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メグ美農園の収穫祭へようこそ(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
第2章 スローライフとビジーライフ
49/150

49.もうリアルでは誰なのかを詮索しない

 ところで、エレナさんは本当に(えい)さんなのだろうか?


 なんだか、それ前提で今まで考えてきた気がするけど、もう一度冷静になって考えると「その確率はゼロではない」くらいしか今は言えないことに気づく。


 メグ美という名前に似た知り合いがいて、彼女に謝りたいが謝れないという話が、日本中見渡しても私と(えい)さんだけの話だというのなら、間違いないのだが。


 エレナさんが(えい)さんだったらどうしようという焦りが、二人が同一人物だという憶測を生み出したようにも思えてきた。


 もちろん、ゲームの世界で相手の実名を()くわけにもいかないし、今日学校であった事も()くわけにはいかない。


 と言いつつも、誰なのだろうという好奇心が(まさ)ってしまい、「()くわけにもいかない」という気持ちが押さえ込まれ、制御できなくなった私の口からポロッと出てしまった。


「そういえば、仲直りできました?」


 急にエレナさんの笑顔が消えた。想定外の質問に言葉を失ったようにも見えるし、今ここで()くことかと言いたそうにも見える。「しまった」と思ったが、もう手遅れだ。


 彼女は困惑する表情を見せた。万事休す――と思っていると、


「一応は謝ったけど……思ったようには言えず、すっきりしなくて……」


 心残りだという表情を見せて彼女はうつむいた。


「でも言えたから良かったですね」


「そうだけど……」


 彼女は顔を少し上げた。


「なんか、気を遣わせちゃったみたいで、悪いなぁっと……。本当は『ごめんなさい!』って、きちんと謝って頭を下げたかったんだけど、下げられなくって」


 また言葉遣いが変わった。()が出るとこういう言葉遣いになるのかも。


 私は屋上の情景を思い出した。あの時は周囲の目があったので、馴れ合いを避ける彼女を貫き通すため、頭を下げられなかったのではないか。そう考えれば合点がいく。


「大丈夫ですよ。相手の方も、納得したと思いますよ」


「そう思いたい……」


 なんか、話が暗くなっていく。こうなったきっかけは私だ。なんとかしないと。


 と、その時、エレナさんが意を決したような顔をして声をあげた。


「あのー、普通のしゃべり方でいい? 疲れるから」


「どうぞ」


 急に肩の荷が下りたという表情を見せて、フーッと息を吐くエレナさん。


「初対面の人に丁寧語を使ってたんだけど、慣れないし、疲れるし、続けらんない。ごめん。今後はこのしゃべり方で行くから」


「いいですよ」


「あー、スッキリしたぁ!」


 彼女はそう言って、頭を掻きながら笑った。ちょうど風が吹いてきて、野菜たちが笑うように揺れた。



 私は、彼女に一歩近づけたような気がして嬉しかった。


 最初に戻ろう。エレナさんは(えい)さんかどうか?


 それは、もう詮索しないことにする。


 このゲームの世界では、エレナさんはエレナさんとして接して、友達になろう。


 私はそう決心した。



   ◆◆◆


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