最初で最後のデート
「最初で最後のデート」 晶編
「晶、今度の週末、デートしてくれない?」
ある日咲夜くんにそう言われて、美咲くんから了承をもらった私は、彼とショッピングモールへ出かけた。
いつもより少し大人っぽい服装をした咲夜くんと、手を繋いで歩いた。
「こんな風に手繋いで歩くの、子供の頃以来だね。」
彼はそう言いながら屈託ない笑顔を見せた。
ウィンドウショッピングをして、映画を観て、ランチを食べて、雑貨屋さんで買い物をして・・・
年相応のカップルのデートをした。
一通り回って落ち着いた夕方頃、本家にあった中庭のような、噴水のある庭園で休憩することにした。
「結構たくさん歩いたね、疲れてない?」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
二人でベンチに座って、そんなやり取りをした瞬間、咲夜くんは急に真顔で私をじっと見た。
「・・・なあに?」
私はその時、咲夜くんが何を言い出すかなんて、予想することもなった。
「晶、俺さ、子供の頃から晶のこと大好きだよ。」
今日言われるだろうと、わかっていたはずのその言葉が、余りにも自然に耳に入ってきて、固まってしまった。
「大好きっていうと、なんか子供っぽく聞こえるかな・・・。」
彼は私の手をそっと取った。
告白のその言葉を、咲夜くんは緊張の色を見せることなく続ける。
「何かしてる時にさ、ふと、晶のこと考えたり、あ、これ晶好きだったなぁ、とか。可愛い服を街で見かけるとね、これ晶似合いそうだな、とか。晶はどんな服装の男が好きなのかな、とか、今日もすごく考えて選んだんだよ。」
咲夜くんは気恥ずかしそうに語りながら、少し視線を外した。
「それでね・・・美咲はこういう服着てたから、晶はこういう大人っぽい服装の方が好きなのかな、って。美咲がつけてた香水をもらったことあるから、これにしよう、とか・・・。デートの時、美咲ならこんな風にエスコートするんじゃないかな、とか・・・さ。」
握っていた彼の手が、少し震えていた。
「きっと・・・晶は、美咲のこういうところが好きなんだろうなぁとか・・・。俺が美咲の尊敬してると思うところも、晶は同じなんじゃないかな、とか・・・。」
「咲夜くん・・・あの」
今までで見たことがない、つらそうな表情をする彼に、何て言っていいかわからないくせに、遮らずにいられなかった。
「晶が美咲を想ってることくらいずっとわかってた。でも、晶が美咲を好きな気持ちと同じくらい、俺は晶が好きなんだよ。」
そう言って無理に笑う顔を見て、私は涙が溢れてきてしまった。
「ごめんなさい・・・。」
「・・・うん・・・知ってる。」
「違うの!そういう意味じゃ・・・」
慌てて顔を上げたけど、咲夜くんの表情は変わらなかった。
「ふ・・・違うの?」
一縷の希望も抱いていないその言葉に、私はようやく悟った。
彼は振られに来たんだ・・・。そしてわかってた癖に、咲夜くんの気持ちからずっと目をそらしていた最低な自分に、ハッキリと気が付いた。
「ごめんね、晶を傷つけたくて告白するつもりはなかったんだ。俺の自己満足に付き合わせちゃったんだけど・・・でも、今日はすごく楽しかったよ。」
そう言って彼は、いつもの可愛い笑顔を私に見せた。
その笑顔に私は、いつも勝手に安心していたの。
「私も楽しかった・・・。ありがとう咲夜くん。」
そう言うと彼は、ハンカチを取り出して、私のこぼれた涙を拭いてくれた。
私は結局その日、咲夜くんを突き放す言い方が出来なかった。
ただ、「ごめんなさい」と言った私の言葉の後に見せた顔が、いつまでも私の胸を締め付けていた。