29.担任の叱責
翌日の放課後、職員室へ呼び出された。不機嫌そうに腕を組んで指を動かす担任の先生は、今年から初めてクラスを受け持つことになった若い女の先生。
さっきから子供っぽい声でしきりに怒っているのだけど、『私だって生徒を怒れます』って周囲に聞こえるようにアピールしているのがありありと見える。だって、こっちを見ているかとおもったら、学年主任の方を見ていたり、先輩の先生の方を見ていたり。
先生は、私の班が会話すら出来ていない原因を私に押しつけ、叱責する。でもそれは、自分の手に負えない生徒がいることへの不満を解消しているとしか思えない。
自分を私と置き換えて、出来ない自分を端から見て怒っているみたいな感じ。駄目な自分を怒る代わりに私を怒る。身代わりも甚だしい。
三人が人と接するのを拒絶しているのだから、そもそもが班行動は無理。なのに、それは私が心を開かないからだと言う。友達として迎え入れないからだとも言う。
反論するのも飽きてきた。無駄だ、こんな先生にエネルギーを使うなんて。
他のクラスの先生が見かねて間に立ってくれなかったら、延々と説教され、職員室の最後の二人になっていたかも知れない。
怒りの目を向ける担任と同情の目を向ける諸先生の視線を背中に浴びて職員室を出る。
(ああ、駄目だ、この先生……。扱いやすい生徒にしか接しないから、こんな教室になってしまっていることを、何もわかっちゃいない。……自分で手を下さない典型だ)
職員室から教室に戻ると、何人もの友達が心配して待っていてくれた。ところが、その友達の間隙の向こうに、あの三人の姿が見えた。一瞬だが、彼女たちは私の方を見てすぐに目をそらし、そそくさと教室を出て行った。
(三人とも何をしていたのだろう……)
気のせいだと思うが、全員がばつが悪そうな目をしていた。
私は、今ここに担任の先生が入ってきても全然構わない気持ちで、不満をぶちまけた。イヤなことはイヤと言葉に出さないと、毒素となって体の中で対流し続ける気がしたからだ。
三人がいなくなったので、職員室で言われたことを洗いざらいぶちまけて真情を吐露する私に、友達がたくさんの慰めの言葉をかけてくれた。
嬉しかった。涙が出るほど嬉しかった。友達も同情して泣いてくれた。
あの三人がこんな友達みたいになってくれるのだろうか……。
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