表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき3

友達と

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくろくじゅうろく。

 

 名前を呼ばれて、はたと気づいた。


「……」

 いけない。

 ぼうっとしていた。

「どうしたの?」

「……なんでもない」

 そう返事を返すと、何かに満足したのか手元の携帯に視線を落とした。

 私はそんな気にもなれないので、視線を移す。

「……」

 窓際の椅子に座り、2人で向き合っている。

 目の前に座っているのは、見知った顔。

 中学からの同級生で、最近、実は幼稚園も同じところに通っていたと言うことが発覚した。

 ―私が、勝手に煩っている友達。

「……」

 その友達と、最近できたと言うカフェに来ていたのだ。

 水族館がテーマということで、中央にはカフェにしては大き目の水槽があったりする。

 そこまで大きな魚は見当たらないが、色彩豊かな魚たちがひらひらと泳いでいる。

「……」

 少し視線を外せば、外が見えて、車が走っていたり、人が歩いてたりするものだから。

 不思議な感覚に襲われるのは私だけだろうか。

 中と外の空間の違いが大きすぎると、なんとなくふわふわとしてしまう。映画館に行った後とかもよくこんな風になる。

「……」

 まぁ、そもそも。

 彼女と遊ぶときは、いつだって夢見心地だと言ってもいいぐらいなんだ。

 そのうえ、今回はあまりにも久しぶりすぎて……お互い社会人になってからはこんな機会はそうそうなかった。仕事の関係上、お互いの休みが合うこともそうそうなく、年が明けてからは私が色々と崩していたから、連絡も疎遠になっていたのだ。

 それがようやく安定してきて、数日前彼女の誕生日だったのもあって連絡をしたところ、一緒に出掛けようとなったのだ。

「……」

 それなりの年数一緒にいるが、気持ちに気づいてからは、どうしても浮ついていけない。

 なんとなく、平静を保っているつもりではいるんだけど……なにせ彼女には彼氏がいるし。

 何人目の彼氏かは……まぁ。うん。

「……」

 こうして遊びに行く先は、彼女からしたら彼氏と行く前のロケハン的な感じなんだろう。大抵、デートスポットと呼ばれるところに行くからな。周りはカップルがやけに多いからなここも。そのせいで、更に浮つくのだから現金な奴なのかもしれないな、私も。

 内心デートだぁ……なんて思って浮かれるんだもの。

「……」

 視線を目の前に戻し、携帯をいじる彼女を見る。

 何をしているのかと思えば、どうやら彼氏から連絡が来たようだ。

 なにか一生懸命返信している。打つのが遅いんだよねぇ、と気にしていたが、そうでもない。普通に早い……。

「……」

 携帯は透明のカバーに包まれており、背面にはお気に入りのステッカーが入っている。

 下の方にはキーホルダーが揺れていて、それは一昨年あたりに一緒に行った水族館で買ったお揃いのモノ。……その隣にこの間彼氏とも行ったんだと見せられたのが揺れている。

 私とお揃いのものよりは小さいけど。

「お待たせしましたぁ」

 ジワリと、毒が広がりだした矢先に。

 別の声が入り込んだ。

 顔を上げると、スタッフが立っており、その手にはトレーが置かれていた。

「海洋タルトのドリンクセットふたつ、ですね」

 そういいながら、それぞれの目の前に置かれたのは小さなタルト。

 ゼリータルト……らしい。水色のゼリーがキラキラと海そのもののように輝いている。色のせいで食欲は掻き立てられないが、目の保養には持って来いな感じがする。

「……」

 ドリンクはそれぞれ、コーヒーと限定ドリンク。

 彼女の前に置かれた限定ドリンクは、水色の液体の中に、炭酸の泡がふわふわと浮いている。その上に、魚をモチーフにした飾りが浮かんでいる。

「「ありがとうございます」」

「はぁい、ごゆっくりどうぞぉ」

 ……やけにのんびりした店員さんだ。その話し方とは裏腹に、動きがてきぱきしているから、ギャップがすごい。注文を取りに行ったり、運んだり。他の誰よりも動いている。すごいな。正直、飲食店のスタッフってだけで、尊敬を覚えるのに。

「……食べないの?」

「ぁ、食べる。写真もういい?」

「あと一枚……」

 ん。なんだか少々不機嫌にみえるんだが。

 何かがお気に召さなかったかな。

 あぁ、私の手が入ってしまうのか。

「……む」

「ん?」

「なんでもない、ありがと」

「ん、はい」

 フォークを手渡し、自分の分も皿に置く。

 私も一枚だけ、写真を撮り、今度甥っ子も連れてきてあげようかな…とぼんやりと思う。こういうスイーツだけではなく、ランチもしているようだから、お子様セットもあるし。

「そういえば、妹ちゃんは元気?」

「ん?ん。元気だよ」

 それから、他愛もない話をした。

 最近の事とか、家族の事とか。

 彼氏の愚痴もたくさん聞いたりして。

 久しぶりの、彼女との面と向かっての会話は、とても楽しかった。

 これからは、こうして会う機会が増えればいいけどな。







 お題:水族館・タルト・椅子


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ