88.相談事を持ちかけられた
さて、そろそろ夕食の時間なので農場ゲームから落ちようと思っていると、クラウディアさんが「ココアがあるわよ。休憩してはどうかしら?」と誘ってくれた。
真っ先にカレンさんがコテージに入り、私が後に続いて入ろうとすると、後ろから誰かに服を引っ張られた。振り返ると、テレーザさんがモジモジしながら足下と私の顔との間に視線を往復させている。
「メグ美さん。……ちょっと、聞いていいですか?」
たったこれだけの問いかけなのに、私の心臓はドクンドクンと波打った。
(改まって、何の話だろう……。まさか、リアルの名前とか??)
引っ張っていたドアノブから手を離してドアを閉め、彼女の方に振り返る。すると、彼女は躊躇いがちに言った。
「もし――」
この言葉が『もしかしてメグ美さんって――』と言っているのかと思って、全身の筋肉が硬直した。
「知っていたら教えて欲しいのですが……」
そっちかと思って半分安心するが、まだ油断できない。
「友達が多い人って――」
その言葉に『うわっ、私だ』と再び緊張した。
「人に気を遣うタイプだと思います? 例えば、もし、話が苦手の人が目の前にいたら――」
一瞬、めまいに襲われた。何かにつかまっていないと倒れそうだ。
「本当は話したくないのに、かわいそうだと思って話しかけると思います?」
心臓へ氷柱みたいに冷たくて鋭利なものが突き刺さったかのような痛みを感じた。真意を確認するための『それって私のこと?』という問いかけを必死に封印し、彼女の推理を否定する。
「そ、それは……ないと思うけど……」
「変なことを聞いてごめんなさい。私、どうかしている……」
悲しそうな顔になったテレーザさんは、そう言って何度も頭を下げてコテージのドアを素速く開け、逃げるように中へ入っていった。