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メグ美農園の収穫祭へようこそ(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
第2章 スローライフとビジーライフ
70/150

70.話し合いがうまくいった

 一瞬、(えい)さんが『前に言っただろう?』と言いたそうな顔をして「別に」とつぶやく。


 (びー)さんは持っている鉛筆を指で器用にクルクルと回しながら「なんでも」とボソッと言う。


 (しい)さんは、二人が珍しく答えたので仕方ないと思ったのか、大きなため息をついて「同じく」と答え、首に掛けているヘッドフォンをいじっている。


 反応があっただけでも安堵する。鉛のように重かった心がだいぶ軽くなった。


 近くにいるクラスメイトは、レク決めそっちのけで『あの三人がしゃべっている』と物珍しそうに眺めている。


 私は少し身を乗り出した。


「じゃあ、山登り」


 三人が一斉に『なんで?』という表情の顔を私へ向ける。


「自然に触れようよ。ね? きっと、気持ちいいよ」


 私に張り付いていた三人の視線が少しずつ剥がれていき、各自の机の上へ移動した。


(なんか、まずいことでも言ったのかしら……?)


 急激な自信喪失で、背筋が寒くなった。


 彼女たちの日頃やっていることがインドア向けなので、逆にアウトドアがいいと思っての提案だったが、実は、農場ゲームも念頭に置いていた。目の前の三人が、もしエレナさんたちなら、きっと乗ってくると思ったのだ。


 しかし、反応がない。考えているのか、呆れられているのか。


 速攻で「却下」とか否定されないだけまだましだが、こうも反応がないと焦りが募り脈拍が上昇する。


「……それとも、室内でやる何かにする?」


 こう問いかけても彼女たちが顔を上げてくれない。


 なぜだろう。机の下の私の両手は、固い握りこぶしが出来ている。さっきから後頭部に感じる視線を確認するため振り向くと、担任の先生がこちらの成り行きをじっと見ていた。


「じゃあ、私と(えい)さんは山登り、私と(びー)さんは写生、私と(しい)さんは工芸品――」


 と、その時、すぐそばにいたユウが振り返って「()()()()って、分身の術、使うんだぁ」とツッコミを入れた。すると、(えい)さんがうつむいたままフッと鼻で笑い、(びー)さんと(しい)さんはうつむいたまま肩をわずかに上下させる。


 班でレクは一つなのに、ツッコミを入れてくれない。


 そこで、さらに冗談を追加して笑いを誘いたい気持ちに駆られたが、笑ってくれなかったらどうしようという気持ちが先に立ち、何も言えなくなった。こうなると手詰まり状態で、気ばかり焦る。


 と、その時、(えい)さんが顔を上げて真顔で言った。


「レクは一つだろ」


 やっと、返しが来た。


「あっ、そうだった」


「任せた」


「えっ?」


「任せたよ」


 すると、(びー)さんと(しい)さんが同時に無言で頷いた。


「ありがとう」


 そう言いながら私は、うるっと来てしまい、涙を見られまいとうつむいた。



 班の話し合いが終わって休憩時間となり、スマホをいじっていると、1通のメールが届いた。教室の隅で壁にもたれてスマホに目を落としているユウからだった。


『おめでとう。一歩前進』


 私は、直ぐさま返信した。


『ナイスツッコミ、サンキュ』


 ユウは、スマホに目を落としたまま微笑んだ。



   ◆◆◆

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