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戦乙女セーラ  作者: 城弾
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EPISODE21「強敵」

 空中散策がてらにアマッドネスを探していた人造生命体・ウォーレンは、アマッドネスの気配を感じ取りその上空へと飛ぶ。

 戦乙女たちは概ね三キロ四方のアマッドネスの『波動』をキャッチできる。

 だがサポートを目的とされたウォーレン。キャロル。ドーベルという人造生命体たちは、その姿を模した動物の能力なのかもっと広範囲をサーチ可能だった。

 ましてや強敵と思しきファルコンアマッドネスの出現を先行して捉えていたのだ。

 意識していても当然である。


 その現場を遠距離から確認した。

 アマッドネスたちもセーラも対峙していた為にウォーレンの存在に気がつかない。

 それを幸いとばかしにカラスはその場を離脱する。

 既に連絡をしていた彼の主。ジャンスに変身する押川順と合流するためである。











EPISODE21「強敵」











「我が名はルコ。六武衆がひとり」

 太古の戦の名残なのか、きちんと名乗りをあげる。恐らくは武功争い。自分の功績をはっきりさせるために名乗る。

「六武衆?」

 また知らない単語が出てきた。セーラは顔はルコに向けたまま、瞳だけをキャロルに向け情報を求める。

 だが従者も初めて見るアマッドネス。当然である。

 かつてのミュスアシ侵攻をめぐりクィーンと対立した大賢者スズ。

 そのスズのクィーン暗殺を阻止する際に六武衆はすべて打ち倒された。

 だからミュスアシ侵攻には将軍・ガラも六武衆も存在していなかった。知らなくて当然。


 補足するならばそれがミュスアシで壊滅した原因である。

 それまでの闘いで優秀な軍師である将軍・ガラ。そして六武衆の存在は多大だった。

 それを戦の前に失い統率が取れなかったために、戦乙女たちに各個撃破されて敗れ去り、長い封印をされることに。

 この時点でクィーンはアマッドネスを蘇生させる術を得ていたが、それには多くの時間や手間を要する。

 しかしそれをしていたらその間にミュスアシに堅固な陣を張られてしまう。

 神に祈り続けるだけの都市と侮っていたのもあり、後からゆっくりとばかりに侵攻を優先した。

 しかし結果として全軍を失い、そして自らも長きに渡る封印をされる羽目になったクィーンアマッドネス。ロゼである。


「私に与えられた任務は仲間の援護。そしてセーラ。貴様を殺すこと!」

 羽根の一枚を抜くとそれを手裏剣として投げつけた。

「おっと」

 それをかわし切れないのでガントレットを盾として受けた。

 ルコの目的は最初からそれ。どうしても出来るその隙を狙い、襲い掛かる。

「死ねぇ!」

 大振りでありながら凄まじいスピードで剣が振り下ろされる。

 セーラはそこに闘志よりも憎悪を感じ取った。

(何? コイツ? なんであたしのことをこんなに。コイツも過去に因縁が)

 初対面なのに憎しみで漲っている。しかし疑問を解く暇がなかった。

 矢継ぎ早に攻撃が来る。かわしたり防ぐので手一杯だ。

「早く逃げろ。私がコイツを止めているから」

「わ…わかった」

 正直セーラに対して苦手意識を持っていたシースターアマッドネスは、攻撃に参加しろといわれなくて安堵した。遠慮なく逃亡する。

「あ。待て」

 目の前で逃げていくのを見過ごせなく、つい叫ぶ。

「どこを見ている。お前の相手は私だぁ」

 ますます剣のスピードの上がるファルコン。だが太刀筋はめちゃめちゃになってきた。

「この」

 スピードが乗り切る前にあえてガントレットで受け止めて、そして突き飛ばす。

 鳥形の宿命かとにかく軽い。パワー負けした。


 そのころ、押川順はバイクでセーラとルコの闘いの場を目指していた。

 バイクはウォーレンの変形したもの。そのまま案内も務めている。


 公園。間合いを取った両者。互いに息が荒い。

「この憎悪…半端じゃないわ。初対面なのに。もっともあたしはかなりの数のアマッドネスを倒したわけだから、憎まれても当然だけど」

 それだと合点が行く。しかしルコはそれを否定する。

「そんなことじゃない。お前は私の大事なものを奪おうとしている。許せない。殺してやる」

「はぁ?」

 セーラにはワケがわからない。

(だれかコイツの仲のよかったアマッドネスを倒して、その敵と狙われているのかしら?)

 そう解釈した。しかし違う。

 そう。野川友紀の肉体を依代として復活したファルコンアマッドネス。

 他のアマッドネスと違い、意識は分離させてある。

 友紀に自分の持つ情報が伝わってはいけないからである。

 その理由は友紀が抱いた嫉妬の心。それこそがルコが取り付いた媒体。

 そしてその嫉妬の対象は目の前のセーラ本人。

 セーラを清良と別人だと思っている。だから友紀にとってセーラは恋敵なのである。

 その嫉妬心をエネルギーにしているから、ファルコンアマッドネスの攻撃は激しく熱い。

 だから分離してある意識だが、嫉妬心だけは混ざり合っている。

 友紀の嫉妬。ルコの同胞の敵という意識が、セーラに対する殺意という形になっている。


 遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえる。

 シースターの件で通報がされていた。それがおっとり刀で駆けつけていた。

 いくら三田村が警視庁で権力を持っていても、市民からの110番通報を無視するようには指示を出せない。

「騒がしくなってきたな。どうだ? あっちで続けないか?」

 上空を指し示すルコ。

「……」

 敵のテリトリーである空中。セーラが迷うのも無理はない。だが

「わかったわ。空なら誰にも迷惑は掛からないし」

「ふっ。ならばこい」

 ファルコンは瞬時に高く上る。

「セーラ様。敵の誘いに乗ることは…」

 ましてや空中戦ではどうしてもキャロルのアドバイスも遅れる。

「でも、このまま逃げてもたぶん奴は襲ってくる。それくらいなら空で決着をつけた方がマシよ」

 言うなり彼女は右手の赤いガントレットを叩く。

 初期からくらべて服の再構成が早くなった。

 ほんのちょっと揺らいだかと思うと、体操着がレオタードになっていた。

 その背中に妖精の翅が。セーラも空へと舞い上がる。


 空中で向かい合うルコとセーラ。

 セーラにしてみたらこの場ではフェアリーフォーム限定となる。

 エンジェルの防御力。ヴァルキリーの運動性能。マーメイドの耐久力とパワーを生かす闘いが困難だ。

 だが同じこと。敵が空を選んだ以上ここが戦場だ。

「喜べ。太陽の下で葬ってやる」

「あんたこそ地面に叩き落してやるわ」

 セーラにしてみればいきなり現れて自分に憎悪を叩きつけてくる相手。

 釣られたわけでもないが、セーラも怒りを感じていた。


 羽根をナイフのように投げるファルコンアマッドネス。

 それがゴングだった。

 二本同時に投げたので左右どちらにも避けにくい。

 普通なら上か下。だがセーラは真っ直ぐファルコンに向かって来た。

 それだけ表面積が小さくなり飛び道具をかわせた。そのまま攻撃をすべく間合いを詰めるセーラ。

 それは予想の範疇だったらしいファルコン。ひきつけて右手の剣を振る……と、見せ掛け左手の爪で素早く胸元を凪ぐ。

「きゃっ」

 精神が既に完全に女性のそれになっているセーラは、闘いの場にはおよそ不似合いな可愛い悲鳴で後ろへと下がる。

 そこに追い討ちとばかしファルコンの足が見舞われる。すべてはこの攻撃のための布石だった。

 避けきれずまともにわき腹に食らう。

 セーラのウエストは戦う肉体のせいか引き締まって肉が薄い。

 そのためキックのパワーが緩衝されず、肋骨にもろに響いた。

 息が詰まり、呼吸困難に陥る。動きの止まったところに、脳天から剣を振り落とすファルコン。

 だが空中の闘い。「下」という逃げ道がある。

 瞬時にルコの足よりも低い位置に下がり剣をかわす。そして出来た好機を逃さない。


「ライニングハンマー Λ(ラムダ)」


 フェアリーフォームの時の脚力を生かして全身で見舞うキックをライトニングハンマー。雷の鉄槌と呼称している。

 基本は脳天目掛けての空中からのキックか、ジャンプしてのオーバーヘッドキック。

 こちらは「ライトニングハンマーV」と呼ばれる。つまり足の動く方向のイメージで分けられている。

 「Λ」は下から上への攻撃。本来なら空のジャンプで、降りる時に攻撃するのだが、そのジャンプそのもので蹴りを見舞う。

 こちらも下がった分だけやや届かず。腹部をかすっただけに留まる。

「きさまぁ」

「おあいこでしょ。胸とかお腹という女の子の大事なところばっかり狙ったあんたの方が、よっぽど性質が悪いわよ」

 憎悪をぶつけ合う二人の女。しかしそれは本来なら仲のよい幼なじみの男子と女子なのである。

 互いに姿を変え、戦場で拳を交えているとは思いもよらない。

 知っているのはルコとアヌ。そしてガラだけだ。


「おい。ジャンス。いたぜ。空だ」

 主を呼び捨てにするウォーレンだが、順は気にした様子もなく上を見上げる。

「アレがハヤブサのアマッドネスか。戦っているのはセーラさんってこと?」

 両者に面識はない。互いに情報だけである。

 順にしても、自分のエリアでの戦いが主で、セーラの援軍までは手が回らない。

 このときもむしろ利用していた形だ。

「今ならやれるんじゃねぇか?」

 ウォーレンも理解していて言葉を投げかける。

「ぎりぎりだけど、ここなら察知されないかな」

 ここでやることにした。それにもかかわらずバイクは走り出す。

 走りながら人気のないところで変身。そしてキャストオフ。超変身を。

 戦乙女。ジャンスがその特異な姿で元の場所に戻ると、未だに両者が空中で対峙していた。

 ルコが動かず、格好の標的だ。

「待っててねぇ。セーラさん。今助けてあげるから」

 心にもないことをつぶやき、銃を構えて狙いを定め、トリガーを引いた。


 激しい闘志がファルコンアマッドネスを救った。

 それまで動かなかったのが攻撃に転じた。

 そのためジャンスの狙撃から逃れた。

「なんだ? キャロル。もしかして」

 セーラが考えたのは残るひとりの戦乙女。ジャンス。

 ブレイザには遠距離攻撃の手段がない。単純に考えればそうなる。

 アマッドネスの仲間割れという線もあるにはあるが、それは甘い考えなので捨てた。

(恐らくはジャンス様でしょう。ウォーレンの気配も感じますし。ただそこから500メートルはありますから、セーラ様に確認は出来ないかと)

「そんな先から狙撃?」

 それじゃいくら的がでかいといえど、ここまでの精度の方が驚異的だ。


「あっちゃー。動くならもっと早く動いてよ」

 勝手なことを言うジャンス。既に衣装がジャンパースカートの女子学生服のようになっている。

 それがジャンス・エンジェルフォームだ。

「もう無理ね。とりあえず逃げるわよ」

「承知」

 ウォーレンバイクモードは猛然と走り出し、その場から離脱した。

 ジャンスが逃げたのはファルコンの逆襲というより、自分を利用したセーラが怒るのを嫌ってである。


「くっ。なるほど。いつの間にか連絡を取り合っていたらしいな。狙撃とは」

 どこか侮蔑を含んだ言い回しのルコ。

「し…知らない。あたしはそんなの知らない」

 正々堂々を身上とするせいか、律儀に否定してしまうセーラ。

「何を恥じ入る必要がある? 敵を倒すためにどんな手段でも使えばいい。それでこそ、殺し甲斐がある」

 言葉とは裏腹に小刻みに動き、標的となるのを避けている。

 ルコにはこの距離ではジャンスの気配を察知できない。

 何しろ眼前にセーラがいる。それにかき消されて探知できない。

 だから既にいないにもかかわらず、狙撃を警戒してこの行動だ。

「今日のところは挨拶代わり。いずれまた、お前を殺しに現れる。恐怖に震えて眠ればいい。それが報いだ」

 それだけ言うと文字通り消えた。

 とんでもない位置から攻撃してくるのを警戒していたセーラだが、本当に立ち去ったらしいと思いとりあえず元の場所へと戻る。


 ファルコンは元の場所に人気がないのを確認してから着地して、そして友紀の姿に戻る。

 ルコが眠りにつき、友紀が目覚める。

「あれ? あたし今なにしてたの? それに……」

 誰かとケンカしていた気が……そんな思いが頭をよぎる。

 嫉妬心が不可欠なため、意識の一部はルコと繋がっている。

 つまり朧気に戦っていた記憶が「夢」のように残っている。

「やだ。立ったまま寝てた?」

 繋がっているのは一部だけ。セーラ=清良と知ってしまうと、肝心の嫉妬心が消える。

 それどころか愛しい男を殺しかけていたとなる。それでは戦意に繋がらないため、他のアマッドネスとは違い意識を融合させず分離させている。


 友紀は怪訝な表情をしながら家路に着く。

 そして帰宅するなり、ベッドに倒れこみ、夕食まで眠ってしまう。

 当然だが戦闘の激しい疲労が原因である。


 一方のセーラ。既に意識が女性化してしまい、男の姿のほうに抵抗が。

 結局そのまま女の子の姿で服だけ変えて家に。

 既に家族にはばれているので、そのままである。

 部屋に入ると服を楽なワンピース状の部屋着に変化させ、そのまま床に転がる。

「ああもう。ワケのわかんない相手だったわ」

 確かに敵対しているとはいえど、明らかに個人的な恨みに思えたファルコンの襲撃。

 しかしそれが何故かわからない。

「もしかして依代のほうに何か遺恨でもあるのではないでしょうか?」

 キャロルが推理を口にする。

「………それだとなおさら相手がわかんないかも」

 何しろケンカの多い清良である。恨んでいる相手を特定するのは難しかった。


 夕食の前に入浴となる。

 もはやばれているので、そのまま女として浴室に行くセーラ。

「セーラお姉ちゃん。あたしも良い?」

「理恵ちゃん……良いも何ももうほとんど脱いでいるじゃない。あたし一応正体はあなたの兄なのよ。いいの」

「だってそうは見えないもん。どう見てもお姉ちゃんだし」

 なに考えているのかわからないまま理恵に押し切られる。


「うわぁ。本当に女の子なんだぁ」

 今は理恵がセーラの背中を流しているところである。

 裸になったらなおさら女にしか見えず、セーラも女の子に対して同性を見る感覚になっていたため抵抗がない。

「それにお肌すべすべ。本当に元はおにいちゃんなの? 二人いてあたしのことからかってない?」

「そんなわけないでしょ」

 実際に妹なのである。そして現在は女同士。姉と妹。自然と口調も女らしくなっていくセーラ。

「ねぇ。理恵ちゃん」

「なぁに? お姉ちゃん」

「自分に覚えがなくても、誰かに激しく憎まれることってあるのかしら?」

「うーん。あるんじゃない? なんか誤解とか。ただ単に友達の彼氏と授業の内容を話していただけなのに、それを浮気と勘違いされたり」

「勘違いねぇ」

 セーラが気にしていたのはルコの激しい憎悪。

 どう見ても同胞の敵というだけではない。

 個人的に恨みがある。

 そしてルコに対して見覚えがないのであれば、それは取り付かれた相手の可能性が強い。

 それにしても殺意まで抱かれているとなると、女性精神になっているセーラにはさすがに気にせずにはいられなかった。


「でも勘違いならそのうちわかってくれるんじゃない? だからお姉ちゃんまで感情的になっちゃだめだよ」

「ふふ。ありがと」

 口でこそ笑っているが、既に感情的になっていた。

(あたしの中にも、アマッドネスたちと同じ黒い感情が……大昔の戦いで犠牲になったあたしたちを神官たちは女神とたたえたって言うけど、こんな感情を抱くなんてとてもじゃないけど……)

「うーん。なんか暗いなぁ。えい。くすぐり攻撃」

「ちょ…ちょっとやめて。理恵ちゃん。あんっ。くすぐったい。きゃははははっ。あっ。そんなところ」

 自分がとことん女の肉体を有していると思い知らされたセーラであった。


 些細な誤解から付け込まれ、幼なじみ同士で殺し合いをしているとは夢にも思わない清良と友紀であった。

次回予告



「セーラ。今度こそお前の命をもらうぞ」


「いえ……ただあいつとの戦いはいつにもましてすっきりしなくて」


「セーラちゃん。もしあたしがアマッドネスに取り付かれたらどうする?」

 

(そうだな。せっかくこの姿を得たのだ。これも一興)


EPISODE22『愛憎』

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