの三田村ことガラ。

「いえ。体がなまっちゃいますし」

 さすがの薫子も三田村の正体に考えが及ばない。

「自宅静養に3日ほどあげたと思ったのだな」

「ええ。ですから温泉に二泊しようかと」

「なんだ。男とか」

 一見するとセクハラなジョークを言った様にしか取れない軽部。これまたアマッドネス。

 しかもガラ直属の部下。六武衆のリーダー格。

「まさかぁ。可愛い女の子たちですよ」

(女の子だと? セーラか? いや…「達」と言っていたな。まさか全員?)

 疑念が渦巻く。そして仲が悪いと見た戦乙女たちがまとまりつつある「危険性」を感じた。


「まぁ温泉でゆっくりしてきたまえ。可能な限り呼び出しはしたくないが一応宿泊地を教えてもらえないか?」

 無難な言葉で軽部から漏れている「殺気」をごまかす三田村。

「はい。それできましたし」

 警察官である。呼び出しに備え可能な限り現在地を知らせるのは当然と思っていた薫子は何も疑わずホテルの所在地と名前を伝える。

 それで用がすんだこともあり彼女は桜田門から離れた。


 探りを入れた軽部は、三田村が頷いたのを見て薫子の尾行を手配した。


 そして彼女が合流した相手はセーラ。ブレイザ。ジャンスの戦乙女たちだった。















EPISODE31「合宿」












 都内のある駅前のビジネスホテル。ここに4人はいた。

「合宿というから山篭りでもするかと思えば都内でとは」

 ブレイザが呆れ気味に言う。

 ワンピースというよりドレスという印象の服を着ている。

「あたしも本当はそうしたかったんだけど、何かあった場合に駆けつけられるようにしたかったし」

「でもなんでここなんですか?」

 サマードレス姿のジャンスが可愛く尋ねる。

「うっふっふ。実はここには都内には珍しく温泉があるホテルなのよ」

 真面目な薫子には珍しく含み笑い。

「温泉……」

 ブレイザが露骨に嫌な表情をする。

 本来は男という意識は全員あるが今の人格は完全に「女の子」。女湯に入る抵抗ではない。

 そう。少女の人格ならではのコンプレックスで裸身。具体的には胸元を晒したくなかったのである。

「それでみんなで親睦を深めましょ」

 胸にコンプレックスのない薫子は気楽に言う。

「お姉さまと一緒に温泉ですか。いいですねぇ」

 若干浮かれ気味のセーラ。キャミソールとミニスカートである。

 まったく照れないことからわかる通り、こちらも精神は完全に女性化している。


 話はやや遡る。プールでの一件が終わった直後である。

 薫子が合宿を提案した。

 体力増強。技能向上もあるが最大の目的は親睦を深めること。

 例え短くとも一緒に暮らせば多少なりとも心が通う。

 それで少しはいがみ合いをなくせるのではないかと。

 メリットはあれどデメリットはない。また静養という部分もないことはなかった。


 その時点で長時間変身していたものだからすっかり女の子になり切っていた三人。

 「お姉さまの誘いなら」とセーラは二つ返事で飛びついた。

 ジャンスも了承。

 ブレイザは辞退しようとしたが、結局は薫子に押し切られて渋々了承。


 翌朝。元の姿に戻って激しく清良が後悔したのは言うまでもない。

 だが意外に律儀に約束を守る彼は反故にしたりせず、当日は変身して待ち合わせ場所に来た。

 家を出る時に既に変身していたのである。現地に着いたときにはすっかり女の子の性格に。


「それにしてもセーラちゃんもブレイザちゃんも荷物少ないわね」

「『能力』で服を変えられますから着替えはいらないんですよね」

「でもジャンスちゃんなんて。ほら」

 旅行用のキャリーを持ってきていた。

 ピンク色のそれにはシールが貼ってあったり自分の名前が書いてあるので借り物ではないらしい。

「夢のようですよ。朝から晩まで女の子でいいなんて」

 普段「女装」に留まっているのは既に男子生徒の押川順が存在しているから。

 アマッドネスにやられたことにして常に変身というのも手だが、何かの時に意識を失い男の姿を見せてはまずい。

 それにやはり変身前後で同一人物とばれるようにはしたくなかったので、普段は男で通している。


 今回の目的は戦乙女たちをまとめること。だから変身後の姿で長い時間過ごしたい。

 寝る時以外は女のままで。それでジャンスが飛びついたのは言うまでもない。

 ついでに言うとさすがに高校生男子を三人引き連れての宿泊は、若い女性である薫子としても体裁が悪い。

 女ばかりならなんの問題もないのである。


 ちょっと場末の温泉旅館という印象のビジネスホテルに四人は入る。

 それを物陰から見ていた男がいた。

 夏物のスーツとめがね。どこにでもいるサラリーマンだ。

 場所を変えて彼はメガネを外す。そして「カツラ」を外すと見事なスキンヘッドが。

 中肉中背。そして髪がないことから変装はお手の物であった。

(ふう。どうやらあれが戦乙女たちらしいな。アヌ様に聞いた通りの特徴。とりあえず報告を)

 彼…長島周太は携帯電話で連絡をして指示をあおぐ。


 和室の4人部屋。ここで四人は二晩を共にするのである。

「修学旅行みたいですね」

 はしゃぐセーラ。普段のぶっきらぼうさが微塵もない。

「信じられませんわ。男と女が二晩もここで」

「今は女の子だけですよ。ブレイザさん」

 お茶を淹れながらジャンスが訂正する。

「みんな。一息入れたら近くの施設へ行くわよ。話は通してあるからトレーニングできるわよ」


 服をスポーツウエアに「変えた」戦乙女たちは走って目的地へと行く。

 関係者に挨拶をし済ませる。そしてまずは柔軟体操。それから基礎トレーニングである。

「それじゃ腕立て伏せを十回ワンセットで4セット」

 薫子の依頼した臨時コーチ。武内が指示を出す。

(う…またホルスタイン女ですわ)

 この臨時コーチも立派な胸元をしていた。それに対する反発で反論してしまうブレイザ。 

「ナンセンスですわ。剣は腕の力で振るのではなくてよ。余計な筋肉は動きを鈍らせるだけ」

「いやいや。筋肉というのはあれで中々太くはならないものなのよ。あたしも散々やったけど大胸筋が鍛えられたせいか筋肉じゃなくてこっちが育ちすぎて」

 胸元を強調する。


 次の瞬間、一心不乱に腕立て伏せを始めるブレイザだった。


「やるわね。ブレイザちゃん」

 薫子もやる。なまった体を鍛えなおす目的であるのと、人にだけやらせて高みの見物というのが出来ない性分ゆえ。

「べ、別にバストアップが目的じゃありませんわよ」

 自白している(笑)


 ここには格闘用の施設もある。

「それじゃ始めようか。ジャンス」

 どちらかというと戦闘中に近い表情のセーラ。

「ううっ。お手柔らかに頼みますね。セーラさん」

 へっぴり腰のジャンス。トレードマークのメガネは外してある。

 二人はヘッドギアにグローブ。上はTシャツ。下はスパッツという姿でスパーリングを始めようとしていた。

 遠距離を得意とするジャンスだが近距離線を鍛えておいて損はない。

 それゆえの提案である。

 スパーリングパートナーがセーラなのは彼女が徒手空拳を基本とするからである。

 言うまでもなくガントレットはブレスレットに変えてある。

「行くわよ」

 いきなり飛び込んで左ジャブを入れようとする。

 牽制。あるいは相手の視線をずらす狙い。

 あまりまともにヒットするとは思ってない。だが

「ぎゃんっ」

 ジャンスはまともに顔面で食らった。そのままへたり込む。

「ちょ、ちょっと。避けるがガードしなさいよ」

 むしろセーラの方が慌てる。

「ひどいですよぉ。セーラさん。女の子の顔を狙うなんて」

 鼻を赤くして涙目で訴える。上目遣いでセーラに男の心が多く残っていたらクラッときたかもしれない表情。

「なに言ってんのよ。あたしたちの敵は顔どころか心臓をえぐりに来るわよ。ほら。立って」

「うう。素手は苦手なのに。落としたって手元に戻せるし、こんな訓練いらないのに」

「なにぶつぶつ言ってんのよ。もう一度行くわよ」

 あえてセーラは同じパンチを繰り出す。

 それならさすがにまともに食らう無様はないだろうと考えて。だが

「きゃーっ」

 反射的に出したジャンスの右ストレートが油断していたセーラの顔面に直撃。

 しかもカウンターという形だ。

「ぎゃっ」

 今度はセーラがまともにくらいダウンする。

「ああっ。大丈夫ですかぁ? セーラさん」

 おろおろとジャンスが駆け寄る。セーラは見事に鼻血をふいていた。

「……やってくれるじゃない。ジャンス。これなら手加減はいらないわよね」

 ゆらりと立ち上がる。

「ちょっとまって。セーラさん。目つきが恐いですよ」

 あとずさるジャンス。

「問答無用ーっ」

「きゃーっっっっ」

 逃げるが捕まるジャンス。キャットファイトが展開されていた。


 そのころの薫子とブレイザはテニスウエアでコートにいた。

「行くわよ。ブレイザちゃん」

「いつでもいいですわよ」

 言われて薫子はテニスボールを真上に放り投げた。

 当たり前だが投げるタイミングは一つ一つ違う。そして落ちてくるタイミングも。

 それを木刀で全て真上に弾き返す。

 空からの攻撃に対する対策での特訓だった。

「あうっ」

 全部をはじけず、そしてかわし切れず何個かを食らう。

 テニスボールとはいえど当ればそこそこ痛い。

「もっと小さな動きで」

「はいっ。コーチ」

 ブレイザも妙な熱血乗りをしていた。


 そのころ、長島は四人の姿を頭に叩き込んでいた。

 そのときはまた別の姿をしていた。

(いつもなら僅かでいいが、こいつらの特殊能力を考えると今日一杯くらいは動けない。とにかく特徴を掴まないと)

 アヌの送った尾行者はあるときは中年女の姿で。またあるときは中学生くらいの少女の姿で観察を続けていた。

 それにもかかわらず戦乙女たちは「気配」をつかめない。

 それはこの尾行者特有の能力が物を言う。


 その後も様々な訓練で汗を流した。

 そして宿舎であるホテルへと戻る。

「さぁ。夕飯の前にお風呂に入りましょ」

 薫子の提案に金髪の少女は硬直する。

「きょ…今日は汗をかいてないから結構ですわ」

 露骨なウソをついているブレイザである。

「ダメですよ。ブレイザさん。女の子はいつもきれいにしてないと」

 ジャンスが右腕を取った。ちなみに空いている手には女の子らしいポシェットが。

「そうそう。あれだけ動いて汗かいてないはずないでしょ。じっとしてても暑いのだし」

 セーラは左腕を取った。連行の体制だ。

「だったら後で一人で入りますわ」

 抵抗するが木刀を降り続けて腕に力が入らない。振りほどけない。

「それじゃ親睦にならないわよ。さぁ。二人ともつれてきて」


 女湯。強制的に剥かれるブレイザ。他に客がいなかったから出来た芸当だ。

 洗い場でその胸元に三人の女の視線が。腕でカバーしてもよくわかる「せんたく板」ぶり。

 ブレイザは羞恥に顔を赤らめていた。

「うわぁー。薄い薄いとは思っちゃいたけど、こりゃ薄いんじゃなくて『無い』わよね」

 遠慮なし。それどころか毒入りのセーラのコメント。ブレイザは反論せずに黙り込む。

「だ、大丈夫よ。ブレイザちゃん。まだ成長期だし」

 薫子も余裕でCカップだ。フォローに努める。ブレイザは俯く。

「そうそう。ブレイザさん。剣士ですし、むしろその方が戦いやすいですよね」

 だいぶ女の子よりのジャンスはフォローに回る。ブレイザの嗚咽が漏れる。

「うっ…ううっ」

 明らかに悔し涙という声だ。三人とも黙り込む。

「慰めなんて要りませんわっ」

 顔を上げたブレイザの目に涙。さすがにセーラも閥が悪くなる。

「どうせわたくしはつるぺたですわ。高校生にもなってAカップでパットのいる胸ですわ。でもそれのどこがいけないんですの?」

 洒落にならない本気泣きだった。

「バカねぇ。ブレイザちゃん。あなたそんなに綺麗なのにコンプレックス持っているの?」

 薫子がそっと抱き締める。

 冷静に考えるとブレイザは本来男だから割と危ない……いや。女同士裸で抱き合う方がもっと危ないか。

「綺麗? わたくしがですか」

「ええ。とっても美人よ」

「お、お世辞ならいりませんわっ」

「あー。癪だけどそれは認めるわ」

「セーラさん……」

 犬猿の仲のセーラの言葉である。逆に説得力があった。

「整い過ぎて冷たい印象を持ってたんだけどね。あんたも自分のコンプレックスで泣き出すなんて可愛いところあるんじゃない」

 上から目線で言うセーラ。

「か、からかわないでくださいっ」

 ブレイザは頬を染める。

「それに心配はいりませんよ。今日の合宿のためにブレイザさんにプレゼントを持ってきましたから」

 何処かのほほんとしたジャンスの言い草。

「プレゼント?」

 そこで客が入ってきた。四人は当たり障りの無い会話に切り替えた。


「わぁー。まるでコーヒーですね。お姉様」

 せっかくなので湯に浸かっていた。ただし都内の宿命かそんなには広くない。

「ここのお湯はずばり黒湯というみたいね」

 説明文を読み上げる薫子。

「はぁ。肩こりに効くみたいですね」

 いつも以上に長い時間を女で過ごしたせいか、大きな胸が肩こりを招いたジャンスがとろけそうに言う。

 ブレイザはバストアップ体操に余念がない。


 脱衣所。ここは能力は使わずホテルで用意してある浴衣を着ていた戦乙女たち。

「はい。ブレイザさんにプレゼント」

「わたくしに?」

 確かに風呂場でしていた話。だから渡されるのはわかるのだが怪訝に思いつつも包みを開ける。

「こ、これはっ?」

 ブラジャーたった。それも特異なデザイン。

「寝る時もつけててくださいね。寝ている間にバストを成長させるブラですから」

「ああ。こんなものがあるんですか?」

 基本的に女の姿になるのは戦闘中だけのブレイザは、こういうアイテムの存在を知らなかった。

「へー。よかったじゃない。ブレイザ。これで小学生程度にはなるんじゃない」

 セーラの素直じゃない祝福だった。

「セーラさんっ」

 金切り声を上げるブレイザ。それをよそ目にジャンスはセーラにも包みを差し出す。

「はい。セーラさんにもありますよ」

「あたしに?」

 包みを開けるとフリル満載のショーツだった。

「きゃーっ。可愛いーっ」

 演技してないのは目の輝きで判った。

「えへへ。やっぱり好きでしたね。そういうの」

「うん。可愛いーっ。ねぇ。これ穿いていいの?」

「どうぞ」

 セーラはその可愛いピンクのショーツを脚に通すと嬉しそうに姿見を見る。

「えへへ。お二人とも喜んでくれて嬉しいです。ね。女の子っていいでしょ。あたしの気持ち、わかってくれます?」

 ブレイザとセーラは思わず顔を見合わせる。

 確かに今のプレゼントを喜んで受け取ってしまった。強くは否定できない。

「そう…ね」

「確かに。今のわたくしたちは心身ともに女ですし」

 認めると意外に抵抗が少なくなる。なんだか楽になった気がした。


 食事を済ませ夜の布団に。

 しかし少女たちがすんなり寝るはずもない。お菓子を食べながらのおしゃべりになっていた。

 これも親睦の一つと薫子は制止しない。

「ねぇねぇ。セーラさん。ブレイザさん。誰か好きな男の子います?」

 二人にもう少し男の精神が残っていたら殴られていたかもしれない。

 だが半日以上女の子として過ごしていた。ましてや互いに女としての裸体をさらしあっている。

 かなり女子よりの精神状態になっていた。

 それでも答えられる質問ではない。

 ちなみにジャンスは憧れの話題だったらしい。こんな女の子トーク。


「答えられるわけ無いでしょ」

 突っぱねるセーラ。

「そうですわ。そうでなくてもこの前は森本にときめいてしまって自分が危ないと思ったのに」

「え? 森本君とはそういう仲なの? ブレイザ」

 失言だった。セーラにやりたい放題やられている。

「し、知りませんわ。大体ジャンスさん。あなたはどうなんですの?」

「あたし? もちろん番長だよ」

 あっけらかんと言い放つ。仮に元々から女としてもからっとしすぎている。

(このまま続くと平気で男を好きになっちゃったりするのかしら?)

 セーラはちょっと恐くなってきた。

「はいはい。そろそろ寝なさい。明日も特訓よ」

 ここで薫子がストップをかけた。

「はーい」

 少女たちは素直に従った。本当に寝たのはその姿が男に戻ったことでわかる。

「可愛いものね。さて。あたしも」

 体裁は気にするがそれでもこの状態で襲われる心配をしないあたりけっこう薫子の度胸も良い。











 翌朝。

 寝ぼけつつ清良は廊下にある男子トイレに向かう。

 便器に向かい、「だそう」とするが「窓」がない。

 段々に意識がはっきりしてきた。自分が何を穿いているのか理解出来た。

 尿意が怒気に取って代わられた。


「押川ーっっっっ」

「きゃーっっっ」

 怒鳴り込んだ清良だがジャンスが悲鳴を上げて裸の胸を両手で隠したので気勢をそがれた。

「もう。『女の子』が着替えてんのよ。ノックくらいしてよねっ」

「わ、悪いっ…て、何でお前(寝て起きたのに)女なんだよ?」

 変身が解けないことがあるのかと考えた。

「起きてすぐ変身しただけですよ。夢みたいです。こうして朝いきなり女の子としての支度をできるなんて」

「はいはい」

 すっかり毒気を抜かれた。

「……高岩か?」

 布団の中ら声がする。まるで幽霊のような声がする。

「何してんだ? 伊藤…」

 言いかけて気がついた。自分もよくこうなると。そして礼が風呂場でつけたものは…

「殺せ。殺してくれ。高岩」

 布団を跳ね除けて礼が掴みよる。そのまったいらな胸にはブラジャーが。

 一方掴まれて浴衣がはだけた清良の腰にはひらひらフリルのショーツが。

「うっ!?」

「高岩。お前もやられたのか」

「ああ。この野郎にな」

 二人でジャンスを睨みつける。

「えー。二人とも喜んでもらってくれたのに」

 いつの間にかちゃんと下着を着けて薄手のブラウスとミニスカート姿になったジャンスが抗議する。

「はいはい。二人とも起きたんなら変身しちゃって。そしたら寝るまではそれも抵抗ないでしょ」

 薫子が割って入る。

 年長者に入られて渋々と二人は変身する。その直後に目配せするジャンスと薫子。

「それっ」

 薫子はセーラに。ジャンスはブレイザに襲い掛かり敏感な部分を中心にくすぐったり揉んだりする。

「ちょっと? 一体何を……キャハハハ。そこやめて」

「するんですの? だ、だめですっ。そこはっ」」

 ブレイザの抗議の言葉で二人は動きを止めた。

「うん。こうすると素早く女の子の気持ちになれるみたいだから。心と体が早くシンクロすれば苦労も少ないでしょ」

「もう。ジャンス。(知ったのは)プールの更衣室のときでしょ?」

 セーラが頬を可愛らしく膨らませる。

 確かに素早く女の子になったようだ。

「確かに気持ちは切り替わったわ。ねぇブレイザ」

「そうですわね。セーラさん。ここは一つ『お礼』をしないといけませんわ」

「二人とも、目つきが恐いし手つきがやらしいですよ……」


 三人の少女のじゃれあいが始まった。


「待ってくださいよぉー。みなさーん」

 ロードワークを兼ねたスポーツ施設への移動中。

 大きな胸が祟ってか息が上がってきたジャンス。遅れ気味になる。

「マイペースで良いわよ。ジャンスちゃん」

 遅い者にあわせるとレベルアップにはならない。だからこういう処置になる。

 大きく引き離されたジャンス。普段要領よく立ち回っているのがここではダメだった。


(今だ!)

 尾行者はその能力を使う。


 あまりに離れたためやむを得ず立ち止まって待つセーラたち。

 歩道なので邪魔にならないように車道よりに固まっている。

 やがてジャンスが現れた。

「遅い! それじゃ高速の相手には太刀打ちできないわよ」

 セーラが体育会系そのものの言い回しで注意する。

「ふふ」

 ジャンスは不気味な笑みを漏らす。

「ちょっと。何がおかしいのよ」

 人をバカにした態度に軽くキレたセーラ。真正面からジャンスと向き合う。

「えい」

 ジャンスは微笑みながら両手でセーラを車道に突き飛ばした。


 大型トラックが迫っていた。

次回予告


「さて。悪ふざけが過ぎるんじゃありませんこと? ジャンスさん」

 

「ブ、ブレイザさんが二人?」


「参ったわね。攻撃されるまでわからないのよね」

 

「そもそもここにいるのは全員本物ですの?」

 

EPISODE32「嫌疑」

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