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戦乙女セーラ  作者: 城弾
13/49

EPISODE13「恩師」

 警視庁。


 アマッドネスの被害者に接触することの多かった一城薫子は、そのままこの事件の特捜班に加入していた。

「とりあえず例の『変身美少女』というのにあって見たいわね」

「……それ、本気で信じているんですか?」

 後輩の男性刑事が胡散臭そうに尋ねてくる。

「化け物がいて、それを倒す子がいるのは事実でしょ? 少なくとも男があっと言う間に女に変わるなんて現実ではありえないし。常識と言うのを捨てて掛かった方がいい事件みたいね」

「それにしてもどうやって探すんです」

「バイクね」

「バイク?」

「白バイ隊員が見たという変身の現場。バイクもちょっと変わったデザインだったみたいだし。カスタムしているならバイクショップから繋がるかもしれないわ」

「つまりそのバイクの特徴を聞きに?」

「そういうこと。ナンバープレートがなくて、陸運局に問い合わせようがないんじゃ、違法改造の線かもしれないけどね」

 薫子は器用にウインクして見せた。








EPISODE13 「恩師」









 薫子が探すバイク…キャロルが走る。

 特撮のスーパーヒーローが駆るようなデザインのカウル。

 爆音を上げているがこれは偽装。

 ガソリンを使って走っているわけではない。魔力でタイヤを回転させている。

 しかし無音のバイクというのも不審に思われるので、あえてノイズを発生させていた。


 目的の建物。伊藤礼の通う高校が見えてきた。そのまま王真高校へと入っていく。

 やはりカモフラージュで駐輪場に。

 人気のないのを確認してからキャロルは黒猫の姿に変化した。

「また、ここに来るとはな」

 苦々しくつぶやく清良。

「いいじゃないですか。あんなに頼まれてましたし」

「確かにな。ほっといたら土下座しかねなかったぜ」


 前日の話である。

 珍しく何のトラブルもない…つまりアマッドネスも出現しなかった一日を終えて、清良が下校しようとした時だ。

「高岩せいらさんですね?」

 ぴく。清良のこめかみに血管が浮き上がる。

 次の瞬間には呼びかけた少年の胸倉をつかんでいた。

「俺をその名で呼ぶな。呼びたきゃ「キヨシ」と呼べ!」

 鬼ですら逃げそうな形相である。名前は相当なコンプレックスのようだ。

「は…ハイ。高岩さん。すみません」

「…………わかりゃいいんだよ」

 納得したので手を離す清良。

 頭に血が上ったのでよく見てなかったが、制服がまるで違う。ブレザーだ。

「お前、王真高の生徒か?」

「はい。森本要もりもとかなめです」


 まず170ないのは確実な身長。もしかしたら160ないかもしれない。

 清良に対して敬語を用いたことから年下と推測。それでもまるで小学生のような童顔だった。

「それで。オレに何の用だ?」

「はい。副会長に協力していただきたくて、お願いに上がりました」

 九十度曲げていそうな一礼。深々と頭を下げる。

「王真の副会長……あの伊藤のことか?」

 清良の脳裏に苦々しい記憶が。

「あの野郎の差し金か?」

「いいえ。僕の一存です。お願いします。高岩さん。副会長はずっと一人で戦ってきたんです。同じ戦乙女として、ぜひ助けてあげて…」

「バ、バカ野郎」

 清良は慌てて口を塞ぐ。そして小声で言う。

「こんなところでそんなことを言うな。イタイ奴だと思われるぞ」

 もちろん秘中の秘だから黙らせたのは言うまでもない。

 頷いたので手を離す。

「すいません。副会長があなたの心証を悪くしたと言うなら、代わって僕が謝ります。だからどうか。せめて和解の話し合いだけでも」

 段々とエキサイトしてきて、それが周囲の注目を浴びる。

「わ、わかった。わかった。明日の放課後に出向いてやるから。それでいいだろ」


「あんなことを言うんじゃなかったぜ。正直あの野郎と顔あわすのは気がすすまねぇ」

「確かにブレイザ様も気位が高いお方ですが…それでも太古の戦ではセーラ様。ジャンス様と力をあわせて戦っていました。それがあのように拒むとは」

「俺のほうも願い下げだが」

「一体この転生を繰り返す間に何があったのでしょう?」

「さあな。『生まれる前』のことなんでわかんねーよ」

 二人は校舎へと歩いていく。

 それを校舎の窓から見ている人物がいた。


 男女共にブレザーが制服の王真高校。いわゆるガクランの清良は目立つことこの上ない。

 じろじろと不躾な視線を浴びせられていたが、救いが現れた。

「高岩さん。着てくれたんですね」

「おう。森本だっけ?」

 会談を懇願しに来た少年が出迎えに来たのだ。それで「来客」と理解して、生徒たちは興味を失う。


 生徒会室。

「誰かと思えば…なんの用だ? お前の助けなぞ要らないと言った筈だが?」

 いきなりこれである。さすがに清良もむっと来る。それに追い討ちをかける伊藤。

「むろん俺もお前を助ける気はない。まぁそっちのエリアで全部片付ける前に貴様が倒されたら、ついでに残りの奴ら片付けてやってもいいがな」

「副会長。そんなことをいわないでください」

「森本。お前の仕業か?」

 背の高い伊藤が小柄な森本を上からにらむ。ますます小さくなる森本。

「おい。こいつはお前の心配をして、オレのところに来たんだぜ」

「それが余計だというんだ。お前が俺の意のままにならないなら、むしろ邪魔だ。消えろ」

「なんだと? この……」

(セーラ様。落ち着いて)

 校舎内では目立つので生徒会室に一番近い木に登り、そこに待機していたキャロルが窘める。

 しかしそれも虚しく伊藤の方が挑発的にニヤニヤと笑う。

 一触即発…だったが闖入者によってその場は収まる。


「ケンカはいかんな」

 中年の男性であった。

 逞しい体躯。顔の下半分を覆いつくす顎鬚。短いクセっ毛。そして、青い瞳。

「ドクトル・ゲーリング!」

 伊藤の声が上ずる。そちらに驚いて清良は毒気を抜かれた。

「レイ。君は優秀な教え子だ。だがそんな風に他者を見下すのは悪い癖だ」

「はっ。申し訳ありません。以後気をつけます」

 これにはもっと驚いた。

 相手が年上。そして恐らくは教師といえど、この傲岸不遜な男が自分の非を認め頭を下げるとは。

「うむ。やはり君は優秀だ。ところで、君」

「オレ?」

 矛先が自分にむくとは考えてなかった清良。

「あのラーイダは君かね?」

「ラーイダ?」

(ライダーのことでは? セーラ様)

 従者が助け舟を出す。

「あ…ああ。確かにオレだけど」

「我が校はバイク通学は禁止している。外部の人間でもバイクでの来校は認めていない。次から気をつけたまえ」

 偽装であげていたエキゾーストノートがたたって目をつけられていた。

 ブレザーが制服のこの高校でガクランが目立ったから簡単に居場所が特定できたのだろう。

「む……」

 言葉に詰まる清良だが言い分は理解できる。

「わかったよ」

「高岩。貴様は言葉遣いを知らないのか? 目上の方には敬語を使え」

 半ば怒りを含んで伊藤が言う。これも言い分はわかるので改める。

「申し訳ありません。気をつけます」

「うむ。君も理解が早い。優秀だ」

 満足したかのように彼は立ち去る。

 どうやら目的はその注意だったようだ。


「しかし意外だな。お前が敬語を使う相手がいるとはな」

 心底感心したように、そして若干の揶揄をこめて清良は礼に対して言う。

「お前のような無頼漢と一緒にするな」

 返答はまさしく「伊藤礼」という印象のそれだ。

「ドクトル・ゲーリングとか言ってたな? 外人か」

「ドイツから来た物理の先生だ。日本文化に興味を持っておられてな。それが縁でウチの学校に来た」

 饒舌な礼。清良は驚くが、森本は慣れているらしく微笑んでいるだけだ。


「随分と尊敬しているようだな」

「それに値する人物だ。本当の意味で頭が良く、高潔だが決して威圧的ではない。温厚で人間的にもすばらしい。あれはあの人から学問以外にも人としていろんなことを教わった。この世で唯一尊敬できる存在といってもいい。貴様のような野蛮人とは雲泥の差だ」

 こういうものの言い方をする男。訛りのように仕方ないものと割り切るつもりだったが、清良には無理だった。

「悪いな。森本。やっぱコイツとは無理だわ」

「そ…そんな。高岩さん」

「オレからも願い下げだ」

 自分が会談前に礼に対して使った言葉を、それと知らずに返されて一瞬はむっとなる。しかしもう無関係と割り切れたか、それだけだ。

「ふん。森本くらい従順で可愛げがあれば露払いにしてやるつもりだったがな」

「へいへい」

 すっかり興ざめした清良は続く言葉に反論すらせず、ドアを開いて生徒会室を後にする。

「副会長。なんてことを」

「あんな奴は要らん。足を引っ張るのが落ちだ。それにドクトルに対してのあの態度も気に入らん」

 どれほど心酔しているかを表した台詞である。


 意外なほどさばさばとしている清良。

 もともとそれほど乗り気でもない。

 「予想通りの決裂」というわけだ。

 一応は学校を出てから変化させたキャロル・バイクモードで帰路に着く。

 その最中だ。「いつもの」感触が来た。

「ちっ。そういや王真の辺りもアマッドネス頻出エリアか」

 彼は感覚の命ずるままにバイクを走らせる。


 王真高校。

 こちらも感知して外に出ようとする礼。そしてついてくる森本。

「副会長。出たんですか」

「ああ。いつものように頼むぞ」

「はい。留守はお任せください」


 伊藤礼が戦乙女ブレイザとして覚醒したのは、高校一年生の夏の頃。

 そして最初に助けたのがこの森本である。

 当時は中学生。不良グループに絡まれていたが、その中のひとりがアマッドネスに変化。

 たまたまその不良グループを成敗に来ていた礼が、そこでブレイザとして覚醒。


 いきなり女性に変化して戸惑いつつも、剣士としての心構えが物をいいアマッドネスを撃破。

 それ以来、助けられた恩から森本は礼のサポートをしている。進学先を王真高校に変更したほどである。

 あるいは「ブレイザ」に一目ぼれしたのかもしれない。


 礼にとって一番大きいのは秘密の共有である。

 他者に弱みを見せない礼だが、森本にだけはたまにそれを見せる時がある。

 それで随分と助かっていた。


 清良との共闘を拒む背景には「この関係」に「邪魔者」を入れたくない部分も少なからずあった。


 「感覚」が消えた。

 これは最低でもアマッドネスが戦闘形態から、人間形態に戻ったことを意味する。

 とりあえず清良はバイクを止める。そして辺りを見回す。場所は河原。

 陽気は良かったが、グラウンドは使用されていなかった。無人である。

 小鳥の鳴き声だけが聞こえる。後は遠くの車の音。

「くそっ。オレの接近に気がついたか?」

 それでも彼は地面に立つ。キャロルもバイクモードのままだ。警戒していた。

 そこにボールが飛んできた。反射的にキャッチしてしまう清良。

 それは軟式野球のボールだった。場所が河原のグラウンドだけに、ボールが飛んでくること自体は異常というレベルの話ではない。

 ただし、人が見当たらない。


「おーい。それ投げてくれよー」

 ジーンズにTシャツというごく普通の青年が、下のほうから声をかけてきた。

 ボールを手に怪訝な表情になる清良。だが笑顔を作る。

「ああ。いくぞ」

 清良はボールを持った右手を真上に。左手を真下に向けた。

 その刹那に「青年」が異形に変化して「撃ってきた」

 だが清良はそれを見越していたので難なく避けられた。

 さらに既に変身の体勢だった。


「変身」


 スパークしてセーラー服姿に。そしてキャロルにまたがり土手を駆け下りる。

 魚を人間にしたようなアマッドネスと対峙する。まるで西部劇のガンマンのようないでたち。

「ちっ。油断してボールを投げたところを撃ってやるつもりだったのになっ。何でわかった?」

「バカか。一人で壁に投げるボール遊びもあるが、ここはそんな垂直の壁は無いだろうがよっ」

 土手なのでなだらかな斜面である。土地勘がなくともそれくらいはわかる。

「ちちぃっ。そういうことか。まぁいいさ。射程距離からちと離れていたしな」

 言うなりアマッドネスは左腕を変化させる。生物らしさはあるが、まるで銃口のような形になる。

 そして凄まじい勢いで「水」を打ち出す。

 放水ではなく、僅かな量の水を射出する。

「おっと」

 セーラは慌てて避ける。キャロルも瞬時に小さな黒猫の姿になり、直撃を回避。

 いくら防御形態のエンジェルフォームでも直撃は避けたい。

 毒が有る可能性もあるし、何より体内からの射出というのが気分的に嫌だった。

 そして避けたのは正解。土手の土をえぐったのだ。

「なに!?」

「へへん。水鉄砲と馬鹿にしない方がいいよ。工業用に使われているが、細い口から高圧で噴出すれば鋼鉄だって切れるんだ。それを弾丸のようにして打ち出すのがこのあたしさ」

「……どうやらテッポウウオのアマッドネスらしいな」

 飛び道具かよ…セーラは歯噛みしていた。

「ひゃははは」

 アーチャーフィッシュアマッドネスは、調子に乗ってセーラの足元を撃ちまくる。

 食らいはしないが完全に足止めをされていた。


 校舎から下駄箱に向かう渡り廊下にいた礼と森本。

 ここを抜けて下駄箱から外に出たら使い魔であるドーベルと合流。そして直行するのが毎度のパターンだった。

「それにしても絶妙のタイミングで出てきましたね」

「ああ。まるで高岩が帰るのを狙ったかのようだ」

「君は優秀だがその答えは半分しかあってないな」

 その声に思わず足を止める礼。振り返るとドイツ人教師がそこにいた。

「ドクトル。それは一体…」

 何でこの人がそれを理解できる?

 秘密を知る者の中にこの人はいないはずなのに?

「狙ったのは彼でない。君だよ」

「何を言っているのかわかりません」

 ウソだった。礼は認めたくなかった。だがその可能性が非常に高くなってきた。


「ほらほら。躍れ躍れ」

 まさに調子に乗っているアーチャーフィッシュ。

 セーラは短いスカートをひらひらとさせて、その言葉どおりに待っているようだ。

「調子に……乗ってんじゃねぇ! キャストオフ」

 身を守る鎧でもあるセーラー服をばらばらに吹き飛ばす。

 防御は手薄になったが、代りに運動能力は格段に向上。だがもっと上を目指す。

 セーラは右のガントレットを叩く。


「超変身」


 その姿がレオタードの妖精に。セーラフェアリーフォームは身軽さを身上とする。

 さらには飛ぶこともできる。

「へん。テッポウウオに狙い撃ちされるチョウチョってところ…」

 だが身の軽さは伊達ではない。

 連射をことごとく避けて接近していく。

 しかしアーチャーフィッシュも後方へと走りながら撃っている。

 弾丸を避けながらだけに距離が詰められない。

「アバヨ」

 言うなりアーチャーフィッシュは川に飛び込む。高速で逃げていく。

 セーラにはマーメイドフォームという水中モードがある。

 しかし追跡を躊躇った。どうにも行動が妙だと。

(もしかして……足止めが目的?)

 だとしたらターゲットは自分ではない。


 陽動と思われたアーチャーフィッシュは無視。

 非常事態と判断したセーラは、人目につくのも構わずにキャロルを抱えて、フェアリーフォームで王真高校に飛んでいく。


 その王真高校。

 師弟関係だった二人が、戦おうとしている。

「万が一にも助けに入られては厄介だからね。彼が三人目の戦乙女というのは先日見て知っていた」

 マンティスアマッドネスに急襲された一件か。例は瞬時に理解した。それしか清良がここで変身した姿を見せたことはない。


「なぜ……あなたが……」

「妬ましかったんだよ。本当に優秀で、しかも若い君が。さらには神から守護神としての力を与えられて。本当に妬ましかった」

 尊敬している恩師の独白。礼は足に力が入らなくなっていた。

「いつのころからかな。君に対して殺意すら抱いていた。その醜い心に付け込まれてね。私は悪魔の力を手に入れたのだよ」

 それを言い終えると彼は変わる。

 ヒゲで覆われた顔が女のそれに。

 頭にはまるでヘルメット。その上に鎮座するサソリ。そのシッポが「お下げ」のように見えた。

 全身は鎧武者のようだ。いたるところにサソリのレリーフが。

 そして自分の外骨格の一部を変化させたものなのか。

 同様にサソリの彫り物のある盾を左手。そして戦斧を右手に持っていた。


「死ね。ブレーイザ」

 放心状態の礼の頭上から、スコーピオンアマッドネスが繰り出す恐怖の斧が振り下ろされる。

次回予告


「言った筈だ。お前の助けなどいらんと。ましてや俺とドクトルの間の問題。誰にも邪魔はさせん」


(私の中に悪魔がいる)


「……決着をか……」


「案外ドクトル・ゲー…………スコーピオンアマッドネス! お前の墓場かも知れんぞ」

 


EPISODE14「決別」

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