第1章ー2 発端
道場。
砂書家の敷地内にある小さいものだ。
20畳程の広さにウレタンマットが敷いてありサンドバックが天井から下げられていて壁には棒や木刀などの武器が掛かっていた。
そこには空手着を着たケンとキョウジが防具をつけて向かい合っていた。
先に手を出したのはキョウジだった。
鋭い蹴りをケンの胃袋めがけ放った。
ケンは軽い足捌きでそれをかわすと軽く左手でパンチを腰を入れずに放った。
間合いを詰めるのと牽制も兼ねてだ。
間合いを詰めるとローキックを放った。
キョウジはそれを足を上げて脛で受けた。
軽い衝撃がキョウジの脳天に響いた。
その足を下ろさずにキョウジはケンの顔をめがけて前蹴りを放った。
タイミング的にケンの顔面に突き刺さる。
が蹴りは顔の寸前で止まった。
「一本、かな?」
キョウジはニカッと笑った。
「ケン、一本いい?」
ユウイチがグローブ、足の防具、レガースをつけて言った。
グローブはボクシングのグローブよりは薄めだが人体への影響を弱めるには充分なものであり、脚部防具、レガースも同然だ。
審判役はキョウジだ。
キョウジの号令と共にお互いに礼をする。
互いに構える。
ユウイチもケンもアップライトで構える。
先に仕掛けたのはケンだった。
サウスポーの構えから右手からの牽制のパンチを放った。
ユウイチは踏み込みながらそれを捌くが左のボディブローがユウイチの腹部に放たれた。
それよりも早くユウイチの右前蹴りがケンのボディに刺さった。その足を下ろしてすぐにローキックをケンの太ももに当てる。
しかしケンはそれを気にしないかのように体格を活かした突きや蹴りを放つ。
ユウイチも応えるように次々と突き、蹴りを放つ。
2人の足を止めての打ち合いになった。
そこで流れを変えたのはユウイチだった。
左のミドルキックを2発連続で放つ。
サウスポーのケンの腹部に肉が弾かれる音が響いた。
「止め」
キョウジの号令が入った。
一通りの練習が終わり3人はストレッチをしながらクールダウンをした。
日々の稽古の成果もあり3人とも体が柔らかい。
中でもキョウジはヨガインストラクター顔負けの柔軟性を見せていた。
「随分遅かったな〜」
キョウジが問いかけてきた。
「誘拐されかけて返り討ちにした」
「ユウイチ君を拐おうなんて何処のバカでしょ?」
「おまえら(笑)つけるような口調で言うんじゃないよ」
「やりすぎるとまた訴えられたらオヤジさん困るかな?と」
「えっケン、その話何?」
「キョウジ知らないかもしれないけど小学6年くらいの時に誘拐されかけて誘拐犯、返り討ちにして訴えられたんだよ」
「親父が上から言われたみたいだけど、向こうの訴え自体は却下されたけど」
「どこまでやったんだよ」
「顔面整形と手の指全部折ってやった。多分そろそろ出所してくんじゃね?」
「今日もまた整形してやったの?」
「いや逃げられた。3人の内1人のタマ潰してやったけど」
「正当防衛です」
ケンとキョウジより「うるさいよ!」とツッコミが入った。