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プロローグ

2000年以上、その世界は平穏を保っていた。


それは(ひとえ)に世界の守護者のお陰であり、そして世界にとっては一時の甘い蜜でしか無かった。甘い蜜で満たされた器は、割れれば徐々に蜜を溢し、誰もそれに気付かない。


世界を守る。

ただそれだけの為に動き続けたソレが気付いた時には既に遅い。

もはや狂気の域に達していたその願いは、想いは、一瞬にして瓦解する。


もしもっと神経を張り詰めていれば、もしそれを先んじて知る事が出来ていたなら、と。

そんな『もしも』は全て無意味で無価値で、一銭にもならない問いである。


対策を講じなかった訳でも、防げなかった訳でも無い。

だからこそ、ただ己の弱さを呪うだけだ。

油断した。緊張が解けていた。全て言い訳…だから一言だけ呟く。


「何故…今更。」


停滞した物語に変化を加える事象(イレギュラー)。ただそれがもたらされたに過ぎないのだ。






「お兄ちゃん!早く起きて!」


「頼む、あと5分…いや10分くれ。」


強烈な眠気と怠さが俺の身体をベッドに縫い付け、そして柔らかく温かい毛布が優しく包み込むように俺を抱き締めてくれる。


「馬鹿な事言ってないでさっさとしてよね。私、お兄ちゃんを起こすの面倒くさいんだけど!」


聖域(ベッド)とは真逆に悪魔のような俺の妹に催促され、ようやく微睡みから抜け出す。正直まだ寝ていたい。さすがに徹夜でゲームはやり過ぎた。

しかし憤怒の表情の妹に嫌われる事と天秤に掛け、俺の3時間睡眠の頭脳は起床を選択した。


「おはよう日向(ひなた)。」


「ハイハイ、さっさと朝ご飯食べて学校行くよー?」


何とも冷たい返しだな。



俺はあくびをしながら階段を降りて、顔を洗って


「母さん、おはよう。」


「おはよ、また夜までゲームしてたでしょ?ほどほどにしてよね。」


「ハイハイ、明日から頑張りますよ。」


食卓に着いた俺はパンと目玉焼きとコーヒーをいただき、制服に着替える。


「じゃ、母さん行ってきます。」


「行ってきまーす!」


母に挨拶し、玄関を開けて家を出る。

違う高校に通う妹と途中で別れ、俺は自分の通学路を歩く。


「よ、南。」


「みなみんおはよー」


「おはよう、二人とも。」


幼馴染みと学校へと向かう…それが、この俺小鳥遊南(たかなし みなみ)の高校生活での日常である。





2-Bのクラスには、まぁまぁ癖の強いやつが揃っている。例えば俺の隣の席のやつ、御影悠真(みかげ ゆうま)は昔子役として有名だった。今は役者に興味無いらしいが、何というかそれを知ると全部演技に見えてくる。


「起きろ、授業始まるぞ。」


バシリと優しさの欠片も無い手のひらが後頭部を襲う。


「ぐおぉ…痛え!」


俺が寝そうになったら叩き起こすのが悠真の役割みたいになっている。何せ委員長である篠原結華(しのはら ゆいか)の公認だ。遠慮無くバシバシ出来るというもの。とんでもない立ち位置に置かれてしまって俺は非常に悲しい。


「恨みがましい目で見んな。授業参観で寝たお前が全部悪いだろ。」


「ごもっともで。」


そんなやりとりをしていれば、おのずと時間は過ぎる物で、いつの間にか授業開始の刻限へと、時計の針が進んでいた。そしてー



「は?」


突然、足下が全部無くなったみたいな浮遊感に襲われる。


『紐無しバンジー』という言葉が頭に浮かんだが、ふざける暇も、その状況を理解する合間も無く、俺は漫画のモブみたいに超常現象で死ー


「ッ痛!!」


感覚では数秒後、俺は尻に凄まじい衝撃を受けて現実に引き戻される。

今の謎感覚は良くあるやつだ。あの、夢で落ちた後ビクッてなるやつ。


「すまん、また寝てたみたい………」


ん?…教室じゃ無い。

そこは青空の下、周囲をぐるりと囲むように立つ石柱と、地面に描かれた巨大な絵…少なくとも高校2年生。17歳となるまである程度歴史や地理の勉強により教科書に載ってるやつなら外国の遺跡を知っている俺の知識には無い場所だ。


「……誰だあの女の子?」


その声の主は、尻餅を着いた俺を見るジト目悠真。

っていうかなんか俺だけ出遅れたみたいな感じだなこれ。

ってか女の子って…明らかに俺を見ながら言ってるのはふざけてるのか?


「いや…」


冗談に乗ってやろうと出した自分の声に、思わず驚く。

少なくとも普段の俺の声では無い。そして自分の喉に触れるのは白くて細い指だ。『白魚のよう』という言葉はこういう手に似合うのだろう。


「俺は……小鳥遊…南…のハズだ。」


自分に言い聞かせるように、嫌に可愛らしくなった声を出す。別人のような身体に一段下がった目線。そして自身の胸部にある申し訳程度の柔らかな感触。


「なんで…俺が女になってんだ!?」

いっぱい死ぬ作品です。

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