54.ボス戦の勝利
学校で良いことがあったおかげなのか、「アール・ドゥ・レペ」のボス戦は大きく前進した。
攻撃の仕方をいろいろ変えることにより、ドラゴンの反撃の癖をようやくつかんだ私たちは、フォーメーションを一部変えて隙を突くことにした。
私は囮となって攻撃するのだが、もう一人の囮となった仲間が別の角度から攻撃してドラゴンの気を引くと、そちらへ無理に首を向ける一瞬に、防御結界に穴が開いてガラ空きになる――ただし、すぐに再生する――箇所がある。ここを私がピンポイントで攻撃するのだ。
特大の火の槍を用意してその機会を待つが、針の穴に1回で糸を通すくらい難しいので心臓がバクバクする。チャンスが来たら、コンマ5秒の躊躇も許されない。すると、もう一人の自分が心の中で「出来るわけがないだろ」と囁いてくる。
(ええい、黙れえええええっ! 弱気な自分!)
自分で自分を一喝した時、ドラゴンの防御結界がガラ空きになる瞬間が訪れた。
条件反射のように火の槍を投げると、防御結界が再生して穴が閉じ始めた。
(間に合えええええっ!!)
閉じる結界をこするように槍が滑り込み、ドラゴンの体内へ深く突き刺さる。苦悶の表情のドラゴンが絶叫してもだえ、反撃が弱まった。
弱まったとは言え、まともに攻撃を受ければかなりのダメージを食らう。かといって、接近しないことには剣が届かない。
こうなると、互いにHPを削りながらの接近戦に持ち込むしかない。つまり、どちらが先にHPがゼロになるかの勝負。私たち全員が力を惜しまず、猛攻を間断なく続けた。
ついに、ドラゴンが地響きを立てて倒れ、大量の光の粒をまき散らして消滅した。
たくさんの報酬を得て、レベルも上がり、私たちはハイタッチをして酒場に繰り出す。
当然、流れ的には次のクエストに挑むのだが、私は「都合により、しばらくイン出来ない」と伝えて辞退した。まさか、林間学校にヘッドギアを持ち込むわけにはいかないからだ。なお、ノアールのリアルが高校生とは言えず「林間学校」は「都合」とぼかした。
実際の林間学校はまだ先の話だが、クエストが始まってから「実は」と切り出すよりは相手に迷惑をかけない。人数が少なければそれに応じたクエストを選ぶことになるからだ。
すると、仲間は私が長期出張にでも出ると思ったのか、「本業を優先してくれ」と許可してくれた。
快諾してくれて嬉しかったが、寂しくもあった。仲間の顔もちょっぴり寂しそうだった。
一応、長めに2週間の休みをもらうことにした。理由は、林間学校とその準備の時間に加えて、少し農場ゲームに集中する時間と休息が欲しかったからだ。もちろん、RPGが飽きたからではない。さすがに両方を連日やっていると疲れるし、深夜続きで母親から怒られているというのもある。
寂しそうな仲間を見て「都合が付いたら早く戻るかも知れない」と伝えた。こういう気遣いは、現実世界の自分に備わっている気遣いだ。
(林間学校が終わるまでの暫しの別れ。……そうか。農場ゲームもそうなるな。寂しい)
乾杯で掲げた祝杯を持つ手が急に重くなった。
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