45.変わらない三人
翌朝、寝坊してしまったので、母親が朝食に用意したトーストもくわえず、走りに走った。ジャムとかバターとかをたっぷり塗ったトーストをくわえて歩道を走るという、よく漫画とかにありがちな行為はしない。
前にそれを試してみたら、くわえたパンが走る振動で揺れ、ジャムが垂れて手も服も汚れたのだ。食べながら歩くならまだしも、食べながら走るのは器用じゃないと無理だと思う。
空腹を抱えて走っていると、ふと自分の農園での出来事を思い出した。
あれから耕してばかりで、終わったのは現実世界で午前1時を回った頃だった。もう寝なければと思って落ちることにしたので、残念ながら種を蒔くところを見ることが出来なかった。エレナさんたちは、もう少し見ていくと言っていたが、寝坊していないだろうか。
カラーピーマンと唐辛子はオークさんたちに任せて、14時頃そちらに行くとだけ伝えた。それは、現実世界の23時に相当する。15時間ずれているからだ。
その前にVRMMORPGのボス戦は終わっているだろう。カラーピーマンと唐辛子が花をつけたところから見られるのか、実をつけたところから見られるのかは、きっとコニーリアさんたちが考えてくれる。とても楽しみだ。
教室に駆け込むと、肩で息をする私の方を見て友達が手を振って次々と挨拶をしてくれる。たくさんの視線をシャワーのように浴びるのはいつものことだ。
でも私の視線は、例の三人の方に向いている。
残念ながら彼女たちは横を向いていたが、一瞬こちらを見たような気がする。
それから、いつもの通りに時間が流れ、三人には何一つ変化がなかった。
(やっぱり、気のせいだったのね……)
ゲームの世界に同じ学校の同じクラスの生徒が、しかも話が出来ずに困っている三人が現れるなんて、偶然にしては出来すぎているし。
その望み薄の偶然に期待した私が馬鹿だった。
授業が終わると、三人はさっさと帰って行った。最後の最後まで一縷の望みを捨てなかった私だが、さすがに大きなため息をついて肩を落とした。そこに友達のユウとアケミが近づいてきた。