57.怖い夢
嵐が収まらないので、私たち四人は明日はここの世界の時間で12時頃――現実世界では21時頃――に会うことを約束した。彼女たちは、体の正面に指で終了画面を出現させてタップする。
ゲームから抜けるときにどうなるのかは、自分自身では見ることが出来ない。それでみんながどうなるのかを見るために最後に抜けることにした。
終了画面を表示させたままみんなに向かって手を振っていると、三人とも金色の光の筒のようなものが床からスーッと上がってきて、包み込まれた全身が虹色にキラキラと輝いて消え、筒がスーッと下がっていった。なるほど。私もこうやって消えるのだと思いつつ、終了画面をタップした。
その日の夜、夢を見た。
現実的な光景が目の前に広がっているが、明らかに夢であるとわかったのは、ゲームを抜けたはずなのにまだコテージの中にいたからだ。
夢を見ているとわかっていても、どんな出来事を脳細胞が映像として作り出そうとしているのか興味が湧いたので、そのまま見ていることにした。だって、それが私の深層心理なのだから。こんな風に、客観的に夢を見るのは久しぶりだ。
夢の中の私は、テーブルに着席しているエレナさん、テレーザさん、カレンさんの三人に向かって何の躊躇もなく具体的な固有名詞で問いかける。
「みなさん、○○女学校の一年○組の生徒ですよね?」
何とストレートな聞き方をする夢の中の私。ドキドキしているのはその夢を見ている私の方だ。
当然、三人はお互いに顔を見合わせるも、こちらを向いて頷く。『やっぱりね』と思う夢の中の私は、さらに畳みかける。
「英さん、美さん、椎さんですよね?」
あー、ついに言ってしまった。夢の中の私は、『今に認めるはず』と思っている。すると、彼女たちはそれには答えなかった。
ところが、エレナさんがポケットからスマホを取り出し、テレーザさんはどこからかノートと鉛筆を取り出し、カレンさんはポケットからヘッドホンを取り出した。
「ほら、やっぱりそうじゃないですか」
すると、三人がこちらを向いて声を揃えた。
「「「あなたは、恵美さんじゃないですか?」」」
違う。それは他のクラスの生徒だ。
それでも夢の中の私は、心臓がズキンと跳ね上がって痛みを伴う。それが驚くほどリアルだったので、夢の中の私を見ていた私自身が飛び起きてしまった。
豆電球だけが付いている薄暗い部屋のベッドの上で、上半身を起こして両手で胸を押さえた。しかし、ハアハア、ゼエゼエと荒い呼吸が止まらない。そんな息に挟まれて、言葉が漏れた。
「私は……恵美さん……なんかじゃない……」
なぜ、こんな奇妙な夢を見たのだろう。
これが私の深層心理なのだろうか。
この時から、私は三人の正体は誰だろうという好奇心を封印しようと試みた。しかし、何度も力を込めて蓋をしても、ムクムクと湧いてくるのだった。