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社会的に破滅しても私たち三人のうち誰かを選んでもらえますか?  作者: 月白由紀人
第一章 俺、クロぼうと契約する
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第四話 俺、クロぼうと契約する③



 夜。


 彩音ちゃんの作ったおいしいかぼちゃカルボナーラパスタを食べてお風呂に入ってから、自室のベッドに横になっている。


「彼女……欲しいよなー」


 思わずいつもの様に口に出してしまった。


 でも、状況は芳しくはない。というかほぼ無理っぽい。俺と接触してくれる女生徒は高城さんとアイリだけで、高城さんは俺の事を男子としては意識していないだろうし、アイリに至っては俺を不満のはけ口にしている有様だ。


 まともに二人が俺の相手をしてくれているのなら、男子連中の嫉妬とヘイトでどうなるかわかったもんじゃないのだが、口をきける相手が学園二大アイドルだけだというのが、何とも言えず物悲しい。


――と。


「彼女、作れるよ」


 いきなり耳に無邪気な子供の様な声が飛び込んできた。


 驚く。


 部屋を見回して、改めて人がいないことを確認する。


 うん。いつもの色気のない茶色い自室だ。


 空耳だな。改めてベッドに横になろうとすると、


「ここだよ、ここ」


 再び声が聞こえて改めてその音の方向を見る。


 フローリングの床のど真ん中。まん丸目玉の黒ネコがちょこんと座っていた。四本の脚を揃えて、人畜無害そうな顔をこちらに向けている。


「……ネコ? どっから入ってきたんだ? というか幻聴……なのか?」


 少々混乱気味の俺に対して、なんとそのクロ猫が邪気のない面持ちと共に自己紹介を俺に向けてきた。


「僕はクロぼう。独り身の男女に彼女彼氏を作ってあげる愛のキューピッド――『夢魔』だよ!」


 絶句する。


「流石にこれは重症だ……な。幻聴が聞こえ続ける」


 俺はかぶりを振って大きく吐息した。学校を休んで心の病院に行かなくてはならないのだろうか。それよりなにより彩音ちゃんが心配するだろう。彩音ちゃんには心配をかけたくない。どうしたものか……考えを巡らせていると、


「心配いらないよ! 幻覚でも幻聴でもないから! それより君は夢魔の僕に選ばれたんだよ! 希望通り、彼女が作れるんだ! もの凄いラッキーだよ! 喜んで飛び跳ねていいんだよ!」


 俺の脳内を看破した様なセリフが聞こえ続ける。


 俺はそのクロぼうと名乗ったネコにジト目を送った。


「幻聴だとは思うが、一応聞いておく。夢魔ってなんだ?」


 クロぼうは無害そうな表情を変えることもない。


「夢魔は、異界からやってきた愛の使者なんだ。独り身の男子女子にパートナーを作ってあげるのが僕たちの使命なんだ」


「パートナーを作ってあげる……?」


「そうだよ。夢魔の魔法で一ヵ月の間に百人の女性を『看破』して『好感度パラメータ―』を見ることができるんだ。アタックして『キス契約』できれば、夢魔の祝福、加護の元、末永くずっと彼女として付き合うことができるというサービス。さあ、僕と夢魔契約を結ぼうよ」


 俺はジト目を更に細めて睨みつける。


「『看破』とか『好感度パラメータ―』って……なんとなく意味は分かるんだが、そんなことが可能なのか?」


「簡単だよ。そこが夢魔が夢魔たるゆえんなんだから。さあ、契約を結ぼうよ」


 幻覚との会話がヤバすぎる感じだ。


 俺はクロぼうをじろじろと見やる。


「まあ、お前の話はわかった。夢魔とか、アニメや漫画でよくあるやつだと思えば違和感もない。お前は幻覚かもしれないが、ここまではっきりと会話できてるんだから、ドッキリか何かかもしれないとは思い始めている」


「ドッキリじゃないよ。現実だよ。契約してみればとちゃんとわかるから」


 俺はむぅと唸ってから、思考を巡らす。

 これが幻覚幻聴なら、とりあえず一晩休んで回復を祈るのがベターだろう。

 現実だとしたら……夢魔契約を結ぶと彼女を作れるという。


「本当に……彼女……作れるのか?」


 聞いてみる。聞いてみるだけなら怪しいこいつにこれ以上関わらないで引き返せるだろうという考えもある。


「そこは君の努力次第という返答かな? その為の夢魔だから。僕も最善の努力を尽くすよ。素敵な彼女、欲しくないのかな?」


 そのクロぼうのセリフが俺の思考を後押しする。


「彼女か……」


 思わず、キャッキャウフフと彼女とはしゃぐ様を夢想してしまった。


「そうだよ。彼女だよ。僕と契約して彼女を作ろうよ」


 クロぼうの声に、日頃からの渇きに飢えていた俺の気持ちがぐらりと揺れた。


 夢魔……クロぼう……彼女……素敵な彼女……


脳内で計算を巡らし――チーン! と、結論の鐘が鳴る。


「俺、お前と夢魔契約結んでみるわ、試しに」


 言ったものの俺はこいつの言うことを完全には本気にしていない。


 夢なら夢で、彼女のいるシーンをベッドの中で観られればラッキー程度の感覚だ。


 その俺の短いセリフにクロぼうが口端を吊り上げた。


「そう来なくっちゃ。さあ、君の手の平を僕の前に差し出して」


 俺が言われた通りしゃがんでクロぼうの前に手の平を差し出すと、クロぼうは俺の掌の上にぷにっとしたネコ球をのせ――ピカっとその部分がフラッシュした。


「契約完了! よかったよ。君がまともに僕の相手をしてくれて。人間、外見じゃないんだってのが僕の信念なんだ」


「俺ってそんなに外見が……」


 ネコの美的感覚がどうなっているのかはわからないが、こいつにまで言われるとは思ってなかったのでちょっと鬱になった。


「あと『言い忘れて』いたけど、一ヵ月の間に『キス契約』して彼女を作らないと、夢魔の呪いがかかってこの先一生彼女を作れなくなるから注意してね」


「なんじゃそりゃー! 最初に言ええええっ!!」


 思わず言葉を浴びせかけずにはいられなかった。 


 こいつの夢魔契約とやらが本物だとは思っていないが、まるで詐欺師が持ちかけてきた後から契約だ。


「俺、マズった? まあ、百人いたら一人くらい、と思うことにする……か。いざとなったら無理やりは通報されるから、頼み込んだりして『キス契約』とやらをすればいいのか?」


「相手の気持ちのないキス契約はカウントされないから注意してね」


 邪気もなく俺の善後策を砕いたのち、そのままクロぼうは部屋の隅に行って丸くなる。


 俺も疲れからベッドに横になって夢の中へと沈んでゆくのであった。

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