53.全員と話が出来た
それから、頬に流れる涙を手の甲で拭きつつ、急いで屋上へと階段を駆け上がる。
すっかり晴れ上がった青空が、屋上の水たまりを光らせる。私は椎さんを探すためグルッと回ると、出入り口の向きと反対側の金網フェンスにもたれる彼女を発見した。
彼女は私を見つけると、両方のポケットに突っ込んでいた手を出して、ヘッドフォンを外した。授業中以外、外したことがないのにである。
私は「ごめんなさい、遅くなって」と言って彼女の方へ駆け寄った。すると、彼女は「私こそ、ごめんなさい!」と早口に言ってペコンと頭を下げた。そして、「ううん、もっとごめんなさい!」とさらに頭を下げる。
「気にしないで。大丈夫だから」
彼女はゆっくり頭を上げ、私を直視するのが恥ずかしいという顔をする。
「レクの件でしょ? 担任に呼び出されたの。私が逃げてるからよね?」
「平気平気」
「私、みんなにいっぱい迷惑かけてる。私、すぐ音楽に逃げちゃうから」
「大丈夫。今度、みんなで集まろう。ね?」
「う……うん。私、頑張ってみる」
彼女はそう言って、水たまりを飛び越えながら走り去った。
その姿は、私の滲む視界の中から消えた。
涙を拭いた私は、抜けるような青空に向かって両手を目一杯広げた。
「話が出来たあああああっ! 頑張ったあああああっ!」
そう叫びながら、何度もジャンプした。
心地よい風が体を包み込む。
(そうだ。今日は早めにオークさんたちみんなに会いに行こう)
私は、野菜でいっぱいの農園を思い浮かべて期待に胸を膨らませた。
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