79.広がった農地
22時過ぎに農場ゲームから落ちて、ユウたちとメールのやりとりをして22時半に寝たが、こんな時間に寝るなんて実に久しぶりだ。
だいたい、その時間は絶好調にVRMMOのゲームをプレイしている。早く就寝したので体のリズムがおかしい。
まだ3時、まだ4時、まだ5時、まだ6時という具合に寝ては覚めてを繰り返していると、これで疲れたらしく、次に目が覚めたは7時10分だった。
「やばやば!」
私は慌ててヘッドギアを被り、農場ゲームに接続した。
コテージから転がり出るように外へ飛び出すと、朝の光と清々しい空気が私を包み込むように出迎える。
「えっ? ここどこ?」
そんな錯覚を起こしてしまうほど、農地の奥の方に見えていた木々が、もっとずーっと奥の方にある。マジで違う場所に転移してしまったのかと大いに慌てた。
奥行きが2倍、横も2倍、面積で4倍に農地が広がったのだが、見た目はもの凄く広がった感じ。その広い真ん中で、オークさんたち七人が土地を耕していた。
「おはようございます! 遅くなってごめんなさい!」
遅刻の私は、手を振りながらみんなの所へ駆け寄ると、全員が振り返って笑顔で手を振ってくれた。
「私とカレンさんは6時に来たのですよ」と笑うのはテレーザさん。
「でも、一番乗りは5時のエレナさん」と笑うのはカレンさん。
当のエレナさんは「気になっちゃってねぇ」としきりに頭を掻いていた。
「ごめんなさい、寝坊して」
鍬を地面に置いたエレナさんは、
「それより、来て来て!」
と、私に手招きをしながら奥の方へ走っていった。その後ろをテレーザさんとカレンさんも手招きしながら走る。
三人とも私に見せたい物があるのだろう。遅れまいと彼女たちの後を追いかけた。
「ここ、ここ!」
エレナさんは奥の柵に達すると、身を乗り出すようにして下を指差す。近づいていくと、せせらぎの音がする。
「ねえ、メグ美さん! 見て!」
それは、柵と向かいの木々との間に流れる幅が2メートルくらいの小川だった。
「わー、キレイ!」
そう叫ばずにはいられない。
小川を流れる水はびっくりするほど透明度が高く、川底が丸見えだ。
苔の生えた石がたくさんあって、その間を縫うように川魚が行列を作って泳いでいる。時々、その川魚がぴちゃんと飛び跳ねた。とてもゲームとは思えないリアリティがここにもある。
「釣りが出来るかもね」
エレナさんが、釣り竿を持って糸を引き、リールを巻き取る真似をしながら笑った。それが面白かったので、私もテレーザさんもカレンさんも真似をして、四人がエアーフィッシングをやりながら爆笑した。
大漁だ。とっても楽しい。
グンと広がったメグ美農園の周辺では、自然が私たちにいろいろな姿を見せてくれる。季節の移り変わりで、次はどんな装いを見せてくれるのだろう。
そう考えただけで心が躍る。感動で震えてくるのだ。




