30.また新しい作物を植えました
RPGゲームには酒場がよく似合う。それは、VRMMOでもだ。でも私は、ゲームの世界でもお酒を飲まない。なので、女魔法使いノアールは、ブラッドオレンジジュースが好物という設定で通している。「アール・ドゥ・レペ」で仲間と丸テーブルを囲んで、狩りの後の反省会名目で一杯飲むのは、格別なひとときだ。
いつもの通り、仲間がお仕事あるあるで盛り上がっているので黙っていると、突然、矛先がこちらに向けられた。
「ノアール氏。そのスッキリした顔、イヤなことをぶちまけて塩をまいてきたとかですかな?」
「あ……ああ、アドバイスが効いたみたいだ。ありがとう」
なんだかんだで気遣ってくれるのが嬉しい。
もしかして、あの三人は、こうやって声をかけてもらうのを待っているのだろうか。でも、声かけを受け入れるのか拒否のままなのかは、端から見ただけではわからないので大いに困る。
なんだか、原因はここ――相手の気持ちがわからないこと――にあるような気がしてきた。だから、話すきっかけが欲しい。
話しにくいっていう理由から、いつまでも離れて見ているわけにはいかないようだ。
◆◆◆
昨日と同じ時間に農場ゲームにダイブすると、またもやコテージのお誕生日席に座っていた。ゲームから落ちるときはいつもこの部屋だから、どうもここが今ゲームにインするときの定位置になるらしい。
ここに来ると、RPGのワクワク感とはちょっと違う期待感が溢れてくる。一日に二回もゲームの楽しみが待っているのだから、幸せである。
ドアの外へ出ると、今日もいい天気。カボチャのあったところに緑の筋がいくつもある。ナスのあったところは黄色みの強い緑が覆っている。今度は何を植えたのだろう。
「こんにちは」
しゃがんで作物の様子を見ていたオークさんたち四人のところへ手を振りながら向かっていくと、全員が一斉に立ち上がって手を振ってくれた。コニーリアさんがニコニコしながら腰に両手を当てる。
「やっぱり、この時間に来たわね。私の思った通りよ。今度は、その時間に合うように、実が生っているところ見てもらおうと、どちらも15時間前に植えてみたの。
まず、あっちがニンジン」
そう言って、緑の筋がある方を指さす。細くて長い葉っぱがいっぱいあるが、その下に黄色みがある赤色の丸い物が地面からチロッと覗いている。それが列を成しているのだ。
「そして、こっちはサツマイモ」
今度は、黄緑の丸い葉が地面を覆い尽くすほどいっぱいある方を指さす。なんとなく枯れ始めているように見える。
また新しい作物を植えてくれた。
私はワクワク感が止まらなかった。