65.恐ろしい夢
ゲームから抜けて眠りについた後、またしても夢を見てしまった。
夢の中の私は、モロヘイヤが生長しているのをしゃがんで眺めていた。葉っぱをツンツンと突いて、匂いを嗅いで、ニコニコしている。
オークさんが近づいてきて「次は何の種がいいかのう」と希望を聞いてきたので、「先日、嵐でやられた作物をリベンジしたい」と伝えると「じゃあ、それにするかのう」と言って柵の扉を開けて外へ出て行った。町に種を買いに行ったのだろう。
オークさんの背中を見送っていると、彼と道ですれ違ってこちらに向かって歩いてくる人が見えた。大きな麦わら帽子を被り、ノースリーブの黒いワンピースに身を包む黒髪ロングヘアの女性だ。
ところが、その女性が近づいてくると、夢を客観的に見ている私はゾゾッとした。彼女の面長の顔が無数の斜線で隠されていたからだ。鉛筆を使って一筆書きでグシャグシャに書いたかのように。
その女性を迎える夢の中の私は『従業員を募集していないのに』と思っているだけで、彼女の異様な顔を不思議に思っていない。
その女性は柵の前に立ち「あなた、めぐみじゃなくてあやでしょう?」と言う。夢の中の私は、『ゲームの中で実名を聞かれても困る』と思い、その問いには答えない。女性は腹が立ったらしく、「本当は、あやなんでしょう!?」と語気を荒げる。
夢の中の私は立ち上がる。
「何のことでしょう?」
「迷惑なのよ! メグ美農園って名前をつけて!」
女性は麦わら帽子を放り投げると、ロングヘアの黒髪がフワッと広がった。そして首が伸び、服が学校の制服に早変わりし、顔を隠していたグシャグシャの斜線が消えた。
現れたのは、よそのクラスの恵美さんだった。
「それは私の名前!! 勝手に使わないで!!」
夢の中の私は総毛立ち、息を飲んだ。肺の中に過剰な空気が入り込み、息が詰まる。それで苦しくなり、夢の中の私を見ていた私自身が、またもや飛び起きてしまった。
薄暗い部屋のベッドの上で、ゲホゲホと咳き込む。農園の名前を変えなければと思ってヘッドギアを慌ててつかんだ私は、突然の恵美さんの出現に、今頃になって悪寒が走った。
ヘッドギアを持つ両手が震える。その震えは、そこが震源地となって全身に伝搬し、ブルブルと震えた。
「名前……を……変え……な……きゃ」
顎がガクガクして、言葉が途切れる。
なぜこんな怖い夢を見たのだろう。
ベッドの上で正座をし、深呼吸をしたが、震えは一向に収まらない。酷寒の中に放り出されたように小刻みに震えて、歯がカチカチと音を立てる。
(寝るのが怖い……)
どうすれば眠れるだろう。考えが頭の中を堂々巡りするだけで、無駄な時間が過ぎていく。
窓の外から新聞配達のバイクの音がブロロロと聞こえてきた。午前3時。でも、ますます目が冴える。
(もう一度ゲームに戻ろう)
私はヘッドギアを装着し、農場ゲームに接続し直した。
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