47.謝罪
英さんは、またユウたちを振り返った。声が聞こえる距離ではないのだけど、風に乗って話し声が聞こえるのではないかと、かなり心配している様子だ。
正面に向き直った彼女は眉をひそめ、なんて言おうかと逡巡している。ここは、変に声をかけない方がいい。
長い沈黙の後、彼女が口を開いた。
「レク決めでさぁ……その……あの……」
声がだんだん弱くなっていくので、グラウンドから聞こえてくる野球部やサッカー部のかけ声にかき消されそうだ。
でも、私は聞き返さない。何を言いたいのかわかるからだ。
彼女が不安そうな顔を見せたので、聞こえているよという意思表示を言葉で伝える。それには、この二文字でいい。
「はい」
「うちらの新米教師に……怒られたみたいで、ご……ごめん」
最後の方はよく聞き取れなかった。でも、彼女なりの精一杯の謝罪だ。私は一気に緊張から解放され、全身の力がフワッと抜けていく。
「ううん。平気」
「何やるか、あやめぐに任せるから。も、もちろん、レクのことだけど」
「はい」
「それと……、あのさ、訳あって、馴れ合う態度は取れないけど、協力はすっからさ」
「ありがとう」
「じゃ」
クルッと背を向けて去って行く英さんは、ユウたち立会人に見送られて小走りに階段を下りていった。
彼女の背中にエレナさんの姿を重ね合わせる私は、緊張でもの凄く疲れて座り込みたくなった。駆け寄ってくるユウたちの質問攻めに遭うも、屋上に吹く風は清々しかった。
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