68.誰も起こしてはならぬ
朝の強い光がカーテンのわずかな隙間から差し込み、ちょうど私の顔の辺りを照らす。その光の筋がジリジリと顔の上を移動して、まだ寝ていたい私の閉じている瞼に到達する。
いくら固く瞼を閉じても難なく通り抜けるこの光線は、体が欲する眠りを妨げる。太陽に意地悪をされた私は、頭を左右に振り、クマのぬいぐるみを盾にした。
ところが、今度は静寂が支配する部屋の空気をかき回すような目覚ましのアラーム音が、耳の中に飛び込んだ。私は、体をねじ曲げて不快を露わにする。
あの綺麗な流れ星に「今日も良いことがありますように」と願ったのに、気持ちの良い目覚めを与えてくれないのは、所詮はおまけの流れ星だったからなのか。
(神様のいじわる……)
クマだけではなくパンダのぬいぐるみも引き寄せて、両耳をぬいぐるみの体で塞いでみたが防音効果はない。怒りが沸騰した私はベッドから跳ね起き、机の上にある律儀者の時計の上から手のひらを叩き降ろす。
(私を起こすな! もっと寝かせて!)
これで安眠をむさぼれるはずだったが、程なくして全面降伏する時がやって来た。
ラスボスとなった母親の目を覚ませと呼ぶ声に、横たえて間もない体をいやいやながら起こす羽目になったのだ。
おっくうな着替えを終えてテーブルの定位置に着席し、大きなあくびをして、手のひらで口を押さえる。
真っ黒に焦げて苦いトーストの隅をかじり、ぬるくなったココアをすすり、半生の目玉焼きを箸で突いてため息をついていると、テーブルの端に置いてあったスマホが「ポコン」と音を立ててメールの到着を知らせる。
何だろうと思って受信ボックスを開いてみると、ユウからだった。まだ朦朧とする頭が、次の短い文章を理解しようとする。
『今日どうする?』
(何だっけ??)
これだけでは意味がわからないと思われたのか、書いている途中で送ってしまったからなのか、続きのメールが来た。
『班の集まり』
彼女の言葉の意味を悟った私は、にわかに目が覚めた。何度も返信の文章を書き直して、継ぎ足しては削りを繰り返した挙げ句、出来た返信がこれ。
『頑張る』
急いで送信ボタンをタップした。
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