5.やめた理由を思い出す
ここでの私の名前は「メグ美」。
なるほど。最初にプレイしたとき、どうしても「恵」を「あや」と読ませるのを避けたみたい。素直に「めぐみ」と読んでもらいたいという気持ちの表れだろう。ただ、ちょっとひねって「メグ美」にしたのは、実名が「恵美」という漢字であることを連想させて、下の本当の名前の「恵」からそらすためか。
オンラインゲームでは、誰がプレイしているかわからず、仲間が実は身近な知り合いかも知れないからだ。
顔は丸顔で、何かのアニメのキャラに似ている。髪の毛はスイートハニーゴールドのツインテール。なぜこの色のツインテを選んだのか、理解に苦しむ。まあ、チェリーブロッサム、ベビーピンクよりはいいか。これなら、ピーチブロンドでもよかったかも。
服は、当たり前だが、今見えているのと同じ。チェック柄は確かに赤で、スカーフはレモン色だった。長靴は、雨靴みたい。
これ、どう見ても、おばさんが家庭菜園に出かけました的なラフな格好。私的には、中の下のコーデだ。
指先を画面に滑らせると絵が回転して後ろ姿も見えるが、モデルの試着服と違って、見ても意外に面白くない。
所持金は1,000,000PT。PTってポイントの略? でも、なぜポイント?
所持している農機具は、鍬、スコップ、フォーク、鎌、斧、のこぎり。これらの道具を使って、今ここで何をしろと?
と、その時、私の眠っていたゲームの記憶の一部が呼び起こされた。
(そうだ、思い出した! これで何をしていいかわからなくて、やめたんだ!)
私は、原野に放り出された開拓民ではない。この草むらを開墾する以前に、住む家がない。食料だってない。
異世界に転移した小説で、主人公がこういう場所に放り出された設定もあるとは思うけど、VRゲームでわざわざここからスタートさせるのは、お金を取るコンテンツとしてはどうかと思う。
(やめようかしら……)
昔もこう思ったであろう気持ちが、心の中を過った。