90.ゲームの世界で見せた涙
両手の甲で涙を拭きながら彼女たちの地雷を踏んでやしないだろうかと気を揉んでいると、頭の上からクラウディアさんの優しい声が降り注いだ。
「あらあら、そんなところでしゃがんでしまって。今日は相当疲れたのね。温かいココアがあるわよ」
私はしゃがんだまま、うんうんと頷くも、終了画面を表示させた。そして、タップしようかしまいか迷っていると、部屋の中をバタバタと走る音が聞こえてきた。
「あっ! 遅かったかぁ! ゴメンゴメン!」
涙に濡れる顔を上げると、ぼやけたエレナさんの顔が見えた。
「えっ? 泣いているの? 何があったの?」
エレナさんがしゃがみ込んだ。
「二人の姿が見えないけど……まさか……喧嘩してないよね?」
喧嘩の言葉にビクッとする。
「う、うん」
「どうしたの?」
「……何でもないの」
「その状況で説得力ないんだけど」
「ごめんなさい」
「一人で抱えるのはよくないよ。何なら、力になろうか?」
「大丈夫」
「じゃあ、ココアをごちそうになろうよ。一人よりも二人の方がおいしいよ」
そう言って、私の手を引きながらエレナさんは立ち上がる。
「ね? 一緒に飲もうよ」
感謝の気持ちで一杯になった私は、涙が溢れる。
ゲームの中で初めて人前で見せた涙。もう恥ずかしくていたたまれない。
「ね?」
そういえば、返事をしていなかった。
「うん。ありがとう」
泣き濡れた顔に笑みを添えて、なんとか立ち上がった。