78.時計をさらに進める
「私、一度落ちていいでしょうか?」
カレンさんが、私に向かって訴えかけるような目を向ける。テレーザさんも「私も」と同じ目を向ける。私はエレナさんの方を向いた。意見を求められたと思ったらしく、エレナさんはこう言った。
「メグ美さん。時計を進めない? 週末だからといっても、さすがに徹夜はきついし。それに、現実世界との時差が9時間なので、夜昼が逆転しているようなものだよ。平日ならそれでいいけど、休日は、同じ時間、つまり時差なしにしてくれると助かるなぁ」
もっともな話だ。
「では、後の作業はオークさんたちにお任せしましょう。みなさんが落ちた後、私が落ちる時に時計を進めて時差なしにしておきますので、翌朝7時集合でどうでしょうか?」
「そうだね。午後に短時間のバイトを入れているから朝がいい」
「私は午後にお買い物の約束がありますから、それで」「賛成」
話はまとまった。
さっそく、オークさんたちは仕事に取りかかる。エレナさんとテレーザさんとカレンさんは手を振りながら終了画面を表示させ、地面からせり上がる金色の光の筒の中で虹色の光を放って消えた。
手際よいオークさんたちの作業を見ていると、飽きが来ない。見入ってしまい、時計を進めることも忘れてしまう。このまま見ていようという気持ちと、早めに寝ようという気持ちが綱引きを始めたが、寝る方に軍配が上がった。
私は、画面を表示させて時計を進め、現実世界と時刻を合わせた。時刻を合わせたからといって、曜日までは合わない。時計を進めているので、24時間先、つまり1日先にいることになる。ただ、その程度なら農作業には影響ない。季節が変わるわけではないのだ。
世界は一瞬にして真夜中になる。私は満天の星を仰ぎ見た。
煌めく星々が奏でる天体のシンフォニー。感動で声も出ない。頭のてっぺんから指先まで冷たい何かが走り、全身が震えてくる。両足が地面から離れて、上に向かって吸い込まれそうな気分になる。
私は周囲に目を向けようと思ったが、思いとどまった。
(朝になったら、みんなと見よう)
そう心に決めると、素速く画面に目を落とし、終了ボタンをタップした。
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