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待ち合わせの暇つぶし


「そういえば、さ」


 仕事の打ち合わせの待ち合わせ場所にて待機している最中、陸人(りくと)が不意に口を開く。家を出る前のいざこざからすると、まともに口を利かないと(かなめ)は予想していたが、どうやらそれは杞憂だった。事実、陸人は先ほどの出来事をそれほど引きずってはいなかった。八つ当たりをしてしまったことこそ恥じてはいるが、それについては謝罪もしたし、引きずってくよくよする方が相手に気を遣わせる態度だと考えていた。道中口を開かなかったのは単純に話題がなかっただけであり、他意はない。陸人にとって(かなめ)は気の置けない相手であるからこそ、無理に話題を探す必要もないと考えていただけだ。


「……ん、あぁ、どうしたよ?」


 まだへそが曲がっているであろうと推察していた相手から何気ない口調で声を掛けられたものだから、(かなめ)は動揺から反応が少し遅れた。これではどちらが気まずさを感じているのだか分からないもんだ、と(かなめ)は心の中で自嘲する。

 聞けば、わざわざ膝を突き合わせて打ち合わせをしなければならない理由が分からないとのことだった。確かに、事前情報の欠片もないような普段の異形処理と比べれば変異者の犯罪者については提供できる情報は多いだろう。それこそどんな罪を犯したのか、という役に立たない情報から、もしかしたらどんな異能を持っているのかも事前に把握できるかもしれない。そういう意味では打ち合わせという席を設けて情報を貰う意義はある。

 しかし、わざわざ対面しなくてはならない程ではないはずだ。というのが陸人の意見であり、今回の疑問でもあった。そんな疑問をぶつけられ、(かなめ)は陸人に感心する。

 

 疑り深い、と評すれば聞こえは悪いかもしれないが、考えもせずに"そういうものなのだろう"と吞み込んでしまうよりは良い。相手が誰であろうと、手放しに信用するのはただの思考放棄であり、死神との面会予定を早めかねない行為だ。

 何気ないものに対して疑問を持てるのはある種天性の才能だと(かなめ)は思っているし、例えそれが誰かの受け売りであったとしてもそれを素直に実践できる人間は意外に少ない、というのは(かなめ)の持論だ。異形と対峙しなければならないこの稼業で、もしも慎重派な人間が多数を占めていたとすれば異形処理屋は今よりもう少し生存率は高かっただろう。


「なるほどねぇ……俺ちゃんはその答え知ってるぜ。……ま、教えねーけど」


 蓋を開いてしまえば別に勿体ぶるような内容ではないが――否、生死に関わるような内容ではない事を(かなめ)は知っているからこそ思わせぶりに答える。折角芽生えた疑問の種を、答えを知っているからと言って簡単に摘み取ってしまっては陸人の為にならない、というのは只の建前。その実、陸人が悩んでいるその様をただ楽しむためだ。

 意地も趣味も悪い行為の自覚はあれども、(かなめ)にとって陸人をからかうのは楽しみの1つだった。先程自分は八つ当たりされた身であるし、これぐらいの意趣返しは許されるだろう、と心の中で自身に言い訳をしつつ(かなめ)は意地の悪い笑みを陸人に対して浮かべる。


「はいはい、どうせ自分で考えろって言われると思ってたよ」


 陸人は溜息と共に肩を竦めてからそっぽを向く。一見すると反応が薄いようにも見えるが、これは今まで散々からかわれた末に学んだ経験則――即ち、過剰に反応すると余計にからかわれると学んでいるからだ。きっと顔を背けた先ではしかめっ面をしているに違いないと(かなめ)は予想していたし、事実その通りだった。クツクツと喉奥を愉快そうにならして(かなめ)は笑う。


「ま、ノーヒントだと正解に辿り着かねぇだろうからヒント1つくれてやるよ。電話でもメールでもなんでもなく、わざわざ膝突き合わせるのは……アイツがサボるためだ」

「は?なんだそりゃ……謎かけ?」


 問いの答えが"サボるため"ならばまだわかる。打ち合わせの席を設けていれば、例えば書類仕事からその間逃げられるからという理由で対面しての打ち合わせをする、という意味合いになるだろう。しかし、ヒントととして出されたのであれば少しニュアンスが違うような気がした。では、逃避のためなどという安直な理由ではなく、何かを簡略化するために必要なものなのだろうか。

 陸人の頭の中で幾つかの予想が浮かんではくるが、いずれもしっくりくるものではなかった。思案に暮れているうちに、迎えの車が来た。如何にも重要人物を運んでいます、と言わんばかりの黒塗りのワゴン車だ。自分がそれに初めて乗った時は大仰な代物だ、と苦笑したと陸人の日記兼備忘録にあるが、改めて見ても過剰な待遇に思える。とは言え、日記によると万屋東堂の東堂夏樹(とうどうなつき)は別に誰を送迎するにしてもこの手の車を寄越しているらしい事を(かなめ)から聞いている。

 迎えが来たので陸人は一度思考を中断させる。どの道答えらしいものが思い浮かんだとしても、隣にいる(かなめ)が答え合わせをしてくれるわけではないし、クライアントに対して野暮な詮索である自覚はしていたからだ。所詮は手慰み代わりの暇つぶしであるし、素直に疑問にこそ思えどそこまで執心するような内容ではない。

 頭を軽く振って陸人は思考をリセットして、車へと乗りこむ。そんな様子を眺めて愉快そうに小さく笑う(かなめ)もその後に続く。


 程なくして、車は2人を万屋東堂まで運ぶべくゆっくりと走り出した。

もうちょっと更新頻度を上げたいなぁってずっと言ってる。

つまり、次回更新も不定期という事だ。


24/4/10 誤字修正

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