51.よそのクラスの生徒
その直後、私の後方で教室の扉が開いた。振り返ると、黒髪のロングヘアで長身の生徒がこちらに向かって歩いてくる。面長で首も長く、睨み付けるような顔をしているのが怖い。前から時々見かける、よそのクラスの生徒だ。
二人で廊下の窓際に移動して道を空けると、開けっぱなしのドアから二人の生徒が飛び出して長身の生徒を追いかけた。その一人がこう言った。
「恵美! 待って!」
私はギョッとした。自分の名前ではないのに「めぐみ」という言葉にどうしても反応してしまうのだ。彼女たちは、もちろん私たちに用があるのではなく、そのまま廊下の向こうへ消えていった。
姿が見えなくなるまで見送った後、私はつぶやいた。
「あの人、今まで知らなかったけど、めぐみって言うんだ」
私の方を振り向いた英さんが、「そう、恵と同じ恵の字に美術の美で恵美。あいつ、こえー奴だぜ」と笑う。
「確かに。なんかすごく怖そうな人だったし」
「ちょっとしたことでキレるらしい。仲直りするのは大変だぜ」
なぜか私は、英さんの「仲直りするのは大変だぜ」という言葉が心に残った。
ふと窓の外を見ると、雲の晴れ間が見えてきた。雨も小降りになり、邪魔になった長い傘を持ちながら帰ることになりそうだ。
「あのさぁ」
「何?」
「早くトイレ行ったら?」
「ごめんなさい!」
「そこは、ごめんなさいじゃないし。謝られる理由もないし」
また英さんが笑った。