7.ずっと待っていてくれた
でも、音の方角をよく見ると、ひょっこりと立ち上がったのはクマではなく、服を着た二匹のレッサーパンダだった。
星の明かりでも姿がはっきりと見える。背丈は、私より頭一つ低い。右に立っているレッサーパンダは、鳥打ち帽子を被っている。左に立っているレッサーパンダは、服にエプロンをつけている。この動物の二足歩行姿は、どう見ても着ぐるみとしか思えない。
「もう一度やる決心が付いたかのう?」
右側のレッサーパンダが、おじいさんのような声で訊いてきた。
「向こうにあなたの家があるわよ。あなたが戻ってくるまで、ずっと守っていたの」
左側のレッサーパンダが、木々の奥を指さし、目を細めておばあさんのような声で言う。
普通なら、「動物がしゃべった!」って仰天するところだが、ゲームの世界にいるからか、何も不思議に思わない。
決心が付いたかというと、ついていない。何せ、今やめようとしていたのだから。
でも、私の家があって、その家を守っていてくれたと言われると、たとえゲーム上の台詞とはいえ、感謝の気持ちで胸が一杯になる。
「あ、あのぅ……、見せてもらって……いいですか?」
ゲームの世界にいることはわかっているのに、なぜか恐る恐る答える私。
「もちろんよ。さあ、こちらへいらっしゃい」
二匹は木々の間に吸い込まれるように去って行った。私は、その姿を見失わないように慌てて立ち上がり、お尻を叩いて後を追う。
木々を抜けると、目の前に木造の家が現れた。私は立ち止まり、思わず声を上げた。
「なんて素敵な家!」