95.人付き合いから逃げないことを決意する
聞き終えたエレナさんは、フーンと言いながら腕組みをして、テーブルに目を落とした。
私が、もう一度心の中であの頃の思い出をなぞっていると、彼女がふと顔を上げた。
「月曜からの行事、正直言って、ばっくれよっかなぁって思ったけど、やめるわ」
「えっ?」
「だって、それってどうしていいかわかんなくて逃げてるだけだよね?」
「…………」
「こっちは難しいことが苦手だから、逃げるのが一番だと思っていた。だけど、それやっちゃうと、ますますみんなと距離置いちゃうし、人間関係修復したくても出来なくなる」
考えをまとめようとしてエレナさんが独白している感じがしたので、ここは相槌くらいにして声を掛けないでおく。
「今まで、自分の心の中に他人がズカズカと踏み込んで欲しくないから、人が怖がるようなことをしてたんだけど、それやって今までいろんな人に迷惑掛けてきた。もうあの人をこれ以上困らせたり悲しませたりしたくない」
「…………」
「……やっぱ、行事に参加するが正解だわ。あの先公――じゃなくってバイトリーダの班分けはショック療法っぽくて気に入らないけど、しゃーないわ。
あとは…………口を利かない人をどうするかだなぁ」
遠い目になった彼女が、急に私の方を振り向いた。目と目が合ってドキッとしてしまうほど真剣だ。
「あのさぁ」
「は、はい」
「メグ美さんの経験みたいに、みんなで出来ることをみんなで一緒にやれば、うまくいくと思う?」
「うまくって?」
「口が利けるってこと」
「出来ると思う。もちろん、最後まで口を利かない人はいるだろうけど。現に、いたし」
「いいよ別に、一人くらい。きっと、一人にして欲しいんだろうからさ。孤高の人見知りは放っとけだよ」
「人見知りが超然として高い理想を保っているとは思えないけど……」
「はははっ、別にいーじゃん。言葉なんて気分気分。
でもさぁ、タレントみたいにほぼ24時間監視されて、スタッフも含めて大勢に見られている中で常に営業の顔をして、笑いもちゃんと取っていかないといけないし、やっとこさ寝てもドッキリカメラで驚かされるなんてことから比べれば、そいつの方はほったらかしに遭っているから天国の天国だと思うけどね」
「確かに」
「アニメや音楽はついて行けないけど、芸人とかバラエティとかどうかな?」
「何に?」
「共通の話題に」
「いいんじゃないかしら? きっかけになるなら何でも」
「ま、頑張ってみるよ。駄目なら駄目でいい。そーゆー奴だった、縁がなかったと思えばいい。そのくらいの気持ちで行かないと、息が詰まるしね。
……でも、安心したー!」
「何が?」
「え? メグ美さんが昔は人見知りだったってこと」
「なぜ?」
「仲間だってことさ。うちと」
エレナさんはウインクをして、ココアの冷えた残りをゴクリと飲み干した。
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