85.会話が出来るか気を揉む
休み明けの月曜日は7時30分に学校へ集合だ。寝坊すると目も当てられないので、用心のため今からバッグに着替えやら寝間着やらを詰めることにした。
もちろん、おやつをこっそりと忍ばせて。1000円なんて上限は無視して。一体全体、小学生の遠足か、この制限は。
ゲームも持っていこう、と探したが、適当な物はトランプくらいだ。しばらくやっていないので、探し出すのに難儀したが、懐かしい絵柄のトランプが押し入れから見つかった。
私が握るトランプ入りのケースが、バッグの中と外を往復する。
(寝泊まりする部屋は班単位って聞いた。みんな……トランプゲームなら乗ってくれるよね)
一対一なら私と話が出来ても、私と三人が一緒にいる部屋で互いに話が出来るのかは未知数だ。
人見知りの何人かを一つの部屋に集めて集団行動を観察した検証ビデオがあったが、何一つ会話がなかったのを覚えている。あれは極端な例を取り上げたのだと思うが、片言の会話で終わってしまう、話が続かないのは容易に想像が付く。
でも、VRゲームの中のあの三人は――彼女たちに間違いないという仮定の上で――きっと何かをきっかけにして、互いに心を開いてくれるはず。
「うん。私、それを信じている」
独り言を聞いたトランプ入りのケースは、バッグの一番底に隠された。
オークさんの言葉を信じれば――といっても、かなり的確な見込み値なので信じても裏切られないのだが――16時には井戸が完成している。完成してから行こうか、完成する前に行こうか。決めかねているうちに、ベッドの上でウトウトと昼寝をしてしまった。
何かの物音と声でハッと目が覚めた。外で今日の野球の試合結果を大声で評し合う子供たちの声がしているが、どうやら少年野球チームの彼らが敗北の原因を押しつけ合っているようだ。
日が傾いている。
(まさか、16時を過ぎた!?)
飛び起きて壁掛け時計を確認すると、そのまさかだった。無情な壁掛け時計は16時を少し回っていることを知らせている。慌てた私はヘッドギアを装着してゲームの世界にダイブした。
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