05 ちーとぱわー
さてさて、チート持ちが何故チートと呼ばれるのか?
単純明快居たらヤバいから。
岩を砕くどころか金属鎧すらもひしゃげさせる圧倒的怪力!
10人の騎士を同時に相手取っても息すら切らさず完封する達人もびっくりの剣術センス!
最長2kmから案山子の頭を粉々にする弓での正確射撃!
ありとあらゆる武器を達人レベルで扱える覚醒し過ぎな才能!
何者も通さない無敵の結界と、一瞬にしてあらゆる万病や怪我を治す治癒魔法!
放たれる石塊はまるで散弾銃!鎧すら蜂の巣にする最強魔法!
一方その頃小鳥遊南は、基礎中の基礎である体力作りのために演習場を走らされていた。
「はぁ…あ″ーー!!もう無理だぁーー!!」
「それだけ叫べる余力があるならばまだまだ走れるハズだぞ。」
「鬼だろあんた!」
単純に辛い。もうやめたい。俺も剣やら魔法やらでチートを見せつけたい。……無理だけど。
んで、なんで俺が走らされてるかって言うと、女体化して体力が落ちたからだ。元々そこまで体力ある方じゃ無かったけども、この身体になって更に落ちた。
で、剣にしろ魔法にしろ、まずは体力作りからだ!!ってゴリゴリの体育会系みたいな事を言い出したのが、俺達の訓練教官?的なポジションにして、モンスター討伐を主とする第1騎士団の団長【精霊騎士】セシル・ワーミオン。
読んで字のごとく【精霊騎士】だ。精霊の力を借り、精霊魔法を扱えるのが『精霊術士』だとすれば、剣で戦いながら契約精霊を独立したアタッカー兼サポーターとして扱えるのが精霊騎士だ。
「まぁまぁ団長、ひとまず一旦休憩させましょうよ。初めてでやり過ぎてもあれですしね。」
そんな俺に救いの声が!声の主はセシル団長の直属の右腕である第1騎士団副団長のジャックさん。
「そうか?あまり甘やかすのも良くないと思うが、まぁ良いだろう5分だけ休憩としよう。」
5分かぁ…しかし休憩は休憩だ。なんとか助かった。たぶんこのままやってたら割とガチで死んでた。慣れない身体で持久走とかふつーに苦行過ぎる。
セシル団長の背を見送り、水魔法で作り出した水を飲んでいると…
「ちなみに、僕としても甘やかすのはあまり好きじゃ無いですからね。休憩後はさっきより動いて貰います。」
…思わず水を吐きそうになったぞ!どうやら俺の味方は居ないらしい。そんな後々の絶望は5分後の俺に託して周囲を観れば、ちょうど勇者がセシル団長と……
あれ?さっきまでそこに居たよな?…
ひとまず、セシル団長との模擬戦をやるらしい。
優輝が強ければワンチャン5分後じゃ無くなるのでここは優輝を応援しよう…心の中で。
「あの…南の訓練してたんじゃ無いでしたっけ?」
「いや、私はお前達全員の力を見るために訓練の時間を使っているんだぞ?かつてこの世界を救ったとされる勇者の剣を魅せて貰おうか。」
第1騎士団団長【精霊騎士】セシル・ワーミオン。
それは正しく騎士団長である。比類無き強さと指揮能力を併せ持ち、それ以上の『華』を持つ。
国の内外に広く知られる為には、他者が驚く情報が必要だ。
故に女性でありながら戦場に立つ。
剣を握り、精霊を従え、そして敵を狩るのだ。
「《纏霊・吹風》」
「ッ!?」
開始の合図も無しに、セシル団長がスキルを発動しながら斬り掛かる。
渦巻く風を纏った剣は、確かにソレを受ける姿勢だったハズの優輝の体勢を一瞬にして崩し、訓練場の端まで吹き飛ばす。
「いや…大人げなくね?」
「何、少し強いからと調子に乗られても困りますから、あれくらいで丁度良いんですよ。」
文字通りの付与効果。セシル団長もさほど力を入れてはいないだろうが、吹き飛ばし効果は絶対だ。
これで分かるのはこの世界では剣だけ鍛えてどうにかなる感じじゃ無い。
スキルや魔法によって戦況は一気にひっくり返るし、スキルや魔法の温存、もしくは虚偽情報を張る事も重要になってくる。
さて、体勢を立て直した優輝だが、動きはセシル団長の方が数段早い。
「《纏霊・爆……」「《聖剣聖域》!」
_!!!
剣と壁がぶつかり合い、負けたのはセシル団長の剣。
召喚された四つの剣による結界は、何物も通す事は無く、《纏霊・爆火》の爆発にすら怯まなかった。
「…そろそろ、こっちから攻撃していいですか。」
優輝が剣の結界を解除する…
「《聖剣召喚》…」
現れたのは光り輝く剣…。
しかし出現した途端、それを観ていた騎士達…いや、彼らだけで無く、かなり離れていたハズの宮廷魔術師達も総じて肌が粟立つ。
それは紛れもない畏怖の念…それは超常の存在を目の前とした時の感覚に近い。
判らない、理解出来ない、深淵を覗き込んだ時のような……
「行きます…」
「はは…来い。」
_キンッ
折れた剣身が、くるくると宙を舞う。
勝負はあまりにも一瞬で、あまりにも呆気ない結末だった。
何をしたかと言えば、優輝が放った一撃を、セシル団長が受けきれなかっただけ。
やや切れた頬が、セシルの敗北を更に色濃く刻み込む。
「なるほど、これが聖剣……唯一魔王を封じる剣か。」
「すみません…傷……」
「要らぬ心配だ。さて、5分は経っただろう。」
自らの傷に触れつつ、折れた剣を投げ捨てる。
それはなんと言うべきか…言いようも無い壁にぶつかった人間に見えた。
さて、こちらに向かってくるセシル団長になんと声を掛けるべきか…
「さて南、敗北を喫してしまったが…八つ当たりだ。訓練のコース内容を変更する。」
傷ひとつ無い悪魔のような表情で言い切ったその言葉を頭の中で反復し、俺は当然の声を出す。
「え?????」
その日の心臓の音と、次の日の全身の痛みを俺は忘れないと思う。
【聖剣聖域】は【聖剣召喚】に付属している能力。
絶対防御系のスキルであり、14代目の勇者の聖剣の能力です。