35.オーナーが従業員を希望してやって来た
柵の向こうから見ていた人は、私の服と同じ柄で薄い青の服を着た、亜麻色のポニーテールで可愛い女の子だった。見学に来た感じもするが、何か言いたそうな素振りを見せるので、私は笑顔で近づいて声をかけた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
声は低く、落ち着いた感じが年上を連想させる。照れ屋さんなのか、頬がほんのり赤い。
「見学ですか? もしよかったら、中に入って見ていきませんか?」
「あ、あのー……」
「はい?」
「従業員を募集しているみたいですけど、雇ってもらえますか?」
「え? ……ちょっと待ってくださいね」
私はオークさんの所に駆け寄り、従業員募集を見てやって来た人がいると話したら、「わしが募集したのじゃ。今でも募集中じゃ」とのこと。山羊のカプラさんとウサギのコニーリアさんに続いて、今度は動物じゃない人間が応募に来たということか。
「このゲームには動物さんだけじゃなく、人間も登場するのですね」
「いや、人間なら、それはオーナーのはずじゃが」
彼の意外な言葉に、私は目を丸くする。
「オーナーですよ!? プレイヤー自身が従業員になることがあるのですか!?」
「ある。自分の農場経営を諦めると、外の農園で従業員として働けるようになっておるのじゃ」
「お食事は? お給料は?」
「不要じゃよ。1PTも要らん。一種の手弁当、ただ働きじゃ」
「なぜですか?」
「このゲームが最初に出来たときは、従業員として働く他のオーナーの食事代を負担したり給料を払ったりしていたのじゃが、大食らいで食事代が膨らんだり、給料を上げろとかのトラブルが起きたので、費用の負担をやめてしまったのじゃ」
「そうなんですか。もし途中で変なオーナーとわかってやめさせたい場合は?」
「リストに『解雇』と登録するのじゃ。すると、二度とこの農場には来られなくなる」
一種のブラックリストのようだ。そこに載ったオーナーが農園にアクセスできなくなるのだろう。
(さて、どうしよう……)
アバターで性格を判断するのは難しい。なので、ちょっと質問してみて、答え方で変な人かを判断しよう。もし見破れず、雇った後に変な人だとわかったら解雇すればいい。
彼女は近づく私をジッと見つめ、本当に雇ってくれるのだろうかと、心配そうな顔をしている。おそらく悪い人ではないと思うけど、いかんせん、アバターが可愛いのでそっちに引きずられて内面が読めない。
「私はメグ美です。あなたのお名前は?」
「エレナです。メグ美さんって、メグ美農園の名前そのままなのですね」
「どうしてここへ? なぜ従業員に応募したのですか?」