表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

5分シリーズ

最初で最後のデート

作者: 理春

「最初で最後のデート」 晶編


「晶、今度の週末、デートしてくれない?」


ある日咲夜くんにそう言われて、美咲くんから了承をもらった私は、彼とショッピングモールへ出かけた。

いつもより少し大人っぽい服装をした咲夜くんと、手を繋いで歩いた。


「こんな風に手繋いで歩くの、子供の頃以来だね。」


彼はそう言いながら屈託ない笑顔を見せた。


ウィンドウショッピングをして、映画を観て、ランチを食べて、雑貨屋さんで買い物をして・・・

年相応のカップルのデートをした。

一通り回って落ち着いた夕方頃、本家にあった中庭のような、噴水のある庭園で休憩することにした。


「結構たくさん歩いたね、疲れてない?」


「大丈夫だよ、ありがとう。」


二人でベンチに座って、そんなやり取りをした瞬間、咲夜くんは急に真顔で私をじっと見た。


「・・・なあに?」


私はその時、咲夜くんが何を言い出すかなんて、予想することもなった。


「晶、俺さ、子供の頃から晶のこと大好きだよ。」


今日言われるだろうと、わかっていたはずのその言葉が、余りにも自然に耳に入ってきて、固まってしまった。


「大好きっていうと、なんか子供っぽく聞こえるかな・・・。」


彼は私の手をそっと取った。

告白のその言葉を、咲夜くんは緊張の色を見せることなく続ける。


「何かしてる時にさ、ふと、晶のこと考えたり、あ、これ晶好きだったなぁ、とか。可愛い服を街で見かけるとね、これ晶似合いそうだな、とか。晶はどんな服装の男が好きなのかな、とか、今日もすごく考えて選んだんだよ。」


咲夜くんは気恥ずかしそうに語りながら、少し視線を外した。


「それでね・・・美咲はこういう服着てたから、晶はこういう大人っぽい服装の方が好きなのかな、って。美咲がつけてた香水をもらったことあるから、これにしよう、とか・・・。デートの時、美咲ならこんな風にエスコートするんじゃないかな、とか・・・さ。」


握っていた彼の手が、少し震えていた。


「きっと・・・晶は、美咲のこういうところが好きなんだろうなぁとか・・・。俺が美咲の尊敬してると思うところも、晶は同じなんじゃないかな、とか・・・。」


「咲夜くん・・・あの」


今までで見たことがない、つらそうな表情をする彼に、何て言っていいかわからないくせに、遮らずにいられなかった。


「晶が美咲を想ってることくらいずっとわかってた。でも、晶が美咲を好きな気持ちと同じくらい、俺は晶が好きなんだよ。」


そう言って無理に笑う顔を見て、私は涙が溢れてきてしまった。


「ごめんなさい・・・。」


「・・・うん・・・知ってる。」


「違うの!そういう意味じゃ・・・」


慌てて顔を上げたけど、咲夜くんの表情は変わらなかった。


「ふ・・・違うの?」


一縷の希望も抱いていないその言葉に、私はようやく悟った。

彼は振られに来たんだ・・・。そしてわかってた癖に、咲夜くんの気持ちからずっと目をそらしていた最低な自分に、ハッキリと気が付いた。


「ごめんね、晶を傷つけたくて告白するつもりはなかったんだ。俺の自己満足に付き合わせちゃったんだけど・・・でも、今日はすごく楽しかったよ。」


そう言って彼は、いつもの可愛い笑顔を私に見せた。

その笑顔に私は、いつも勝手に安心していたの。


「私も楽しかった・・・。ありがとう咲夜くん。」


そう言うと彼は、ハンカチを取り出して、私のこぼれた涙を拭いてくれた。

私は結局その日、咲夜くんを突き放す言い方が出来なかった。

ただ、「ごめんなさい」と言った私の言葉の後に見せた顔が、いつまでも私の胸を締め付けていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ